野営
「ミレイっ・・・神官ミレイっ!聞いているニャンよ?」
猫獣人のアイリスは下を向いてブツブツ言っている元『ライトニングバレット』の神官ミレイに再度声をかけた。
「はっ、はい。ティスく・・・・いっ、いいえ。何か、何か言いましたかアイリスさん」
ミレイはティスに謝罪する事ばかり考えていたので、思わず声に出てしまいそうになったが、かろうじていい留まったかに見えた。
チラッとティスの方を見て気づいていないようだったので、少しホッとしていた。
「だから~、これから野営の準備がいるけどミレイは宿泊道具をもってなさそうだニャン。だから、ティスくんも心配しているニャンよ」
アイリスは少しイラついたようにミレイに再度伝えていた。
「アイリスさん。僕自身が人の心配をしている場合じゃないので、そんな偉そうに聞こえるように伝えないでくださいよぉ~」
ティスは感動の再会がそうではなかったことで少し気まずい雰囲気になっていた事を気にして弁解をした。
その言葉に最初に反応したのはやっぱりサリナさんだった。
「そうですよ。アイリスっ!ティ・・・さんと・・・わ・・・は、いっ・・しょに過ご・・・すんだから・・・」
ティスはサリナさんの後半の言葉は良く聞こえなかったが、自分に同意してくれた事はわかった。
「サリナさんも言っているように、僕も宿泊道具がないので今晩をどう乗り切るか考えないといけないんですよ」
女性陣と違って、ティスは日帰りの予定だったので、そもそも宿泊の準備はしていなかった。
西の荒野は日中の暑さとは変わって、夜は急激に温度が下がる。何の準備もなしに野宿できる場所ではなかった。
ミレイは走って荷物のある所まで行き、自分の荷物をごそごそと確認し始めた。
「あっ、ありますよ。宿泊道具・・・・・って、あれ・・・無いかも!?あーーーーーそう言えば、サンドスネークから逃げている途中に落としていまってますーーーーーっ」
神官ミレイは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに大きな声を出していた。
なぜか同じくらい顔を真っ赤にしたサリナがわずかに聞こえる位の大きさの声で優しく話しかけた。
「ミレイさん。アイリスのテントが少し大きいのでそちらにどうぞ。私はティラノと一緒に寝ますから。いいですよね?ティスさん。それに、どうしてもっていうのなら・・・一緒でも・・・」
今、今一緒にって言った!?
俺がサリナさんと一緒に寝るっていうの?
冒険者用のテントは基本一人用だから狭いはずだけど・・・
密着・・・!
「サリナ違うニャン。ティラノは私とねる。だからサリナとミレイが一緒ニャン。ティスは男だから見張りね。いいニャン!!」
猫獣人のアイリスはバッサリと的確に判断を下していた。
さすが高ランク冒険者だけはあるなと感じた。
ただし、ティラノを確保したのは少し違う気がしたが、誰も何も言えなかった。
「アイリスさんとティラノが一緒なのは困りますが、当然僕が見張りで問題ありませんし、火の番をしますので任せて下さい」
ティラノのマスターとしてアイリスさんとティラノが一緒なのには少しだけ反対したが、その後、野営の場所を決めてサクッと宿泊の準備を整えた。
夕食はサンドスネークを火であぶるだけの簡単調理で済ませて、早めに就寝準備に入った。
食べ終えた後、残った3匹のサンドスネークをどうするか考える必要があると思っていたが、アイリスさんはマジックバッグ持ちで討伐証明部位と外皮は綺麗に解体して、マジックバッグにしまっていた。
そして余ったサンドスネークの肉は全て焼却ということになった。
理由としては肉を残していると、それにつられた小型の魔物が集まり、その小型の魔物を狙う大きめの魔物を誘ってしまう。
だから、基本的に焼却するのが普通だそうだ。
ティラノは全部食べていたから気にしてなかった。
それならと思いティラノ用に1匹分をお願いしたら、皆、目を丸くして驚いていた。
残った肉はアイリスさんが火魔法で綺麗に焼却処分ていた。
やはり、アイリスさんは火魔法を上手に扱えていた。おそらく、ティラノが上級魔法を持っていたのはアイリスさんで間違いないと思う。
それならアイリスさんも"魔法融合"をもっているということか。
さすがAランク冒険者にもなればすごい才能があるんだぁ。
すごいなぁ。
だけど・・・・。
そんな魔法を取得したティラノはこれからどうなっていくんだろう。
◆◇
パチッ、パチパチッ
太陽は完全に沈んでしまって、どれくらいたつだろう。
辺りは真っ暗でたき火の炎で揺らめいていた。
ティスはたき火の不規則な音を聞きながら、炎を眺めていた。
ふっとこのゆったりとした時間と場所に思い出したことがあった。
最近は日帰りでの討伐依頼をこなすことが多くて、それに、ランクアップ試験などで日々がとても忙しく続いていた。
そう言えば、こんな風に野営をするのは久しぶりだな。
最後に野営したのは・・・、
そうだ!”はぐれフォレストウルフの討伐”の時だ。
あの時は一人だったのに、野営中に眠り込んでしまうという失態を冒してしまったんだよなぁ。
「そう言えば・・・ティラノ?あの時、フォレストウルフ達と戦ったのは何だったんだろうな。”変身”を持つお前の変化した姿なのかとずっと考えていたんだが、実際はどうなんだ?」
アイリスさんから無理やり引っぺがしてきたティラノを抱っこしながら話しかけた。
キャオッキャオッ。
いつもと変わらずに目をパチクリさせながら返事をしている。
だけど、わかってないよなぁ。
ティラノはモンスターだし、
話しかけてもこんな難しい話は通じないんだろうな。
今のティラノならあの時変身して助けてくれたと思っても納得できるんだが・・・。
あの時はまだ小さかったし、やっぱり、夢!?に出て来た岩トカゲの主が正解なのかもしれない。
そう言えばティラノはあれからほとんど大きくなってないよな。
今で丁度ひざ下位の大きさしかないもんな。
強さやスピードに魔法の能力は格段に向上しているんだけど。
大きさだけは一向に変化してないように思えるよ。
まあ、真っ白だったうぶ毛のような体毛は少し長くなりしっかりしてきている。生え方は特に変わってないが、撫でた時のさらさらツルツル感も同じだ。
少し違っている所としては、毛先が若干茶色が入ってきているため、全体的には白いんだが、見方によっては薄ピンクに見えなくもない。
抱っこしているとほんのり暖かくて、キョロキョロしている様子を見ているといつまでたっても見飽きない。
う~~~ん。
やっぱり、ティラノは可愛いなぁ。
ティラノをなでなでしたり、ぎゅ~ってしたりと可愛がっている所で後ろのテントの方から声がした。
「ねぇ、ティスくん。今いいかしら」
後ろから突然声をかけられて、ティスはドキッとして驚きつつも、声のした方を向いた。




