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青い用心棒☆彡  作者: 諸星進次郎
6/6

終 トシロウとアオイノ



 三年後。


 時刻は夜。

 港の倉庫街の倉庫の一つ、鉄扉の隙間から光が漏れ出している。

 その前を顔の長い男と顔の小さい男がやる気なさげに警備していた。

「はーあぎだなぁ~~。いつまでこんなことやってんだぁ。おら思ったんだけんど、ふつーにそこらへんのけえしゃで働いた方が金稼げんじゃねえんけ? M町大地震で仕事はありあまるほどあるんだしよお」

「バカヤロウ、これはせんこーとうしってやつだ。その地震のおかげでいろんなもんの需要が増えて、大量に売りさばくにはもってこいなんだあ。この組はすぐにでかくなるぞぉ、したらおれらにもたくさんおこぼれがくるってもんさ」

「でもよお、金生グループも社長さんが全部解体させてよお、働き口はたくさんあんだぞ? こんな危ないことしなくたって……おらまたあの用心棒と、ピンク髪の侍の女に合いたくねえぞ」

「安心せえ、まえんとこと違ってここは屈強な男たちがそろっとるし警備もちゃんとしとる。隠れられる場所もねえ。やつがココまでくるんはムリってもんだ」

「そうけ? そんならいいがよぉ。本当にこんな売れんのけ? この倉庫いっぺえにそこかしこから買い占めたんだろう?」

「地震のニュースみてねえのか?」

「見たさ。あんなにえっがい災害だったってのに、街のやつらはみーんな避難して、死者0人だっつうんだからなぁ」

「そうそう、武装した子供と『トシロウとなのるヤツラ』が地震の前に避難させたってやつだ。アレな、映像にはうつってなかったが、実は、鬼が出たって噂だ。浮世絵にでてきそうなえっがいやつ」

「ああ、脳筋のギャル鬼がぶっ飛ばしたってやつな」

「そんな便所の落書きどこでみたんだ? 鬼がでたってんだから一大事だ。そういうわけで、この魔除けのアイテムがものすごく売れるようになったってわけよ。これから日本は毎日節分だぁ」

 コンコンと顔の小さい男が鉄の戸を叩く。

「はあ、これが社会ってやつだなぁ……。冷えてきた、おらちょっとしょんべんいってくる」

「何だ頻尿かあ。回らないで倉庫突っ切ればはええべ。鬼に金玉とられんじゃねぞお」

 やけに甲高い笑い声を背に、顔の長い男は倉庫の中に入る。

 広い倉庫の中に蛍光灯を隠すほどにうず高く積まれている大豆のダンボール。国内外から仕入れているようで様々な言語が表面に踊っている。

 顔の長い男の両目をぐりぐりやって、トシロウはさらによく見えるようにした。

「やはりな、スーパーに豆がかたっぱしから売ってなかったのはコイツラのせいか。大豆パフェを食えなくした罪は重いぞ。さあて、お目当てのボスは……」

 ダンボールの間の狭い通路を通って倉庫を歩き回ると、ほどなくして奥で誰かと電話している入れ墨の男をみつけた。

「あいつがそうか。しかしこの量、予想以上だな……。おい、準備はいいか」

 耳を抑えてそういうと、トシロウは足をもつれさせてダンボールの山にぴょーんと飛び込んだ。山は崩れおちてスーツの男を押しつぶし無残に倒れたトシロウは騒ぎを聞きつけた構成員に取り押さえられた。



 後ろ手に縄で縛られマスクを剥ぎとられた。泣き出しそうなしょんぼりした顔でオドオドしている。

「や、やっぱり、コイツ用心棒のトシロウだべ! こんなしょぼくれた犬みたいな顔してるが騙されちゃイケねえ!! これは演技! 絶対に気を許しちゃダメだ!! おら!! 本性あらわせ!」

 殴りトバされ横たわったトシロウ。

 クソ、だから存在する人間のマスクはリスクがあるってのに、ジジイの野郎。

「それがコイツの妄想だとしても警戒するにはこしたことはないな」入れ墨の男がいう。「野郎どもトラックもってこい、今夜のうちに全部もって逃げるぞ。ここはもうバレているらしい。このバカは海にでも捨てておけ」

「……チッ、しょうがねえな」

 まるで最初から縛られていなかったかのようにトシロウはすっくと立ち上がり、警戒して構えられていたナイフを蹴り上げて奪い、呆気にとられている入れ墨の男に向かって突進。

「チ~~~~~~~~フ!!」

 その切っ先は、かばってとびだした屈強な男の腹に突き刺さった。

 血をどくどくながし、傷口から大量の内蔵がボトボト落ちた。

 そしてトシロウは呪文を唱える。

「ヨジウヨシビツゼウヨチンヤチノイオア……ヨジウヨシビツゼウヨチンヤチノイオア……ヨジウヨシビツゼウヨチンヤチノイオア、スーーーーッ――――セイッ!!」

 指で宙空に星を描き、それを力強く指で斬った。

 男は頭をかかえて激しく悶え苦しみだす。

 トシロウは肥大化していく男を背にし、唖然としている男たちに不敵にほほえんだ。

「先の大災害で地獄に触れちまってな……、使えるようになっちまったんだよ、人間を、鬼にするチカラをなあ」

 トシロウの顔にはニコニコお面。

 背後の男が天井を突き破り、筋肉隆々で獰猛な牙の生えた青鬼へと変化をとげた。

 一目散に逃げる男たち、だが刺青の男だけは大豆の袋をひっつかんだ。

「鬼は豆に弱いってなあ!」

 身体中に入れ墨だらけの大のオトナが、子供向けの鬼の絵が入った豆の袋で必死に豆を投げていた。

《グワワワワ~~~~やだ~~~~しぬ~~~~~!!》

 青鬼は足にしか当たらない豆を食らって、顔を抑えていやいやしてみせた。トシロウはその豆の弾幕を正面から歩いて、後頭部をトンッとやって気絶させた。

「サービスせんでいい」

《スッゲ~~トッシーーー!!! それ現実でできんの?! 教えて教えて!!!!》

「近い近い!! デカイんだよお前」

 見られただけで命を取られそうな鋭い眼がランランとトシロウに近づいている。大きさの比率がまるでケージの中の小動物をみる人間とそのペットのようだ。

《もう戻っていい? なんか年々小さくなるんだよね~~。これじゃハムちゃんになっちゃうナア~~☆》

「つまんねえ冗談いってねえで、この倉庫の豆全部取り返すのが依頼だろうが。さっさとトラックに詰め」

《え~~、女の子に力仕事まかせるとか男としてどうなわけ~~。あ、この煽りはダメか。プライドとかないしね~~》

「わかってるじゃねえか。急げ、ずらかるぞ」

 刺青の男が手配したトラックが到着し、トシロウがトンッとやって運転手を気絶させた。

 アオイノの大きな手が勝手に荷台をあけ、一抱えにしたダンボールをすべて入れた。それを確認すると急発進させる。

 天井がボゴんッと凹み、助手席の窓からギャルに戻ったアオイノがスルリと入ってきた。

「ちょっとぉ~~、あーしまだ乗ってなかったっしょ!! 何で先行こうとするわけえ~~?!」

「お前は車のんなくても十分早く走れんだろが、まってられるか」

「もお~~イジワルなんだぁ。あ。でまちぢゃ~~ん」

 倉庫街を抜ける出口に銃器で武装した構成員たちがまちぶせしていた。

「やれ」

「ニンゲンに指図されたくないんですけどぉ」

「夕飯は焼き肉食べ放題だ、これの報酬で大量の豆ももらえる」

「ええ~~?! ……ど~~しよっかなぁ~~」

 青い瞳をランランとさせて今にも飛び出そうとしたが豆を食べた。チラチラとトシロウの反応をうかがっている。

「焼き肉食べ放題、プレミアムコース」

「プレミアム……ね」

 発砲が開始された。フロントガラスに突き刺さって割れる。

「寿司食い放題だーーーーッ!!!」

「いえ~~~~~~い!!」

 割れたガラスを叩き割り、豆を撒いた。それは弾丸よりも早く構成員に命中し、撫ぜたように這いつくばらせ、その間をトラックが突っ切った。

「うんめ~~、芸術点高いんじゃな~~い?」

「五点。二人、瀕死だ」

「ええ~~~~。しんでないしいいじゃ~~ん。あの地獄の穴あいちゃったときも誰もしんでないしさ~~それと一緒に点数ちょうだいよ~~」

「フン、あんとき地獄に帰ってりゃよかったんだ。そんなんじゃいつまで立っても地獄にゃ帰れねえぞ。先生にちゃんと善悪がわかるまで帰ってくんなって発破かけられたんだろ」

「うん。ベンキョーしたからね~~これでも」

 トラックを走らせて下道に入った。このまま走れば山の中へ逃げれるだろう。

「まあでも、あと七0年くらい時間あるし~~」

「オレの寿命いっぱいまでの持久戦に持ちこもうとするな、というか死ぬまで一緒とかゴメンだぞ」

「ええ~~、でもトッシーのことホームステー先にしてもらったし~~、行くとこないんですけど~~」

「お友達のギャルのトコにでも行けばいいだろう、というか勝手に先にするな」

「神様の家に住むわけないっしょ。トッシーは神様の側に住もうと思うわけ。ずっとそばに信仰神がいたらどうなるか想像できないの。死ぬでしょ、解脱もんよ」

「すみませんでした」

 鬼の姿になっていないのに、金髪の隙間から角が生えているようにトシロウは錯覚していた。



「そういや前のホームステー先のやつはどんなやつだったんだ? センセーにきかなかったのか」

 人っ子一人いない、見渡す限り田んぼの赤信号で停まった。

「え、ああ~~~~、てかいまきくぅ?? 二年前にきいてよ!! もう~~名前とかきいてきたのに忘れちったじゃ~~ん」

「きいたことを覚えてるのだけでも上出来じゃねえか」

「ほんとだ~~。トッシー周り以外でニンゲンのこと覚えてるってはじめて~~。えーっと、たしかちょっと言ったケド、チビッちゃう殺し屋だったんだよね~~」

「なんで殺し屋だったんだ。善悪なら、わかりやすく病院とか裁判所とかにしろよ」

「何かセンセーが知ってるヤツらしくてぇ。実力があってスゲー強いけど、情にあつくて仲間を大切にしすぎるから弱いし、アナタが守ってあげてってお願いされた」

「そんなんで殺し屋でやってけてんのか? そいつもう死んでるだろ」

「でもスゴイやつらしいよ。敵にですら情けをかけるし、金ももらわないし、そいつなら妖怪でも仏でも鬼でも受け入れてくれんじゃないかなーってさ。うんどーできないからイイパートナーになんじゃないのかってさ」

「ほんとにスゴイのかソイツ」

 まてよ。

 どこかできいたことがあるようなヤツだな。どこだったか。

「センセーがいってるしそうっしょ。あー、あとスッゲースカしてる中二病だから笑わないで付き合ってあげてって」

「へえ……」

 スカしてる。

 運動ができない。

 思い出せない。

 誰だ。すぐ近くにいるヤツだ。絶対に知ってるやつだ。

「もしもダメだっていうなら、すげー甘党だから糖分で殴れば簡単にいうこときくってさ~~」

「おい」

 青信号になってもアクセルを踏まない。ぐいっとアオイノにのりだす。

「な、なに急に、こんな所で襲う気?? いくら超絶かわいいからってそんな人気のないここで~~!!」

「センセーの名前はなんだ、教えろ」

 身の危険を感じたアオイノに顔を鷲掴みにされても引かなかった。

「え、センセー? 教えてなかったっけ」

「……エイジロウか」

 驚きにハッと息をのんだ。

「ちがうけど」

「何で息をのんだ」

「女の子なんだからそんな名前なわけないじゃん。センセーは、シムラ。だったかな? シムラエイコ」

「なんだ、そうか。シムラね……」

 車を発進させた。

 街頭が時々ある、ほとんど暗闇といっていいあぜ道を走る。

 シムラエイコ。

 そうか、わかったよ。

 甘党で運動ができない情けをかける殺し屋をよく知っているシムラエイコ。

「ト、トッシーどうしたの? どこか痛い?」

「いや、少しうれしいことがあったんでな」

 できるだけスカしてきざったらしくしているが、お面の下からあふれ出す涙と、押し殺し咽び泣く声は抑えきれていない。

「トッシーそれじゃ危ないって、ホントどうしちゃったの?」

 アオイノがトシロウのお面を外した。

 心配そうにしているアオイノに、涙でぐしゃぐしゃになった笑顔をむけた。

「うれしいんだ、うれしいんだよ」

 お前は、この世を彷徨っていなかった。

 エイジロウは、この世を彷徨っていなかったんだ。

 急ブレーキをかけると、アオイノを抱きしめた。

「えっ、ちょっとトトトトッシー!?!?」

 ボンッと顔を赤くしてアオイノはホールドアップしていた。

「お前はオレの生きる意味だったんだ」

 オレの生きる意味は、コイツが存在すること、コイツがオレの前に現れた時点で、達成されていたんだ。

「ト、トッシー……、三年一緒に過ごしているケド、そ、そんな目であーしのこと見てたんだ」

 強く抱きしめていたトシロウは身体を離した。

 窓にもたれかかっているアオイノ。乱れた金髪が上気した顔にしだれて、肉付きのいいふともも、豊満な胸を制服がくっきりと浮かび上がらせていた。

「た、たしかにあーしは超絶カワイイ美少女だけど、そんな、急にされたら、こ、心の準備ができないっていうか、やっぱり順番って何でも大事っていうか、ト、トッシーも男の子だしエロカワなあーしに興奮しちゃうのもわかるけど、あ、また後日!!」

 トシロウは顔を拭って車を走らせた。

「ご、ごめんねトッシー。べ、べべべつにトッシーが嫌いとかじゃなくて、あーしまだ、し、シたことないからベンキョーしてからってことでイイかな?!」

「冗談は寝てからいえ」

「にゃ?」

 公道にでても車も人の気配もまったくない。

「なに勘違いしてんだ発情期かギャル鬼。オレはただ嬉しかっただけだ。ハグってしってるか? 映画みてんだろ」

「……」

「ここからだともう焼肉は間に合わねえな、そこらへんのコンビニでいいか。はー疲れた。いっとくが今回二人殺しかけたんだ、約束どおり報酬は一人につき一0%引きだからな」

「な」

「あと洗濯当番お前だからな、洗車もしとけ、明日はコレを持ってくから出るのはええぞ、お前はなっかなか起きねえからな、素っ裸になって床に転がってるから邪魔でしゃーねえ」

「なな」

「飯代もバカにならねえからなあ、何とかお前の裸のチェキやら使用済みなんやらをネットでさばいて工面してるが、このまま仕事ができねえと、オレも食いっぱぐれちまう。そんなのゴメンだぞ、もうちょっと気を引き締めてやれよ」

「なななななな」

 アオイノの顔は真っ赤に染まり、幻想ではなく、角と牙が頭をだしていた。

 ま、誤魔化すのは楽勝だな。

「赤鬼」

「人間ってマジカスッッッッッ!!!!!!!」

「おいまていまそれは――――」


 天井を突き破って、曇り空を突きぬけて、トシロウは夜をかける流れ星になった。

「もう思い残すことはねえな……。なあ、そうだろう。エイジロウ」



 あの子をお願いね、トシロウ。

 トシロウは目を開けた。

 聞き慣れた声が下から追ってくる。

 星から遠ざかっていく身体。真っ逆さまになった頭上には、鬼でギャルの相棒が手を伸ばしていた。

 この依頼は、長くなりそうだな。

 チッ。また無駄働きか。

 オレもまだまだ……、

「青いな」

 フンッと鼻で笑った。


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