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トムじいさんの店②

 これが、トムじいさんと初めてあった日の出来事だった。


 あれから10年以上の付き合いがあるが、あの日どうして声をかけてきたのかを何度か尋ねたけど一度も答えてはくれなかった。


 もしかすると高級品店での出来事を見ていたのかもしれない。

 もしくは、ただ、新人冒険者であった俺に声をかけてきただけかもしれない。


 それでも、新人だった俺に冒険者のイロハを教えてくれて、色んな悩みや相談に乗ってくれたのはこのトムじいさんだった。


 そして、今、涙を流して喜んでくれているのも同じトムじいさんだ。


「そうか、そうか。それはわしもうれしいぞ。そうじゃ、お祝いに今日は何を買っていくんじゃ?」


「ちょっと、トムじいさん。お祝いって、それは何かくれるんじゃないのか!?」


「何を言っとるんじゃ。それはそれ、これはこれじゃよ。商売はそんなに簡単なもんじゃないんだぞ」


「けっ、業突く張りの欲張りじじいがっ!!」


「あ~あ。あんなに小さくて純粋だったティス坊が、こんなに恩知らずになってのぉ。わしは悲しいぞ」


「ほっとけやいっ!」


 ティスは10年以上もずっと通ったのに、相変わらずだとちょっと感動して損したと思っていた。


「そうじゃ、ちょっと待っとれ」


「うるさい。俺は忙しいんだ。もう帰る」


「いいから、ちょっと待っとれっ!」


 ティスは帰るつもりはなかったが、少し意地悪のつもりで返事をすると、トムじいさんは最初にあった時と変わらない強さで怒鳴ってきた。


 当時のようにビビったりすることはなかったが、トムじいさんは店の奥に入っていったのを見届けると、ティスはおとなしく待つことにした。


「なんだよなぁ、ティラノ。あのじじい、やさしさの欠片もない言い草だよな」


 中々出てこないので、待っている間に店の中をティラノと一緒に見て回った。


「あっ、これは俺が最初に購入した武器と同じショートソードだ。あの頃はロングソードが欲しかったんだが、あのじじいはショートソードにしろってうるさくてな。しかたなく、ショートソードにしたんだ」


 店の入り口においてあったショートソードを見ながらティラノに説明をした。


「それからDランクに上がった時にロングソードが欲しいといったんだが、それでも、あのじじいはショートソードにしろって言って、売ってくれなかったんだ。客商売のやることじゃないと思わないか?・・・そう言えば、初めてのショートソードがぼろぼろになり、買い替えると言ったら、あのじじいメンテナンスをしてやるから出せって言って買い替えさせてもくれなかったんだぞ。本当、不思議なじじいだった」


「だれが不思議なじじいじゃ」


「げっ、聞こえてたのか?」


 トムじいさんは奥から出てきて俺の話を聞いていたみたいで、文句を言って来た。


「ティス。ほらっ、祝いじゃ。受け取れっ!」


 トムじいさんはそう言うと、布にくるまれたものを手渡してきた。


「なんだよ。祝いはくれないんじゃなかっ・・・・・・・」


 ティスは文句を言いながら、トムじいさんから渡された布をめくった。


 そして、その中にロングソードが入っていたのを見て言葉に詰まっていた。


「トムじいさん・・・・これ・・・」


「受け取れ、わしの最後の作品じゃ。まあ、大したもんは作れんかったがの・・・」


 トムじいさんは大したもんではないといったが、ティスの手の中にあったのは、ミスリルで出来たロングソードだった。


 ティスはそれを両手で握り構えると、きらびやかな装飾はなかったが、ティスの手に吸い付くようにしっかりと馴染んで、バランスもとても良くて、まるでティスの為に作られたようなものだった。


「・・・あり・・・がとうご・・・ざいます。・・・一生の宝にします・・・」


 ティスは両手でミスリルソードを抱えると深く頭を下げた。


「おお、明日のランクアップ試験頑張るんじゃよ」


「はははっ、俺はビーストテイマーだから頑張るのはこのティラノだけどね」


「そうじゃったの。ふぉふぉふぉっ。そのちびっこいのも頑張るんじゃぞ」

 キャオッキャオッ

 ティラノも気持ちが通じたのか元気に返事をしていた。


 こうしてショートソードとミスリルソードを2本抱えてトムじいさんの店を出た。


「あっ、防具を買うのを忘れてた。それに、ティラノの武器も相談を・・・・まあ、いいか。今日はこれくらいで、Cランク冒険者なったらその報告がてら相談に行こう」


 ドンッ!!


 トムじいさんの店を出てすぐに歩いている冒険者の方にぶつかった。


「あっ、すっ・・すいません」


「何ぼさーーっと歩いていんだよ。前むいて歩けよな。今の俺は大事な体なんだ。気をつけろやっ!」


 目の前にいたのは15歳か16歳くらいの戦士タイプの男だった。

 腰に長剣を刺して、背中には盾を背負っていた。


 気の短そうな印象でちょっと当たったくらいで乱暴に文句を言って来た。


 俺はあまり関わりをもっても嫌だったので、もう一度謝罪をしてその場を立ち去ろうとした。


「なんだ!きさまも冒険者かっ!弱っちそうなペットを連れておままごと冒険者かぁ、はははっ。偉そうにロングソードなんかもちやがって、おっさんはペットの散歩でもしてろってんだ」


「おまっ・・・いや、すまなかった。気をつけるよ。じゃあな」


 粋がった小僧だったが、明日の為にここでトラブルを起こしても嫌だと思ってその場を後にした。



読んでいただきありがとうございます。


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