はぐれフォレストウルフ②
あれからすぐにはぐれフォレストウルフが見つかると思っていた。
ティラノが得意の鼻で簡単に見つけられるはずだった。
しかし、周辺を歩きまわっているのに、手がかりすら見つけられなかった。
あれから数時間歩きっぱなしで、疲労もたまってきていた。
「ティラノ。ごめんな。お前に頼り切った捜索をしてしまったばっかりに、色んなことが後手後手になってしまっている。とにかく、そろそろ日が落ちるからどこかで野営が出来る場所を探すことにしよう」
本来であれば、範囲を決めてエリアを潰していくことが捜索の基本だったのに、
ティラノの鼻を優先させたためにむやみやたらに移動しただけだった。
しかも、昼食を取らずに強行したことで、本来、周辺で狩りをして食事を確保するはずが、
ティラノの食事として、移動しながら2日分の非常食を食べきってしまった。
ティラノの食欲と食事量が半端ない。
体のサイズも大きくなって、肉の量もそれなりに必要だというのはわかっていた。
はぐれフォレストウルフをすぐに討伐してその肉を食べさせれば済むと、
気軽に考えていたのが甘かったのだ。
「本当に何年冒険者やってきたんだ。馬鹿か俺はっ!」
自分の不覚を罵りながら、腰の水筒を手に取って、口を付けた。
やばい。
・・・・なんてことをしてしまったんだ。
腰の水筒の水が3分の1を切っていたのだ。
森には緑があるから水分補給は簡単に思えるが、実際は緑からの水分補給は難しい。
なので、捜索する時はある程度、水が補給できる場所を確保しておく必要があった。
フォレストウルフの死体があまりにも簡単に処理できたことで、油断しすぎていた。
冒険者としての基本すら忘れてしまっていた。
「くそぉっ、やっちまったよ」
キャオッ・・キャオッ・・とティラノが慰めるように鳴き声を上げてくれた。
「そうだな。やっちまったもんは仕方がない。ないものはないんだ・・・。分かった、ティラノ。これからがスタートだ」
これまでの冒険の中で、失敗する事も多くあった。
今回のような失敗も腐るほど経験してきた。
今こそ、その経験を生かすべきだと、反省しつつ上を向いた。
「現状の確認だ。非常食は無い。はぐれフォレストウルフは後2匹はいる。水は3分の1残っている。でも、近くに水場もない。もう後数時間で日が暮れる・・・ふぅ、なんだか少し落ち着いてきた」
計画通りに進まない事で、予想以上に焦り、
その結果、状況を理解できなくなっていたようだ。
そこで一度足元を見直して落ち着くことにしたが、とりあえず成功したようだ。
まだ、討伐初日だ。
水も残ってる。
非常食はないが、今日の分は補給している。
そして、夜はモンスター達が活発になるので、近くで手早く野営の準備をするだけだ。
よし、落ち着いてきた。
明日できることは、明日に回して、安全に野営ができる場所を探すとしよう。
「太陽が沈んでいるのが、向こうだから町はあっちだ。だとすると・・・」
方向を確認して、川の位置を予想した。
現在の場所からすぐに向かうことは出来ないが、
明日の朝1番で出発すれば、昼過ぎには何とかなるだろう。
方向は定まったが、野営をする場所が見つからなかった。
森の中で周囲の状況が分かり難い場所での野営は夜中にモンスターに襲われる危険があった。
そこで、何とか背後からの奇襲を避けられる場所を探した。
少しづつ視界が減っていく中で何とか大岩を発見した。
「ティラノ、今日はとりあえずこの大岩の陰で野営をすることにする。任せろ。これでもDランク冒険者だぞ」
キャオッ
話しの内容が通じているかどうかわからないが、ティラノは返事をしてくれた。
火打ち石を使って、焚火の準備を完了させると大岩に背を預けて座り込んだ。
自分は水筒の水で唇を濡らして、残りの半分をティラノに飲ませた。
ティラノのステータスはスライムと同等だ。
フォレストウルフの1撃で命が尽きてしまう。
それを考えると今夜は寝ずの番だなと心に決めた。
ただ、こんな時に一人でもパーティメンバーがいれば野営での安心感が上がるのになと考えていた。
そして、ふっと浮かんだのが最初のパーティメンバーだった。
ミレイは弱気になった自分をいつも励ましてくれた。
シャナトは少し冷たい所があったが、それでも、戦闘時の連携は安心できた。
「あの頃が懐かしいな」
キャオッ
今は自分がパーティメンバーだぞとでも言ってるかのようにティラノは鳴き声を上げた。
「そうだな。今はお前がいるから俺は全然さみしくないぞ」
ガサッガサッ
ティスは奥の木の所から物音がしたので、側においていた剣を拾うと警戒してかまえた。
「ふぁぁ・・風か。脅かすなよ・・・」
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