第6話
「で、ではステータス更新をしてもよろしいでしょうか?」
若干引いている受付の女性に見守るギャラリー達。
何故ならば、序列27位のサディス=ランディーが序列に入ってるかと間違ってしまう程の実力を僕が持ってしまっているのだから。
当然、日本人で序列入りの瞬間に立ち会えるなど素晴らしい事であるため、人は集まり続ける一方。
序列は1万位から100位はステータスや装備によって、総合的に判断される。100位からは1位は決闘方式で順位決めが行われる。もちろん、例外や様々な規定があるが。
先程と同様、手を置くと水晶が光って『ステータス開示許可を出しますか?YES/NO』とログに表示された。
「はい。」
そう言うと、ログに『YESを選択しました』と流れる。
受付の女性は食い入るように文字の羅列を眺め、キーボードをカタカタと打ち込んで、最後にエンターキーを二回ポポンと指で叩く。
「えっ......」
一人驚愕した受付の女性。静かに辺り見回すが騒ギャラリーをなだめるために震えた手で、アナウンス用のマイクを取った。
「皆様、お静かに!!探索者、秋谷 周はSランクに昇格致しました!そして————」
堂々とした声でそう言った受付の女性。
「探索者、秋谷 周が序列191位を記録しました!!」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」
「すげえ!!」
「強過ぎんだろ!!」
「嘘かよ!!」
受付の女性の言葉により、様々な声が飛び交う。まさか......まさか、ここまでステータスが上がり過ぎていたとは思えなかった!!
大国、アメリカ合衆国や中華人民共和国にインド、南アフリカの諸国が人海戦術でランキング上位を占める中、1億ちょっとの人口の日本人にとって、序列の入ること自体珍しい。
おそらく、日本で十数人の内の一人となった事だろう。
しかし————あの重い聖剣により、こんなにも実力差がある事が感じられた。目の前のサディス=ランディーは遥か上の実力だと言う事や、まだまだ上には26人も強者が立っている。その事実に素直に喜べない僕がいた。
力が、もっと欲しい。
今の力では物足りない僕がいる。そうだ、装備を整えてSランクの高難易度ダンジョンでもいこうか。
どんちゃん騒ぎの中、僕は受付の女性に言った。
「あの〜〜素材買取を」
「かしこまりました。アイテムをお出しください。」
アイテムボックスからアイテムを出しているとこれまた声が上がる。
「Aランクのしかも、Aにしては強いと噂されるダンジョンの魔物じゃねえか」
「しかも多い!」
「すげえ」
「パーティ見かけないし、誘ってみようかしら」
「ふざけんな抜け駆けは許さん」
うるさいギャラリー達を後目に、例の赤き竜は取引するつもりは無いので、悪魔の皮を出す。
「あれ......!もしかして言ってたネームドか!!」
「私、魔導書の素材に欲しい」
「いくらだ!俺が買うぞ」
「俺のもんだ!!」
「ふざけんな」
「言い値で買おう!!」
ネームドの素材に驚いて迫ってくるギャラリーの群れ。辺りを見回す。ギルド長は押されて出られないが、何故かさっきまで居たサディス=ランディーの姿はいない。
「アンタ、売ってくれ!!」
僕の周りに少し距離を保っていたはずのギャラリーが肩に手を置く人までが現れ、もみくちゃに僕を押してくる。
しかし、それは受付の女性によって、止められた。
「皆様、お静かに!!えっと秋谷さん?こちらの悪魔の皮ですが、オークション形式でよろしいでしょうか?」
「は、はい、それでいいです」
迫り来る人が怖いのでとりあえず、了承しておこう。
「では申請書と計算をするので少々お待ち下さい」
受付の女性にそう言われて囲まれる中、窓口で待つ。
というか、職人探しに来たんだった。えっとどうしようか?
ってギャラリーがいるじゃないか。
「あの......すいません。この中で竜の素材を扱える革細工の名工に知り合いがいらっしゃる方は居ませんか?招待していただいた方には『赤き竜の皮』を差し上げます」
「うぉおおおお!!」
「ほしい!」
「さすがSランク!太っ腹だ」
「言い値で買おう!!」
またしても騒ぐギャラリー。
失敗したな.....餌が大き過ぎたか?
「竜の素材だろ?扱える名工自体少ないと聞くし」
「ダメだ俺、金属鎧メインだし......」
「くっそぉ......」
しかし、反応を見るに少ないようだ。するとギルド長が肩を叩いてくる。
「すまねぇ、これはさっきのお詫びだ。もちろん竜の素材いらんぞ。Sランク御用達の職人を紹介する」
そう言ってギルド長は畳んだ紙切れと、『招待状』と書かれた封筒を渡してくる。
「え、良いんですか ?」
「さっきの疑った謝礼だ、黙って受け取れ。それと......ステータスや序列を過信しすぎるなよ?俺の親友も身の丈合わないダンジョンで死んだ。まあ頑張れよ」
「はい」
どうやら、ギルド長はそんなに悪い人ではないのかもしれない。
確かに序列はステータスの数値で決まるが装備や技の組み合わせで強い者もいるからね......
そう言われ手渡された後、その畳んだ紙切れを見ると住所が書かれていた。
一応スマホを取り出し、メモした後、アイテムボックスに入れておく。
その住所はここから遠い距離だが、飛行機や新幹線で行ける。しかし、僕は高校生である身。平日は学校であり、すぐ行ける訳では無い。
まあ20万払えば、ダンジョンの素材で開発された最新鋭の転移装置があり、一瞬で着くがそんな金モブ高校生の僕がポンと出せる訳ないし、制作の代金はいくら掛かるか分かったもんじゃない。そんなのに金を掛けてるぐらいだったら飛行機や新幹線で行く。
そんな事をしていると受付の女性が帰ってくる。
「計算が終わりました。合計、115万7000円です」
「はぁ!?」
クラスの剣崎 誠や水京 京香、斎藤 霞も良い装備や武器を持っていたがまさか、そこまでとは......というか一日で有り得るのかそんな量......
これがAランク......いや、剣崎 誠チームは敵の群れとか避けてたし、三人で分散してたとなるとこの金額でも約40万......いや、多いな!
Aランクパないって、あいつらあんなんでも強かったんだな。Cランクの僕がようやく理解したよ。
「5万円を超えるため、支払いは口座に振り込まさせて頂きます。それとオークション申請書です。記名するだけで結構ですよ」
そう言われ、記入欄を指さす受付の女性。一通り書類を読んでから、そこに名前を書き込んだ。
「大丈夫です」
「はい、受け取りました。ではオークションまで結構、期間があるので十日後、またお越しください」
「分かりました」
「それとSランクダンジョンの入場証明書です、名前とクラス部類の確認をして下さい」
「ええっと.......秋谷 周で、シーフ職と。大丈夫です」
受け取りすぐさま、アイテムボックスに入れる。がこれまた、やはりギャラリーが騒いだ。
「あんなにも強いのにシーフ職だと!?」
「シーフは罠解除とか、探知メインなのに!?有り得ない!!」
「アタッカーだと思ってた......」
「強過ぎる」
「シーフ職がなんで序列入ってるんだ!?」
「シーフ一人でダンジョン行けるじゃねえか。この実力なら、ソロプレイも余裕だぞ」
と。確かにシーフ職は弱い。だって今までも、便利屋程度でしか無かったし火力も耐久力も劣るし、死んだら罠を受けて、パーティ自体が壊滅するから仕方なく、守らないといけないし。
必要だけど、微妙な存在だろう。
もう受付に用はない、そう思いギャラリーを退けて帰た