遭難と出会い
地図がない世界。決まった範囲だけでの生活じゃつまらない!
誰もが好きな場所に行けるように、広い世界を見られるように!
地の加護を受けた少年の世界地図作成の物語。
「よしっ!今日はこのくらいにしとこうかな。」
見渡す限りの森。その中で少し不自然な高さの丘にいる少年は地面から手を離し、そう呟いた。
「いやー、だいぶ奥まできちゃったな。今日のうちに帰れるか微妙な所だ…。」
森を歩きながら、時折地面に触れ、少年は進んでいく。
陽の光も届きにくい深い森の中を迷いなく進む。
「まぁ、アイルが心配するだけだから、あとで謝ればいいけど…ちょっと急ぐか!」
早足での帰り道、方向の確認をしているとある事に気づいた。
「…この反応は…猿…じゃないな。人だ。」
人里離れたこの深い森。普通の人間では太刀打ち出来ないような獣も多くいるこの場所で、自分とアイル以外の人がいる事はほぼない。
危険なのは誰もが知っているし、なにより帰れなくなる事がほとんどだからだ。
「アイルなら俺の所に来るだろうし…誰だ?確認しにいくかー。あー…今日のうちに帰るのは厳しそうだ。」
500M程離れた人の反応がある方向を目指す。
人の反応があった場所に近づくと、ボロボロになってはいるが、それでもしっかりとした服装の男が周りを警戒しながらゆっくりと歩いていた。
「お、やっぱり人だ!
おーい!あんた誰だー!どっから来たんだー?」
「っ!!な、何者だお前は!近づくな!」
こちらの声に気づき、警戒をしながら少し刃が欠けた剣を向けてきた。
「おぉ!俺はモア!別に襲ったりとかはしないぞ?
この辺に人がいる事なんて滅多にないから心配してきたんだけど、余計だったか?」
「あっ…そうか…すまない。久しぶりの人間で驚いてしまったんだ…」
男は少し警戒を解いてくれたようで、剣を下げてくれた。
「私の名前はルクス。…もう何日かは忘れてしまったが、この森を調査している途中で…遭難したんだ。」
「モア…申し訳ないんだが、水を持っていたらくれないか?食事は果物などでなんとかなったんだが、水だけは…」
ルクスは少し衰弱していた。この辺りは食べられる果実などは多く実っているが、川は近くにはない。
果実で取れる水分だけだと喉は渇くのだろう。
「ほい!あるだけなら全部飲んでいいよ!」
水の入った筒を受け取ると、ルクスは一気に飲み干した。
「っはぁー。助かった…。あっ、こんな森の中で貴重な水だったんじゃないか?」
「大丈夫大丈夫!帰れば飲めるし」
「そうだ!モア!どうやって私を見つけたんだ?こんな深い森の中、人間を見つけるなんて不可能だろ!」
「あー、なんて説明すればいいんだ?なんていうか、こう地面に触れるとだいたい5000Mくらいの範囲の地形が把握できて、1000Mくらいならなにがあるかわかるんだよなー」
「は?どういうことだ?」
「んー、そうだなー…ちょっと待ってろー」
そういうとモアは地面に手を触れ…紙を出し、なにかを書き出した。
「ち、ちょっと待て!それはなんだ?」
「これは『MAP』!俺の力で地形を把握できるし、行った事ある場所にポイントって言って、目印つけたりしてこの付近の場所や川とか村を図にした物だ!」
モアは自慢げにそう言った。
「そ、そんなことができるのか…だが、自分の今の場所や目指す方向がわからなかったら使えなくないか?」
「地形がわかるって言ったろ?高くなってる地面とかがあって高低差でだいたい自分の位置がわかるんだ!5000Mくらい探知すればほぼ正確に現在地がわかるぞ」
「そのさっきから言ってるMっていうのはなんなんだ?」
「1Mが俺のガキの頃の身長だな!」
そういって、線を引いて1Mを測ってみせた。
「こ、こんな範囲が地面に触れただけでわかるのか?とてもじゃないが信じられん…」
「まーそうだよな!最初はみんな信じてくれなかったし…
ルクスは遭難したんだよな?1人じゃ帰れないだろうし、近くの村に案内するよ。」
「あぁ、それは助かるんだが…」
「ちなみに現在地はここ!んで、一番近い村はナンコ村だからここ!これを見ながら一緒に行こうぜ!」
モアはMAPを見せながらルクスを案内する事にした。