4 利菜の父の思惑
丸山グループのオーナー社長、丸山春雄は、次女の利菜が、豊後富士と付き合っているということを知ったときは、我が娘よ、でかした。と叫び出したいような気持になった。
丸山グループ。
スーパーマーケット、レストラン、ホテルを経営する企業である。だが、その知名度は全国的なものではなく、地方のグループ企業に過ぎない。
丸山は、相撲にはさほど詳しくはない。
しかし、美少年力士、豊後富士のことは、さすがに知っていた。アイドル顔負けのハンサムボーイで、絶大な人気を誇る。
我が娘の交際相手が、豊後富士ということになれば、この丸山グループのことも、大々的にマスコミに取り上げられるはずだ。 ましてや、将来、結婚ということにでもなれば、その宣伝効果は計り知れない。
だが、豊後富士との交際を嬉しそうに話していた利菜は、やがて、すっかりふさぎこんでしまった。
豊後富士と上手くいっていないのだろうか。
気になって、豊後富士のことを報じるマスコミの記事を読み込んでみた。
豊後富士は相当なプレーボーイのようだ。
うちの利菜もまさか。丸山は不安になった。うちの利菜に限ってまさか。
丸山は不安を打ち消した。
やがて、利菜はまた明るくなった。そして、丸山に対して、「会ってほしい人がいるの」と告げた。
「お相撲さんなの」
そうか、豊後富士とのよりが戻ったのか。
豊後富士の素行を思うと一抹の不安は残ったが、相手の親に会うというのであれば、利菜のことは、特別に、大切に考えているのであろう。
当日、利菜の横に座っていた相撲取りは、どこから見ても、豊後富士照也には見えなかった。