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マネージャーびんびん物語  作者: よーたん
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第1章「虹の章」

さて、城戸アテナの失言騒動から58日後。48日間の有給消化をして異動先である新しい部署で黒神は運命の神巫女と出会う。そして彼の運命は大きくシフトチェンジするのであった。

時は48日経過し、舞台は「芸能事務所プラネット・ザ・サン」に移る。


「はぁ、行きたくねーな。全く」

重い溜息をついては「黒神くろかみ 星矢せいや」は事務所の玄関入り口の前に立ちすくんでいた。

腕時計の時間は午前8時40分。そろそろ出社の時間である。

息をのんで、彼は社員証をカバンから出して受付の女性社員に挨拶をしてエレベーターへと向かった。

「今の人、何処の部署の人だろうか?」

受付の女性は首をかしげながら、今、挨拶をした男が誰だったかを考えるのだった。


エレベーターは3階に着くと、彼は重い足取りで自分が異動した部署の扉の前に立つ。

「うわぁ。俺、マジで芸能4部に異動になったのかよ、、、。」

彼が口にした「芸能4部」とは一体どんなところなのか。少し説明しよう。


彼が務める大手芸能事務所のプラネット・ザ・サンは4部構成の階級があった。

以前、彼が所属していた「芸能1部」はビルの6階に位置し、事務所の人気俳優や女優が所属する「売れっ子」タレントのみで構成される言わばエリート部署。

中でも「城戸 アテナ(きど あてな)」は「常盤田 マリン(ときわだ まりん)」「北川瀬 シャイナ(きたかわせ しゃいな)」「岡谷 スグル(おかたに すぐる)」「椎 アタル(しい あたる)」とドラマやCMで見ない日はないくらい活躍している俳優陣と同じ部署に所属していた。

彼等は事務所の看板であり、屋台骨でもあるトップクラスのタレントである。

そんなタレント達をマネージメントするマネージャー陣もまた、次期経営陣となれるエリートコースを歩く者であった。

5階の芸能1部タレント専用レッスン上を挟んで、続く「芸能2部」は4階に位置し、そこそこ売れている俳優の部署である。

また、同じフロアには「芸能3部」もあり、これから売り出そうとする若手俳優が所属する部署もある。

要するに野球やサッカーで言えば、2軍と3軍である。

そして、今、彼が目の前にしている「芸能4部」とは正式デビュー前の練習生、主に子役が所属する俳優の卵が集まる部署。


黒神は、ほぼレッスンと芸能3部への繋ぎ役の部署への異動を伴っていたのだった。

彼にとってそれは「左遷」と同じ感覚で今回の異動を捉えていたのである。

大きく息を吸って、深呼吸をする黒神は覚悟を決めて扉をノックしドアを開けた。

するとそこには、2人の男性社員が彼を出迎えてくれたのだったが、、、。

「あれ?どちらさんですか?」

フロア内には机が4つ並んでおり、その奥に一つ部長席があった。

2人の男性社員は黒神を見るなり、首をかしげポカーンとしている。

「ちょっと、左遷初日の嫌がらせにしてはひどくないですか?今日からお世話になる黒神星矢ですって」

不機嫌そうに一番奥の部長であろう社員に声をかけた。

「いや、黒神君の資料と違い過ぎて、、、」

「これ本当に黒神さんの資料ですかね?人事総務部の手違いじゃ?」

2人に社員は資料と本人をジロジロと見ながら目を丸くしていた。

「確かに、少しワイルドにはなったとは思いますよ?山に籠ってましたから?髪の毛も坊主にしたし」

黒神は今回の騒動で反省を表す為に坊主頭にしていた。

しかし、変わった容姿はそれだけではなかった。

「いやいや。髪型って訳じゃなくってだね?顔もそうだし、体型も違いすぎてないか??」

部長と思われる男はズリ下がった眼鏡の位置を直して、黒神の全体像を視界に入れる。


2人の社員が完全に人違いであると思うには訳があった。

黒神が言う様に、髪の毛は坊主頭と違ってはいるが、先ず体型がそもそも細くなかったのだ。

少し前までは中肉中背で細マッチョという言葉が似あうイケメン男性社員だったが、今2人の目の前に立っている男は、突き出たお腹にたくましい肉付きの太マッチョである。

そして、シュッとした顔つきの面影は全くなく、真ん丸顔の坊主頭なので全くの別人と成り果てていたのだった。

「黒神先輩!ワイルドってどこら辺っすか?」

手前で立っていた髭面の小太りの中年社員は、変わり果てた黒神に半分笑いながら突っ込んだ。

「あぁん?!山籠もりしてたから、ちょっと日焼けしてっだろ?それに見よ!この力こぶ!熊くらいなら軽く倒せる様になったぜ?」

スーツの上着を脱いで腕まくりされた上腕二頭筋を見せ、熊との死闘を語りだす黒神の姿を苦笑いで2人は見るのであった。


「とりあえず君は、本当に黒神 星矢君で間違いないんだよね?」

「はい!間違いありません」

「、、、、、。」


一瞬、変な空気にはなったが本人が黒神と名乗るのなら、そうなのだろうと思う2人は改めて自己紹介を始める。

手前の髭面の小太り中年の名は「なか まなぶ」ちょっと珍しい苗字であり「チューガク」とあだ名で呼ばれていた。

そして、奥に居る眼鏡をかけたヒョロヒョロの男性社員は芸能4部の部長である「坂崎さかざき 理治りじ」は超有名アーティスト「wirufiウィルフィー」のボーカル「坂崎 コウ(さかざき こう)」の弟である。

互いの自己紹介が終わると黒神のデスクへと案内される。

事前に荷物は運ばれていたので、一目で自分の机は分かっていた。

「あれ?机は4つありますけど、俺の向かいは中さんとして、横の机2つ。2人まだ、どっかに居るんですか?」

1つの机の上にはパソコンのモニター以外は何も置かれていなかったが、黒神の机の横には乱雑に物が置かれていたので誰かが居るのは間違いなく見える。

「あ、そうだ。あと1人実は同じ部署に社員が居るんすよ」

「へぇ?現場とかに行ってんの?」

「いや?まぁ、その、、、」

「?」

何やら口をもごもごと動かす2人。そんな2人を見て不思議がる黒神だったが、ちょうど電話が鳴ったので深く聞くタイミングは失われたのだった。


電話が終わると坂崎は不敵な笑みを浮かべパソコンの画面を見つめる。

「遂に始まるんだな。芸能4部に、、、」

「何が始まるんです?」

「未知なる世界だよ」

「は?」

意味が解らん。と黒神は内心思いながら、変な部署に異動しちゃったな?と思うのであった。


黒神は中の説明から4部所属タレントの事の説明を受ける。

彼が入社した最初の部署は3部までしかなかったせいか、4部の事は全く知らない事ばかり。

3部ではマネージャー1人に対しタレントは3人。2部からマンツー体制となる。

しかし、4部では子役がほとんどなので3人のマネージャーで全員を担当するので、担当タレントという概念は無いのであった。

「まぁ、育成がメインの仕事なんで、あんまり深く考えなくっていいんすよ。それに、稼げる子役は3部以上に在籍してますから、実際4部のタレント達はお稽古ごとと思って通っている子が多いんすよ」

空前の子役ブームで新しくできた芸能4部。

確かにしっかりと仕事を持つ子役は数名しかいない。しかも、契約更新のタイミングで3部へと移っていくのでほっといても問題ないらしい。

とりあえず、今日は17時から演技のレッスンという事もあり、その準備を午後から始める為、黒神もそれを手伝う流れとなっていた。

「しかし、どれもこれも売れそうにない。華の無い子ばかりだな?」

4部のタレント資料に目を通しながら、黒神はしかめっ面をしていた。

「そりゃ、そうっすよ。まだこの子達は卵ですからね?」

「卵っつったって、売れるタレントってのは華、オーラが出てるもんなんだよ」

「ふーん。そんなもんなんすかね?アテナさんもそうだったんすか?」

「、、、。そうだな」


中の話から、58日前まで芸能1部に所属していた女優である「城戸 アテナ」の事を思い出した。

彼女は12歳の時に黒神がスカウトした女の子だった。

彼は一目見てビビッと電気が走る直勘で彼女の才能を見抜いたのだ。

スカウトしてから、黒神は他の担当タレントそっちのけで、彼女の演技レッスン、ダンスレッスン、ボイスレッスンとのレッスンを欠かさず同席していた。

そして、メキメキと実力をつけていく過程を目にしていたのだった。

13歳の時にドラマの名もない役で、そのドラマを撮っていた監督の目に留まり「2リットル涙」という恋愛映画の主演で正式デビューを果たす。

その後、CMやドラマのオファーが鳴りやまず、高校を中退して女優業に専念する事となった。

その頃には黒神も芸能1部へ飛び級昇進を果たしていた。

というのも容姿はタレントに負けず劣らずという事もあり、最優秀若手女優のマネージャーはイケメンマネージャーという話題性も兼ねての出世だった。

あまりの分刻みの忙しさで週刊誌に取り上げられる事もなく、あれよ、あれよと売れっ子になり、気が付けば彼女が20歳の時には大女優と肩を並べるまでになっていた。

勿論、彼女の努力が一番であったが、その努力を支えていたのは黒髪のおかげでもあるのは明白だ。

そんな手塩にかけたアテナも今や行方不明。

そして黒神は左遷され見るも無残な別人と化していた。


「0から手塩にかけてたのにな、、、。俺の目に狂いはなかったのにな。2人で天下取ろう!って約束したのに、、、、。クソが!あのアマ、何処で何してやがんだ!!」

そんな彼の暴言を聞いた中は「しまった!」と気が付くも、ドナドナスイッチが入った黒神はやさぐれてしまう。

慌てて話を変える中は数名のタレントの資料を黒神に見せた。

「この子は4部の一押しっす!」

「あん?」

資料には「桃沢ももさわ 有栖ありす」と「藍田あいだ 睦月むつき」と書かれていた。

確かに容姿は両名、可愛らしく写真から見ても華があるように思えた。

14歳の藍田は和服美人という事からか坂崎が時代劇を中心に力を入れようと動いている話も聞いたし、若干11歳の桃沢に関しては「おはよう!キッズ」という子供番組のレギュラーの仕事も持っている為、このまま3部へと流れていくのは黒髪の目にも映っていた。

だが、黒神は彼女達とは違う資料に目を奪われていたのだった。

「へ?葵ちゃんですか?」

黒神の目を奪ったのは「蒼山あおやま あおい」14歳の中学2年生。

色白で14歳とは思えない大人っぽい顔つきの美人顔。身長も170cm以上あり、このまま身長が伸びたらモデルに転身も出来るだろうイメージだ。

特に、キリっとした太目の眉毛は女性にしては珍しいが、顔の印象がはっきりとするので一度見たら忘れにくい顔つきである。

しかし、中は首を横に振って葵の事を否定した。どうやら彼女は性格が勝気過ぎるせいか、男勝りの役柄しか演じる事が出来ないようで伸びしろが少ないんだとか。

本人も中学を卒業したら辞める様な事も言っているらしく、育て甲斐がないとの事だった。


「ふーん。もったいないね。多分、こいつは磨けば光ると思うけどなぁ?」

「本人がやる気ないんすから、仕方ないっす」

「いっちょ、手合わせ願いたいね?」

「手合わせ?」

「だって、特技に格闘技ってかいてあんじゃん」

「そっちの才能ですか!?」

女優に関してではなく、格闘技のセンスの事に触れた事に対して呆れ顔で黒神を見る中であった。


そして時刻は16時半頃。

ビルの2階にある大レッスン上に続々と4部のタレントたちが集まってくる。

今日はレッスン前に黒神の紹介がある為、朝礼形式で集まっていた。

「ねぇねぇ聞いた?あのアテナちゃんの元マネがうちらの担当マネになるんだって!」

日焼けが目立つ褐色肌の少女「黄嶋きじま 未来みらい」が後ろで体育座りしていた少女に話しかける。

「え?マジ?アテナちゃんの元マネって、超イケメンなんでしょ?やっりぃ!」

ガッツポーズをするその少女はオデコが広く、同じく褐色肌の体育会系少女「赤城あかぎ 神奈かんな

「イェーイ!イケメーン!」

ニマニマした顔でどんなイケメンかを想像しながらハイタッチで喜ぶ2人。

周りの少年少女たちもどんなイケメンかで雑談しながら、黒神達が来るのを待っていた。

そして、中と黒神がレッスン上を訪れると4部のタレント達が静まり返る。

どんなイケメンかを待ち焦がれる女子タレント達の期待する目が、中に突き刺さる。

そう、中だって最初は黒髪がどんなイケメンかを想像していたので、彼女達が向ける期待の視線はとっても理解できるのだった。


そして、黒神を紹介する中の一言で一瞬にして彼女達の期待は音を立てて崩されるのであった。

「あん?どうしたお前ら?顔を上げろ!タレントは元気でなきゃいかんぞ?」

キョトンとする黒神。気持ちが痛いほどわかる中は、女子タレント達を温かい目で見守るのだった。

黒神の自己紹介も終わると4部のタレント達は準備に取り掛かる。


「何処がイケメンだよ!」

「本当だよ!あれじゃ熊だよ!」

黄嶋と赤城がむくれてぶーたれながら準備運動に入る。

日直という制度があり、準備運動を仕切るのは年功序列で順番に回ってくるというルールがあった。

今日の日直は「紫苑しおん 玲央れお」15歳の中学3年生。準備運動を見る限り運動神経は無さそうに見える。

ただ、彼女の切れ長の目に面長の顔は、黒神の脳裏に何処かで見た顔だと思わせる顔つきだと思わせるのだった。

そして、黒神の推しメンである葵は、赤城達の近くで準備運動をしていた。

「ほほぅ。やはり、あの身のこなし。只者じゃねーな」

ニヤニヤしながら葵を見る黒神だったが、本人は全く気にせず準備運動をしていたが、その近くに居た赤城と黄嶋は黒髪の視線をかなり気持ち悪がっていた。

「うわっ!あの偽物イケメン、こっち見てんじゃん!」

「本当だー!キモいー!」

準備運動が終わる頃に演技レッスンを担当する先生がやってくる。今日の先生は演技指導でも有名なドラマの監督と舞台監督の2名がやってきていた。

俳優の卵とは言っても、ドラマ出演の仕事はそんなに多くはなく、どちらかと言えば舞台の仕事の方が多い為、舞台監督も演技指導にやってくるのだった。

「お久しぶりです!」

黒神が2人の監督に挨拶をすると、彼の顔を見ては戸惑った態度を出していた。

やはり、変わり果てた彼の姿を見て、ついこないだまでイケメンだった黒神星矢と同一人物だとは思えないからだ。


そんなこんなで、演技レッスンが始まる。

今日集まっているのは4部所属タレントの中でも15人程。仕事は勿論、学校や習い事、地方に住んでいる子供もいるので全員揃う事は先ずないらしい。

「桃沢や藍田は居ないみたいだな?」

「はい。桃沢はおはキッズのロケ。藍田は名古屋に住んでいるんで、土日のレッスンしか来れないんすよ」

「名古屋?んじゃ、藍田は名古屋支部のレッスンに参加すりゃいいじゃんかよ?なんでまた都内まで来んだよ?交通費も出ないのに?」

「それが、坂崎さんのお気に入りだから、こっち来るんですよ」

「うーん。まぁ、お気に入りなんじゃ仕方ねーな。確かに華はあるしな」

「しかし、どうにかならんのか?この子たちは、、、。」

黒神はレッスンする4部のタレント達を見回す。

彼が少しあっけに捉えているのも仕方なく、レッスンしている子達のほとんどが大根演技なのだったからだ。

特に赤城と黄嶋の大根ぷりには呆れていた。

ここだけの話。彼女達は今期の契約で打ち切りという事も会議に出ていたという。

4部所属のタレント達は名目は練習生であり、実はレッスン費用を払ってレッスン参加をしているのだ。

黙っていればレッスン費用で儲ける事も可能だが、プラネット・ザ・サンの方針としては「才能が無い」練習生は契約期間を設け、その間に才能が開花しなければ期間契約満了という形で除籍となってしまう厳しいルールがあった。

それは、子役ブームにただ流されて事務所に入ってしまった子供たちの将来を考えての方針だ。


さて、どうしたもんか。と考える黒神。

先ほどから何やら、演技レッスンする子供達を見ては、資料を見ながらメモを取っていた。

演技はどいつもこいつも代り映えせん。とりあえず、この後のダンスレッスン見てからだな。と思う黒神は頭を掻きながら苦い顔で大根演技をするタレント達を観察する。


「ちょ、またあの偽物イケメンこっち見てんじゃん!」

「えー。ロリコンなんじゃないのー?マジキモイー!」

そんな会話をする赤城と黄嶋なのであった。この出会いが自分達や黒神の人生を大きく変える事となるとは思いもよらないのであった。

さてさて運命の6つの神巫女との出会いは果たしてあったのか?

これからの黒神の運命やいかに。果ては、芸能4部は何処へ進むのか??

次回へ続く!

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