たき火
う~ん。
眠れない。
いや、少し仮眠は取れたけど、目が覚めてしまったわ。
それにしても、窮屈だわ。
それにしても、何なのサリナって子は見た目はほっそりと見えるのに、胸もおしりもボリュームがありすぎるのよね。
密着しているからちょっと窮屈なんだよ。
テントの割り振りでは、アイリスがティラノと一緒に寝ると言い張っていたが、結局はティスに連れていかれちゃったもんで、不機嫌になり一人で寝てしまったんだよ。
おかけで、少し小さめのテントにサリナと一緒に寝ることになった。
疲労もあり最初は良かったんだけど、すぐに目が覚めてしまった。
それから眠れない時間が続いているっていう訳。
ミレイはすぐにでもテントから出て外に行きたかったが、外にいるのはティスであの後、結局謝罪できないままでいた。
そして、気まずさからティスの所に行くことも出来ないでいたのだ。
ねぇ、ミレイ。
何やってるのよ。
ティスの所に行って、昔の事を謝るだけじゃない。
それなのに、何を戸惑っているの。
いまなら、邪魔する者もいないから丁度いいじゃない。
行くのよミレイ。
さあ、行って謝るのよ。
神官ミレイは自分の中で、言い聞かせていた。
しかし、今外で謝っても、ティスが許してくれなくて、ティスからこれまでの苦しみを訴えられたら・・・・。
私はそれを受け止めることができるの!?
いいえ、受け止める必要なんてないわ。
断られても仕方がないって、王都を出る時に、何があっても構わないって決めたじゃない。
今がチャンスよ。
この機会を逃したら逆に言いづらくなるだけじゃないの。
さあ、いくのよ。
ミレイ。
寝返りすらしにくい、窮屈なテントの中でミレイは必死にもがいていた。
心も、体も・・・。
「決めた!」
ミレイは小さくつぶやくと、ごそごそとテントから出ようとして、むくりと体をおこした。
「・・・みれい・・さん。トイレですかぁ。むにゃむにゃ・・・」
ドキィィ・・・。
ミレイの声に返すようにサリナが話しかけてきて、サリナの腕が自分の体の上に乗っかってきた。
その腕をゆっくりと戻して気づかないようにテントから這い出て来た。
ふぅ・・・。
テントの外は肌寒く、顔や体を流れる空気が冷たく感じた。
しかし、テントの中でぎゅうぎゅうになり、どちらかというと暑い位だったので、外の空気の冷たさが丁度良く感じた。
しかも、この冷たさのおかげで頭もすっきりとなり、ティスに声をかける気持ちもしっかりと固めることが出来た。
ミレイはほっぺたをぺチリとたたくと、焚火の方を見た。
そこにはティスとティラノが戯れている姿が見えた。
「ティスとティラノは本当に仲がいいのね。あんなに嬉しそうなティスは・・・・・」
ミレイは嬉しそうなティスの顔を見て固まっていた。
記憶の中にあるティスの顔はいつも苦しそうだったのだ。
だけど、ミレイの中にもうれしそうなティスの顔の記憶があった。
それは、パーティーを組み始めたころだった。
シャナトの初級雷魔法、ミレイの初級回復魔法、そして、戦士のティスの3人だった。
ティスはいつも壁役に徹していた。
シャナトの雷魔法が強力だったこともあり、しかし、強力だった故に、ティスは戦士としての立ち回りを行うことが出来ないことがしばしばだった。
ギルドの依頼をこなすことが出来て、パーティーランクは上がって行ったが、シャナトばかり強くなって、ティスは弱った魔物がようやく近づいてきた時にそれを倒すというよりも、ほとんど駆除する程度の働きが続いていたのだ。
それでも、ギルドの依頼を達成した時や、ティスが戦士としての立ち回りを行えた時には嬉しそうにしていた。
そういえば、ティスの戦士としての成長を阻害していたのは、私達のパーティのせいだったのかもしれない。
そんなことにも気づかずに私達はティスを追放したのね。
なんてことをしたんだろう。
本当にごめんなさい。
ティス。
ミレイはゆっくりと足元に目をやり、踏み出した。
たき火の光のせいだけでなく、足元が少しだけ見える位には明るくなってきていた。
もうすぐ朝ね。
経験的に朝日が見えるようになるまで、まだ数時間は残っていると思ったが、アイリスとサリナが目を覚ます前に話だけでもしておきたいと考えた。
ミレイはゆっくりと歩き出して、ティスに近づいた。
「ねぇ、ティスくん。今いいかしら」
「ひゃ、はっ・・はいぃぃ~~」
ティスはこんな時間に声をかけられるとは思ってなくて心臓が止まるかと思うくらいに驚いていた。
後ろ向きに倒れて、さかさまになっているティス。
そのお腹の上からキョトンとこちらを見ているティラノ。
その姿がとてもおかしくてミレイは思わずプフゥッと噴き出していた。
「ねぇ。ティス。見張りなのに驚きすぎじゃない!?そんなんで見張りなんか務まるのかな!?ふふっ」
ミレイは半分笑いながらティスに向かって注意をしていた。
「い・・いや、ちょっと、ティスと戯れて・・・いいや、違う。そうだね。ちょっと気を抜きすぎていたみたいだ。ごめん」
なんだ、ティスはティラノと戯れていた姿を見られてそれで恥ずかしかったんだ。
「ううん。いいのよ。なんだか久しぶりだね」
「ああ、そうだね」
ティスは顔を背けながら小さくつぶやいた。
あっ、やっぱり。
私とはこうして話をするのも嫌なのかな。
ミレイはティスのそっけない態度に次の言葉をどうしたらいいか迷っていた。
一方、ティスは・・・
ちょっとミレイさん。
気づいていないのかな。
神官服脱いでいるでしょ。
そんな薄着でこっちに来るなんて・・・。
しかも、なんだか密着していて形が・・・。
しかも、少しだけど歩きながら揺れてるんですけど・・・。
ちょっと、目のやり場に困るので、これ以上近づかないで欲しいんですけど・・。
「ねぇ、ティス・・・」
「ちょっと待って、ミレイ。それ以上近づかないで」
「え・・・・あ・・・・」
ミレイはようやく絞り出した声を制止されたために次に出す言葉に詰まってしまった。
しばらくの間、暗闇の中にあるのは焚火の光と木の弾ける音だけがその空間を包み込んでいた。
キャオッキャオッ
沈黙した空間を破るようにティラノから強めの鳴き声が発せられた。
そして、ティラノはティスの体から飛び降りて一つの方向をにらむように見ていた。
その動作に一拍遅れるように上空からスモールバットがバサバサと飛んできた。
そして、テントの周りでくるくると回りだして、キィキィと騒ぎ立てていた。
「何!?ティス。どうしたの。あのスモールバットは何!?」
「あのスモールバットはたぶんサリナの従魔だよ。何か、警戒を知らせてるに違いない。ミレイ装備を整えて移動できるようにした方がいい。たぶん、気づいていると思うけど、アイリスとサリナにも声をかけて下さい」
「そうね。分かったわ」
ミレイの声は何だか少し寂しそうに聞こえなくもなかった。
しかし、やはりBランク冒険者だから、きっとこの後の行動を考えながら答えているんだろうとティスは感じた。
ふっ~~、これで何とかこの場は凌げた。
ミレイは無警戒にもほどがあるよ。
あんなに美人なんだからちょっとは警戒してほしいんだけど・・・。
これでも、俺は男なんだからね。
ティスは出来るだけミレイの方を見ずに伝えると、ティラノの眺めている方角に目を向けた。
「なんだろう。嫌な予感がする」




