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レイリア

「まだ、受験者らしき冒険者は来てないな」


 ギルド会館裏の大型モンスター解体所は普段はあまり使われない場所だった。


 解体所という名前があるが、日常的には冒険者同士がパーティ内で連携を組む際や新しく覚えた魔法やスキルを使用することが多い。


 受付に申し込めば、無料で貸し出ししてくれるのも初級冒険者には優しいシステムとなっていた。


 ティスは余った時間をどうしようか考えた。


 ティラノとの連携は岩トカゲ討伐で実践訓練ができていたので、今更する必要も見られない。


 天気も良いし、時間もあるので木陰でゆっくり休んでいることにした。


「この後、ランクアップ試験があるとは思えないなぁ~」


 ティスはティラノを両ひざの上に乗せて、頭をゆっくりと撫でていた。


「お前はあれから全然大きくならないな。色々と強くなっているから成長はしているはずなんだがどうなっているんだ!?」


 2度の急成長以後、目立って大きくなった印象は受けなかった。


 ただ、なんとなくしっかりしてきたように見えなくもない位だった。


「あれっ、ティラノ。お前、口の中の牙が2本だけ大きくなってないか!?」


 口の中なのではっきりと見ることはなかったが、時間があったので色々と観察していると口の中の牙が2本少しだけ大きくなっていて、それと、手と足の爪がほんの少しだけ鋭くなっているように見えた。


「あんまり気づかなかったが、ティラノも少しづつ成長しているんだな。いや、少しづつじゃないか・・・こないだのアイリスの時に少し成長したのかもしれないな」


 木陰でゴロゴロしながら、ティラノを観察していた。


「ねぇ、ねぇ、ねぇっ!何?なんなの!?それは、いったい何なの!?もしかして、モンスターなの?」


 左側からいきなり女の子の声で質問が飛んできた。


 少し、騒がしくて、キンキンとした声色だった。


 なんだか少しめんどくさいなと思ったが、顔を上げて声のした方を見た。


 赤い髪の毛を無造作に伸ばしていて、防具などは汚れていた。

 女の子なのにあまり綺麗にしているようには見えなかった。

 しかし、顔は少しきつめな感じに見えるが、美少女であるのは間違いなさそうだ。

 だが、なぜか腰に手を添えて仁王立ちで立っていいるんだ!?


 腰にはシミターを下げていたが、三角帽に少し濃いめの赤紫色のハーフマントを羽織っていたので、一見すると魔法師のように見えなくもない感じだった。


「ねぇ、質問に答えてくれないの!それはいったい何なの!?」


「こいつはモンスターで名前はティラノだ。だけど、君は突然やってきて、その言い方はあまり関心出来るものではないと思うけどね」


 注意するのも面倒だったが、言いぐさがあんまりだったので少しだけ不快感を乗せて促してみた。


「はっ、ごめんなさい。そのモンスターみたいなものがあまりにも可愛かったからついうっかり聞いちゃってた。本当にごめんなさい・・・です」


 偉そうにしていたかと思うと、急に深々と頭を下げておじぎをしてきた。


 自分に正直なのかうっかり屋さんなのかわからないが、見た目に反して真面目な子なんだろうと思えなくもなかった。


「それから、私の名前はレイリアって言うんだけど、今日のランクアップ試験を受ける為に来たのね。そしたら、初めてみる生き物がいるじゃない。しかも、遠くからでも可愛さが際立っていたから思わず来ちゃったんだよ」


 へぇ、この子は今日のランクアップ試験の受験者の一人か!

 それにしても、聞いてもないことを色々と騒がしいなぁ。

 でも、一応聞かれたことに返事はしたからこれでいいよね。


「ふ~ん。でも、質問には答えたからこれでいいでしょ」


「そうなの。ティラノっているのね。それにしても、可愛いわね」


 何なんだこの子、人の話を聞かないのか!?

 ちょっとめんどくさい子なのか。

 試験の前でゆっくりしたいんだけど、放っておいてもらえないかな。


「えっと・・・あの・・・可愛いわね」


 レイリアは変わらず仁王立ちのまま可愛いを繰り返していた。


 ティラノの事を可愛いって言ってくれるのは嬉しいんだけど、何で仁王立ちなんだ。


「もしかして、ティラノを近くで見たいのか?」


「い・・・いいえ。・・・どうしても・・・そうよ、どうしても見て欲しいなら見てあげるわよ」


 ははーーーん。

 強気な発言の裏には、話しかけたけど、その先どうしようか迷っているんだろうな。

 それなら、親切にしてあげないといけないよな。

 俺も試験前でゆっくりしたいし・・・。


「別に見て欲しいわけじゃないからこの場から離れていいぞ」


 すると、目の前の少女は突然グスグスと泣き出した。


 えっ、何で!?

 何で泣き出した!?

 ティラノが可愛いといっていたけど、別に見なくてもいいって言ったよな。

 だから、親切にこの場の空気を読んで親切に離れやすくしたのに・・・。

 もしかして・・・違うのか!?

 仁王立ちは変わらないけど・・・・なぜ!?


「あの・・ですね・・・なんで、泣き出してるんだ?」


「だって・・・だって・・・その子を近くで見たいのに・・グスッ・・だ・・ダメだって・・」


 何なんだ。

 この子感情の起伏が激しすぎるんだけど・・・。

 情緒不安定なのか!?

 試験前にめんどくさいやつに絡まれちゃったなぁ。

 ティラノを可愛いを言ってくれることには共感できるんだが・・・。


「もしかして、ティラノを近くで見たいのか?」


 そう言えば、さっきと同じ質問だけど、やっぱり返事は同じなのかな。


「いい・・の。側によって見ても、そして、なでなでしてもいいの!?」


 なでなでしていいとは言っていないが・・・急接近だな。

 まあ、いいんだけど。


「最初から素直にそう言ってくれればいいのに」


「最初からそう言っているじゃないの!でも、いいのよね。側によってもいいのよね」


「どうぞ」


 そう言うと、仁王立ちを止めて小走りで俺の真横までやってきた。

 そして、しゃがみこむとティラノを優しくなでなでしていた。


「可愛いわね。頭をなでなでしても嫌がらないのね」


 側に来ると、石鹸のいい匂いがした。

 防具は汚れているが、体は綺麗にしているみたいだ。

 汚い恰好やあのぶっきらぼうな言い回しはもしかすると何か理由があるのかもしれないと感じた。

 ただ、この子が触ってもティラノがピカーしなかったのはなぜなんだろう。

読んでいただきありがとうございます。


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