古代ギリシャの線文字A(7.ファイストスの円盤)
〇8月3日、後段の(6)時計回りの新解釈、の中で、「テーセウスのアテネ帰還」の末尾に加筆しました。
〇7月13日、「ファイストスの円盤」の「角」記号(26)につき、古典ギリシャ語を参考に、RJA⇒ KE/RJA、と音価を修正。
1.ファイストスの円盤(ヘラクリオン考古学博物館所蔵)
1908年にクレタ島南部の遺跡、ファイストス宮殿の敷地内で、イタリアの研究者L.ペルニエの発見した焼成粘土の円盤で、直径が約16センチ、厚さ約2.1センチ。印鑑の様な物で絵文字が刻印され、クノッソス宮殿の発掘に携わった英国のA.エヴァンズが01~45の番号を付している。文字は渦巻状に円盤の淵から中央に向かい、時計回りに旋回。その形を辿れば、A、B両面とも、ヘビがとぐろを巻いた形で、中心部が頭である。これを先ず時計回りに、次いで(AU-NI-TI-NOの頻出に着目し)逆方向に読み、双方を合わせてみた。
(1)Gareth Owens の公開音読(時計回り)
2014年、英国出身でギリシャ在住の考古学者・言語学者G.オウェンズは、You-tubeに円盤の文字列の公開音読を発表し、以下はその記録である。一つの文字列で、最後の記号の下に斜線がある場合、「/」で示した。KA⇒ QAと表記。
(A面)
I-QE-PA-JE-RJU / E-TU-QE AU-DI-TI / AU-AU-PI
I-QE-NWA-TU-SA WA-DI-TI-QE WA-(44)-NO I-QE-KE-RJU-NE
KU-RJA-TE I-QE-(41)-DA-TE JE-(41)-TU-TI I-QE-RA-NA-QA.
RE-TWE I-WA-DWA- ZO-NA-RJU JO-JE / I-QE-KU-RJA /
I-QE-WA-WA-TE-RAI-SWI SA-NA I-QE-KU-RJA /
I-WA-DWA- ZO-NA-RJU JO-JE / I-QE-KU-RJA /
I-QE-WA-TA-RA-RJU-WA KE-RJU-(17)-DA KU-RJA-QE
I-QE-PA-JE NA-DA-TE /
ZO-U-QA I-QE-WA-WA-TE-RAI-SWI PA-JE ZO-U-QA
(B面)
I-QE-(22)-TU-TI WA-DI-TI-TE I-RAI-NA-PU /
(22)-DWA-WA SA-E-NE-QE ZE-NA-RJU-TJA /
PA-JE-RE-SA SO-TI-PA-JE-RJU
(22)-RAI-(42)-DWA TI-E-TU-TE I-RJA-NI-TU
WA-DWA-QA-JE (文字列は、ここから円盤の内側に入っていく)
AU-E-E-NE-TE ZE-TA-RJU AU-SA-JE
KE-TE-RA-RE-SA I-PE-WA-JE AU-NI-TI-NO / AU-NO-PA
AU-DI-TI / (22)-AU-NI-TI-NO / WA-PI-NA-DWA TI-RJU-TE
TI-DI-TI / TI-NA-RJU-E (22)-AU-NI-TI-NO / PE-QUI-RE-RJU-TI
I-KE-TE-NA-TI AU-PI-NA-DWA DI-TI /
(2)音価の調整
(ア)Gareth Owensによる各絵文字の音価は、次の通り。
(01)JE・・・ (11) TWE・・・ (21) SWI・・ (31) KU・・ (41) ?
(02)I ・・・ (12) QUE・・・ (22) ?・・・ (32) RA・・・ (42) ?
(03)U ・・・ (13) PA・・・ (23) NA・・・ (33) SA・・ (43) TJA
(04)NWA ・・ (14) TA・・・ (24) E・・・ (34) PI・・・ (44) ?
(05)PU・・・ (15) SO・・・ (25) DWA・・ (35) TE・・ (45) DI
(06)KE ・・・ (16) ZE・・・ (26) RJA・・・ (36) NI
(07)TI ・・・ (17) ?・・・・ (27) WA ・・・ (37) RAI
(08)NO ・・ (18) RJU・・・ (28) YO・・・ (38) QA
(09)PE・・・ (19) DA・・・ (29) AU・・・ (39) RE
(10)ZO・・・ (20) NE・・・ (30) QUI・・・ (40) TU
(イ)音価の不明な絵文字に関し、以下の通り修正した。
(17) 弓 ⇒ JU
(22)木/幹。線文字AのSA(AB31)が逆さなので「三」⇒ SA / MI
(41)骨 ⇒ KO(骨)
(42)鋸の記号 [線文字AのZE(AB74)に類似] ⇒ ZE
(44)弁 ⇒ BE/BEN
(ウ)音価の適合性が、不十分な事例につき、次の通り修正。
(1)歩く人 : JE ⇒ TRE (古典ギリシャ語で、走る)
(5)赤ん坊: PU⇒ YA
(6)女性/母親 : KE⇒ GYU/GYUNE (古典ギリシャ語で、女性)
(16)オクラの様な記号 : ZE⇒ SE
(24)立派な建物 [線文字AのDE(AB45)に類似] : E⇒ DE
(26) 動物の角(一本):古典ギリシャ語でKERASと捉えると、双方向から読めるので、RJA⇒ KE/RJA。
(27) 4つ足動物の皮 : WA⇒ KA/KAWA
(32)ライチョウ、鳥 : RA⇒ RA/TO
(33)魚 : SAKANA
(39)三つ又に分かれた植物 : RE⇒ RE/MITE/SATE
(3)読解対策
〇 P ⇒ HあるいはK (P音は日本語では古語の発音)
〇 絵文字の下の斜線「/」は、区画の中を順・逆の双方向で続けて(2重に)読む印と理解した。
〇 記号I(02)(パンク・ヘアの若者)が言葉の末尾に来る場合、適宜、MI、NIやRIに読み換えた。
(4)時計回りの解釈
「I-QE-KU-RJA」が頻出するが、「池に来りゃ」/「引けくりゃ」(掛け声)/「幾重来りゃ」/「活けくりゃ」「生けくりゃ」などと解釈可能。読み進むうちに、池にイカダを出して漕ぐ人物が主人公で、「池」とは、海の洞窟と判明した。
(A面)
[A01] I-QE-PA-TRE-RJU / DE-TU-QE AU-DI-TI /
いけ はてる/ パトレ流-ゆって、はえり でつ け/へ あうじち-ちちおう
行け、果てるまで/ 父親殺し流、と池に入る、で突け/ 地獄(ヘズ、Hades)へ!
会う父は、父王/ 偉大な父を信じよう。
AU-AU-PI I-QE-NWA-TU-SAKANA
あおあおき いけ なつ さかんな
おお青き 池は夏の盛り
KA-DI-TI-QE KAWA-(BE)-NO I-QE-GYU/ GYUNE-RJU-NE
かじ ち へ 川辺の 池、蹴るね/ くねるね
と感じて、かの地へ 洞窟の川辺を 蹴って進む、くねる池
KU-KE/RJA-TE [A10] I-QE-(KO)-DA-TE TRE-(KO)-TU-TI I-QE- RA/TO -NA-QA
てくりゃ いえ、こうだって で、こっち いけとなか
と来りゃ。 「いえ、こうだって」、「で、こっち」行けと泣かされて
(円盤の外側を一周し、内側に入る)
[A13] RE/MITE/SATE-TWE (SI)I-KA-DWA- ZO-NA-RJU JO-TRE / I-QE-KU-(KE/RJA)/
されて チェッしかどわぞなりう よて-てよ いけくりや、けいりゃくへ
チェッ!鹿戸が(ギィーと)鳴り響く、よ-て…「て-よ」と。池来りゃ計略で。
(注1)[A14]に関し、冒頭のI記号の「鼻先」には、短く、垂直な支線(SI)があるので、前半を(SI)I-KA-DWA 「鹿戸は」と読み、鹿の鳴き声の表現とした。
I-QE-KA-KA-TE-RAI-SWI SAKANA-NA I-QE-KU-(KE/RJA)/
池が語らいし、 魚だ! 「池来りゃ、計略で」
[A20] I-KAWA-DWA- ZO-NA-RJU JO-TRE/ I-QE-KU-(KE/RJA)/
イカダ/岩戸が鳴り響く、よ-て……「テ-よ」(注2)と。池来りゃ、計略で。
(注2)「テーセウスよ!」。
I-QE-KA-TA-TO/RA-RJU-KA GYUNE-RJU-(JU)-DA KU-KE/RJA-QE
池が、語っているのか。 くねる遊びだ、計略へ
I-QE-PA-TRE NA-DA-TE /
いけパトレ なだて-だな
「行け、父親殺しめ」 何だって?「だんな」
ZO-U-KA I-QE-KA-KA-TE-RAI-SWI PA-TRE [A31] ZO-U-KA
そうか、 池が語らいし。 「父の子孫よ」 そうか!
(B面)
[B01] I-QE-(MI)-TU-TI KA-DI-TI-TE
(アテナイの)池の満潮で/ を見ながら 感じてしまい
I-RAI- NA-YA / (SA)-DWA-KA SAKANA-DE-NE-QE SE-NA-RJU-TJA /
いらいなやならいさたか さかん/なかさんでねえ せなりゅちゃ-やゆなぜ
絶望し、身投げされたとは、情けない。「泣かさんでくれ、そんな理由だ。
何故、揶揄するのか。
PA-TRE-RE/MITE/SATE-SAKANA SO-TI-PA-TRE-RJU
父の子孫よ、さて盛んな そちパトレ流
父の子孫よ、(勢い)盛んな そちは、父親殺し流だ。
(SA)-RAI-(ZE)-DWA [B10] TI-DE-TU-TE I-KE/RJA-NI-TU
さらいぜ とは ちでえつて いやにつ。
おさらいするのは、 酷い話で嫌になる。
KA-DWA-QA-TRE AU-DE-DE-NE-TE
あとは 勝って、 王として、宮殿にて」
(文字列は、円盤の内側に入る)
[B14] SE-TA-RJU AU-SAKANA-TRE GYU-TE-TO/RA-RE/MITE/SATE-SAKANA
知っている。 お情けで言っている、と見て。勢い盛んな。
I-PE-KA-TRE AU-NI-TI-NO / AU-NO-PA
いえ、勝て。 あうにち-のちにあう あうのは
「いや、勝て。互いの合う日、後に会うから」 会う相手は
[B20] AU-DI-TI / (SA)-AU-NI-TI-NO /
あうちち-しじあう さ あうにち、のちにあうさ
偉大な父。信じよう、「ある日、後に会うさ」との言葉を。
KA-PI-NA-DWA TI-RJU-TE
か ひな とは 散る/ちゆて/知る。天
その時、小さな辰/戸 は 散る/癒される/知る だろう。
TI-DI-TI / TI-NA-RJU-DE (MI/SA)-AU-NI-TI-NO /
地、信じ、父 しなるで み あうにち のちにあうさ
天地を信じれば、父の しなる腕 ゆえ、相応しい日、後に会うさ、
PE-QUI-RE/MITE/SATE-RJU-TI
へきれる地。
遠く離れた所で。
I-GYU-TE-NA-TI AU-PI-NA-DWA
ひくて なし 大きなとは
(もはや王位から)退く手はない。夜空の大きな辰/戸 は、
[B30] DI-TI /
父! 父に違いないから!
以上から、B面の末尾(中心)の「DI-TI」の文字列を漫画と見做せば、海面近くに現れた北斗七星と解釈できる。テーセウスは、海の洞窟の中で父王アイゲウスの亡霊の声を聞き、外に出たら北斗七星が現れたので、父王の姿と感じて絶句したのだろう。父王を「大きな辰/戸」(AU-PI-NA-DWA)、自分を「小さな辰/戸」(PI-NA-DWA)と表現しているが、それぞれ北斗七星と小熊座の柄杓に相当する。
北極星は、紀元前1793年-前1000年の当時、歳差運動のため竜座κ星にあり、徐々に小熊座のβ星に移った。竜座κ星は、北斗七星と小熊座の柄杓の間にあり、このため二つの柄杓が、北極星を探す道標だった。
(注)B面中央の文字列DI-TIを更に分析すれば、「TI」+「逆読み記号」が、兜を被ったテーセウス。「DI」が、しなる枝の様なアイゲウス王、と解釈できる。
(参考)紀元前3世紀のギリシャの詩人アラタスは「ファイノメナ」の中で、天空を論じ、「北の極は、海洋のはるか上にある。それを取り囲む様に、2頭の熊が一緒に旋回する」旨言及していますが、2頭の熊を大熊座と小熊座とすれば「北極は、北斗七星と小熊座の柄杓に取り囲まれ、2つの柄杓は、北極の周囲を旋回する」事を意味する。
(出典)Aratus「Phaenomena」。Theoi Classical Texts Library のサイトで引用されたもの。
(5)逆方向(反時計回り)の解釈
次に頻出する「AU-NI-TI-NO」(逢う日の)を逆に読めば「NO-TI-NI-AU」(後に会う)と読める事から、円盤の文字を逆方向に読み、意味が通じるか否か検証した。すると次の通り、ギリシャ神話に登場する(半牛半人の怪物)ミノタウロスを倒したテーセウスの「白い帆と黒い帆」に因む物語と読み取れた。
(A面)
[A31] QA-U-ZO TRE-PA SWI-RAI-TE-KA-KA-QE-I QA-U-ZO
請うぞ トレは 白い(帆)をかかげに 請うぞ
お願いするよ。テーセウスよ、白い帆を掲げてくれ、お願いだ。
/TE-DA-NA TRE-PA-QE-I QE-KE/RJA-KU
てだな-なだて トレは、若い。 計略
それでだな「何ですって?」テーセウスは、若い。はかりごと
DA-(JU)-RJU-GYU KA-RJU-RA/TO-TA/BA-KA-QE-I
だ。「(引き受けるのは)ゆるく、軽率な賭博で、馬鹿だった」
/(KE/RJA)-KU-QE-I /TRE-JO [A20] RJU-NA-ZO-DWA-KA-I
いけくりゃ-けいりゃくへ トレよ-よって うな そうだわかい
この海域に来たら、はかりごとで、テーセウスよ。酔って「うん。そうだ」かい。
/(KE/RJA)-KU-QE-I NA-KASA SWI-RAI-TE-KA-KA-QE-I
いけくりゃ-けいりゃくへ なかさ 白い帆を掲げに
約束しろ(アテネの)湖の 中では 白い帆を掲げてくれ。
/(KE/RJA)-KU-QE-I /TRE-JO RJU-NA-ZO-DWA-KAWA-I-I
約束しろ、この海域に来たら、テーセウスよ。酔って「うん。そうだ」。可愛いぜ。
(注)[A14]、最後のI記号の「鼻先」の短く、垂直な支線を、更にIとして、読み加えた。
TWE-RE/MITE/SATE QA-NA-RA-QE-NI TI-TU-(KO)-TRE [A10] TE-DA-(KO)-QE-I
さて契りとして 「しつこいって」 手を合わせようかい。
それでは 契りとして 「しつこいって」 握手しようか。
(TWE-REで円盤の外周へ。以下は、テーセウス)
TE-(KE/RJA)-KU NE-RJU-GYU-QE-I NO-(BEN)-KA QE-TI-DI-KA
握手は、くねる具合の言葉か。賭けを信じて、か。
SAKANA-TU-NWA-QE-RI PI-AU-AU /TI-DI-AU
さかなつ 泣ける 気負いあう 信じよう-おお父
さすがに泣けるし 気負いあうので 信じよう。「おお、父上、
QE-TU-DE [A01] /RJU-TRE-PA-QE-I
へ つ で 言って、わけい-いけ、かてる」
地獄で」と言って手を放す。「行け、勝てる!」
(B面) テ:テーセウス
[B30] / TI-DI DWA-NA-PI-AU TI-NA-TE-GYUNE-RI
父! 父 とは 泣きあう しなってくねり。
お父様!父と泣き合い、しなってくねる。
TI-RJU-RE/MITE/SATE-QUI-PE /NO-TI-NI-AU-(SA) DE-RJU-NA-TI
父:テーセウス/ちょっと聴け 後に会うさ-ある日の で得る(ところ)なし
父:テーセウス、良く聴けよ。再会するから、ある日。今日、気負う意味はない。
/TI-DI-TI TE-RJU-TI DWA-NA-PI-KA
父を信じて てりゅ ち とわ な きか
お父さんを信じて、照る地を/テルちゃん。泣き続けても意味はない、
/NO-TI-NI-AU-(SA)
後に会うさ、ある日
再会するから、その日に。
[B20] /TI-DI-AU PA-NO-AU /NO-TI-NI-AU
テ:信じよう-おお父。 かなう 後に会う-会う日の
テ:お父様を信じましょう。これが叶い、いつの日か再会する
YE-KA-PE-I SAKANA-RE/MITE/SATE-RA-TE-GYUNE
家族か。いや画餅。「エイ(陛下)! 盛んなれ」をやって、行くね。
TRE-SA-AU RJU-TA-SE TE-NE-DE-DE-AU
父:テーセウス、さようなら言ったぜ。アテネの宮殿を出よう!
(文字列は、ここから円盤の外周に出るが、テーセウスの出発の象徴か)
TRE-QA-DWA-KA TU-NI-(KE/RJA)-NI
父:テーセウスは、いつまでも居るのか。勝ちが逃げてしまう。
[B10] TE-TU-DE-TI DWA-(ZE)-RAI-(KIMI) RJU-TRE-PA-TI-SO
テ: 鉄で得し、 と 患い気味 ゆって吐きそう
テ:しっかり理解しました、と患い気味。そう言って/酔って、吐きそうな様子。
SAKANA-RE/MITE/SATE -TRE-PA /TJA-RJU-NA-SE
父:盛んなれ、テーセウスは 揶揄なせ-(そう)なるや
父:盛んなれ、テーセウス! 揶揄しても、そうなるから。
QE-NE-DE-SAKANA KA-DWA-(MI) /YA-NA-RAI-I
けねえで さかんな かとわみ やならいし-いらいなや
帰らないぞ、元気過ぎて、いつまでもと感じ、夜も更けるので、縁もなく
TE-TI-DI-KA [B01] TI-TU-(SAN)-QE-I
テ(セウスの)父が 室、下がり。
アイゲウスは 部屋に下がった。
この様にA面は、テーセウスがクレタ島のミノタウロス退治のためアテネを出発する前に、父王アイゲウスに挨拶するシーンであり、父王からテーセウスに対し、ミノタウロス退治に成功して生還する場合には、必ず白い帆を揚げる様、繰り返し懇願し、約束だぞと念を押している。
B面では、父と息子が今生の別れと泣き崩れ、アイゲウスが、良い加減にしろと言うのにテーセウスが帰らない場面。母親が不在だが、主人公がテーセウスの場合、母親はアイゲウス王の正妻でなく、友人のトロイゼンの国王の娘で、アテネ不在の筈であり、整合的。
(6)時計回りの新解釈
逆方向に読んだ文章が、テーセウスに因む物語と解釈出来たので、順方向に読んだ文章は、続編と位置付け、次の様な解釈が可能である。
(ア)ミノタウロス退治とアリアドネ姫
先ずギリシャ神話を復習すれば、テーセウスはアテネで父王アイゲウスに別れを告げた後、クレタ島まで遠征して半牛半人の怪物ミノタウロスに立ち向かうが、途中でミノス王の娘アリアドネと恋仲になる。ミノタウロスは迷宮の中に幽閉されているので、彼女はテーセウスに糸巻を手渡し、迷宮の入り口から巻き出しつつ中を進み、迷わず帰還出来るように手配する。
彼は見事にミノタウロスを倒し、アリアドネ姫を連れて船でアテネに戻ろうとするが、ナクソス島に立ち寄った際、ディオニッソス神が彼女に恋してしまい、アリアドネを置いて行くようにテーセウスに命じる。彼はやむなく従い、彼女を島に置き去りにせざるを得ない。
意気消沈したテーセウスは、ナクソス島からアテネに向かう際、父王との白い帆の約束を忘れ、黒い帆のまま帰還してしまう。父王アイゲウスは、アテネ南東のスーニオン岬で、テーセウスの船の黒い帆を確認し、息子が討ち死にしたと誤解して絶望。もはやこれまで、と崖から海に飛び降りて自殺した。それ以来、この海はエーゲ海と呼ばれた。
(イ)テーセウスのアテネ帰還
順方向の文章は、アテネに帰還したテーセウスが、父王アイゲウスの自殺を知り、再会する為に「I-QUE」(池)でイカダを漕ぎ出す場面。場所は、ペロポネソス半島を南下した先のテナロン岬で、神話で地獄への入り口とされる洞窟と推定される。海の洞窟との設定で、「岩戸は そなりう よーれ 引けくりゃ!」の繰り返しは、砕け散る波の音やテーセウスのかけ声、そしてエコーを表現。そのうち父王の声が聞こえてくる。
B面は、亡き父との対話の場面。テーセウスは父王に対し、誤って黒い帆で帰還したため、自殺を招いた無念を露わにする。末尾に「これ以上は無理だ、大きな辰は父なので」とあり、「大きな辰」を北斗七星とすれば、テーセウスが洞窟を出たら、目の前に北斗七星が現れ、絶句したのだろう。北斗七星は北極星近くにあり、父王の象徴に違いない。まるで歌舞伎の演目である。
なおテーセウスの場合、B(29)「(もはや王位から)退く手はない」には、特別な意味合いがあり「王位継承には、困難が予想される」との事情である。何故ならば、テーセウスは、アテネでなくトロイゼンで、エーゲウスの婚外子として生まれ、そこで16歳まで滞在。更に父エーゲウスには、その後、メディアとの間に息子ができたので、テーセウスは、初めてアテネを訪れた10代の頃から、メディアから命を狙われていた。従って、エーゲウスの死に伴い、テーセウスが名乗りを挙げた場合には、王位の争奪戦が十分予想されたのだろう。
(7)全体像
ファイストスの円盤は、A・B両面とも、外側から中央に向かい、文字列が旋回するが、その姿は、とぐろを巻くヘビである。
最後の区画がヘビの頭で、A面の場合、頭に花の記号があるので、雌。B面のヘビは、頭が大きく、舌を出しているので雄。これを「巳」と考えれば、ミケーネ人の象徴となり、アテネの王子、テーセウスと符合する。
両面の「回廊」は、同時に、テーセウスが、イカダで入った海の洞窟を表現していよう。YouTubeで見ると、テナロン岬近くのDiros Cavesが、ボートで入る細長く屈曲した洞窟で、物語に適合する。特にB面に、TIの記号が、多数登場するが、乳房の様な、洞窟の鍾乳石だろう。
またA面、B面を乳房に見立てれば、B面の中心の文字列は「DI-TI」であり、乳首の形の記号TIが登場する。A面も同様と考えられ、乳首に相当するのが、花の記号KA。
先ずA面、B面を反時計回りに読み、続いて時計回りに読めば、ギリシャ神話のミノタウロス退治に続く「白い帆と黒い帆」の二次創作物語で、大変緻密に計算された作品と判明する。
テーセウスのミノタウロス退治に関し、ミケーネ人によるクレタ島支配を象徴する神話と捉えれば、ファイストスの円盤は、クレタ島で使用された文字が、線文字Aから(古代ギリシャ語を表記する)線文字Bに替わった、前1450年以降、かつミケーネが崩壊した、紀元前1200年以前の作品と見られ、L.ゴダール(L. Godart)が、紀元前1550年-前1200年と推定しているのが参考になる。
(ア)反時計回り
A・B両面の末尾に「帰る」、「下がる」との記述があり、裏面転換のシグナルとなっている。
(A面)
中心に花(花びら8枚)の記号KA(38)があり、文脈から、テーセウスの出発地アテネの王宮だろう。ここから反時計回りに読めば、父王アイゲウスとテーセウスが、白い帆の約束をする場面が展開する。末尾はRJU-JE-PA-QE-RI(ゆえ帰り)であり、ここで円盤を裏返してB面に移る。
(B面)
中心にDI-TI(父)と記され、ここから反時計回りに読むと、アテネの王宮で父と息子が、涙ながら別れを惜しむ場面となる。末尾がTI-TU-(SAN)-QE-I(室、下がり)であり、ここで再び円盤を裏返す。
(イ)時計回り
(A面)
外側から時計回りに読むと、父王が黒い帆を見てテーセウスの死と誤解し、海に身投げした悲劇の後日談となる。テーセウスが深く悲しみ、父と再会する為、地獄の入り口とされる海の洞窟へ、イカダで入っていく。洞窟のエコーが、途中から父王の声にすり替わる。末尾が「そうか」。ここで円盤を再び裏返す。
(B面)
時計回りに読めば、テーセウスが、洞窟の中で父王の霊と対話する場面となる。最後に、テーセウスが洞窟を出ると、北斗七星が現れ、「父!」と叫ぶ場面となるが、末尾の「DI-TI」の文字列を漫画と見做せば、海面近くの北斗七星を象っていよう。
総合すれば、クレタ島でミノタウロスを退治し、アテネに凱旋したテーセウスにろくな事はなかった。運命が、置き去りにされたアリアドネ姫のためにも、テーセウスの黒い帆を仕組んで、アイゲウス王を身投げさせ、復讐を遂げた。そしてテーセウスが父王の亡霊に会いに行き、当惑するので、作者は、ミケーネ人の立場で語りつつも、心情的にミノア人の味方であり、例えばミノア人とミケーネ人との間に生まれたハーフか。
但し、シニカルな見方をすれば、テーセウスは、父王との約束を忘れた訳ではなく、わざと黒い帆で帰還して、父王を自殺に追い込み、早めに王位に就く事に成功した、とも解釈できる。
因みに彼が、亡き父王に会うため、イカダで入る洞窟の川は、死者が黄泉の国に行く際に渡る、ステュクス川(Styx。日本の神話ならば「三途の川」)に相当するだろう。
(8)「消しゴム」の使用
線文字Aを含め日本語を記した古代文字では、破損やかすれのある場合、多くは意図的で、文脈を明確にするのが目的である。Wikipediaの写真等で確認すると、ファイストスの円盤には、消しゴム跡の様な摩耗やかすれがあり、特に目立つ場合は次の通り、文脈に沿った漫画と解釈できる。
(ア)A4からA6にかけて、上から油を垂らした様なシミがある。
(時計回り)
(A4)AU-AU-PI I-QE-NWA-TU-SAKANA (A6)KA-DI-TI-QE
おお青き池は 夏の盛り と感じて、
シミは、海の洞窟の入り口付近の、水面の反射を表す。
(反時計回り)
(A6)(KA)- QE-TI-DI-KA SAKANA-TU-NWA-QE-RI (A4) PI-AU-AU
賭けを信じ、か。さすがに泣けるし 気負いあうので
今度は、同じシミが、父と息子の流した涙を表す。
(イ)A7とA8にかけて、足跡の様な形のかすれ。またA8の記号QEにも、かすれがあり、手の形。
(時計回り)(A7)KAWA-(BE)-NO (A8)I-QE-GYU/GYUNE-RJU-NE
洞窟の川辺のくねる池を蹴って進む
かすれの部分は、イカダに乗ったテーセウスが洞窟の川辺を蹴った、足跡だろう。
(反時計回り)(A8)NE-RJU-GYU-QE-I (A7)NO-(BEN)-KA
(握手はく)ねる具合の言葉か。
A8の記号QEのかすれは、握手した手を表す。
(ウ)B1で右から4つ目の記号TUの上に、窓の様な四角い「修正」がある。
(時計回り)[B1] I-QE-(MI)-TU-TI KA-DI-TI-TE
(アテナイの)池の満潮で/ を見ながら 感じてしまい
「修正」部分は、父王アイゲウスの身投げした海。TUの記号が、身投げの際、父王が脱いだ靴の漫画を兼ねている。
(反時計回り)TE-TI-DI-KA [B1] TI-TU-(SAN)-QE-I
アイゲウスは 部屋に下がった。
「修正」部分は、父王アイゲウスの部屋。
(9)ゲーム盤
(ア)ファイストスの円盤は、文字列の辿る「回廊」が、A面、B面とも細かい短冊状に区画されており、双六盤と推定される。サイコロを振り、円盤の中心から外側に、また逆方向にコマを進めて遊んだのだろう。サイコロは、インダス文明の頃から知られている。
各プレーヤーは、サイコロを振り、文字を数えながら円盤の物語に従い、コマを進める。最終的に時計回りでB面の中心に至り、テーセウスが王位継承を決意する最後の場面で「王様になる」のが目的。
因みに鎖状の縦棒が、 [A1] 及び [B1]にあるが、反時計回りにコマを進める場合、スタート地点は各面の中心で、この鎖が、ゴール。時計回りにコマを進める場合、鎖がスタート地点で、[A1]の記述が「I-QUE-PA-TRE-RJU」、[B1]は「I-QUE-(MI)-TU-TI」なので、両面とも「I-QUE」(行け!)との号令で始まる。
(イ)古代エジプトのゲーム「メヘン」
ヘビが頭を中心に、とぐろを巻く形の双六ゲームとして古代エジプトの「メヘン」が知られている。(紀元前3000年から古王国(前2686-前2181)にかけて)ヘビの身体が、沢山の区画に分けられた盤であり、見た目がファイストスの円盤に酷似する。
古代エジプトの神話で、メヘンとは、毎夜、船で黄泉の国を旅する太陽神ラーを守る蛇神。各プレーヤーは、双六の代用品の木片を振ってコマを進め、蛇神の身体を通って、中央にいるラーに会いに行くとの設定であり、船で黄泉の国を旅する点が、ファイストスの円盤の物語と共通する。
このゲームは、周辺諸国でも知られ、キプロスでは、輸入品でありながら、古代エジプトで記録が無くなった後も、暫く遊戯として知られていた由。
(10)字源
仮にファイストスの円盤が、ゲーム盤ならば、絵文字は子供向けに創造されたもので、字源は次の通りと推定される。(各番号は、Phaistos Discで検索すると、英語版Wikipediaの記事に登場)
(1) 「TRE」 歩く人 : 古典ギリシャ語で、「走る」。
(2)「I」 古代ギリシャ風の頭飾りの男。キプロスの日本語民族は、ギリシャ人を「イカ」と呼んだ模様。
(4)「NWA」 手首を後ろに結わえられた奴隷 : NA-WA(縄)
(5)「YA」 赤ん坊 : YA-YA-KO (ややこ)
(6)「GYUNE/GYU」女性/母親 : GYUNE(古典ギリシャ語で女性)
(7)「TI」 上を向いた乳房 : TI-TI (乳)
(8)「NO」 海藻 : NO-RI
(10)「ZO」 矢 : ZO-KU (鏃)
(14)「TA」/「BA」太鼓(の響き) : TAIKO (太鼓)
(17)「JU」 弓 : JU-MI (弓)
(20)「NE」チグリス河・ユーフラテス河に挟まれたメソポタミアの「肥沃な三角地帯」。両大河に加え、運河や水路の網を植物の「根」に見立てた。
(21)「SWI」 農業用と思われる用水路の網 : SUI-RO (水路)
(22) 「MI/SA/SAN」 線文字AのSA(AB31)が上下逆さ : 「三」の音価を付与
(23)「NA」 振り回す器具・武器(柱にも類似) : NA-TA (なた)
(24)「DE」 蜂の巣/立派な建物 : DEN (殿)⇒ 神殿
(25)「DWA」 御座船/タツノオトシゴ。古典ギリシャ語でDRACON : TA-TSU(辰)
(26)「RJA」 動物の角(一本):古典ギリシャ語でKERAS。双方向から読むのでRA/KE、何れも可。
(27)「KA」 4つ足動物の皮 : KA-WA (革)
(29)「AU」 猫の頭 : AU (猫の鳴き声か)
(30)「QI」 羊の頭 : QI-TSU-JI(羊)
(31)「KU」 飛ぶ鳥 : KWA-RASU (カラス)
(32)「RA」 鳩に似た鳥 : RAI-CHO (雷鳥)
(33)「SAKANA」 吊り下げられた魚 : 魚
(34)「PI」 琵琶 : BI-WA (琵琶)
(35)「TE」 植物/葉 : TE(手)
(37)「RAI」 落雷 : RAI(雷)
(38)「QA」 花(花弁8枚) : HA-NA (花)
(39)「RE」(/MITE/SATE) サフランの花の柱頭 : れんげ(/3本指の手)
(40)「TU」 つぼみ : TU-BO-MI(蕾)
(41)「KO」 骨 : KO-TU(骨)
(42)「ZE」 鋸。線文字AのZE(AB74)に酷似。
(43)「TJA」三角形 : 外来語で3を指すトロワ(TROIS)等。
(44)「BEN」 弁 : BEN(弁)