王国訪問「なんて美味しい罪の味!」
※この一章のまえの「序章」を更新中です!
更新があれば、この一つまえのお話しを読んでください。
しばらくお手数おかけします(。>ㅅ<。)汗
第二回書き出し祭り、に掲載して頂いたものです。
サングリア王国の大広間。
他国との晩餐会にも使われる豪華な場所である。
現在、この場には王と重鎮たち、騎士団、それから招かれざる客である白銀の少女が座っていた。
「ダンジョンマスターである貴女の望みは『レストランを経営したい』ということ……ですか?」
王が慎重に尋ねる。
「その通りです」
少女は可愛らしくにこっと笑った。
15歳ほどのまだ成長途中の体。白い柔肌に、艶めく白銀の髪をツインテールにしている。ワンピースドレスを着て、ルビーのような赤の瞳をパチリと瞬かせた。
たいそうな美貌だ。
王たちは緊張して硬くなった肩の力を意識して抜いた。
柔和な態度の相手に強く出ていいことはない。
王国側が圧倒的に弱者なのだから。
一生懸命、平穏を装う。
「質問をよろしいですか。なぜ、レストランなのですか?」
「趣味です」
「趣味」
思わずそのまま聞き返した。
(ダンジョンマスターが趣味でレストランを経営する……? 意味がわからない……)
沈黙がしばらく続いた。
少女はここで爆弾発言を繰り出す。
「ダンジョンマスター・ルナの大罪は【美食】ですから」
「……! なるほど」
ざわざわと空気が動く。
それならば納得できる、と呟いた重鎮もいた。
この世界各地にはダンジョンが存在する。
【孤独】【遊楽】【残虐】など……ダンジョンマスターは大罪を背負い、攻撃手段とする。
【孤独】ダンジョンならば空間隔離魔法、精神攻撃、幻覚、アンデッド魔物などが見られる。
しかし大罪はマスターの弱点でもある。
例えば【烈火】ダンジョンは、水魔法が得意な冒険者パーティに制圧された。
それなのに、なぜ目の前の少女は自らの大罪を教えたのだろうか……と、王たちは彼女の発言を信じきれない。
(実は嘘、という線もありえる)
「レストランを経営すれば、まっさきに美味しい新作料理を味見できるでしょう?」
「……ああ、えっと、まあ……そうですね……?」
(そうなのか? そんな理由?)
愕然と顎を落とした王が、悩む。
チラリ、と少女を眺める。
目を輝かせて唇を舐めている様子は、ただただ無邪気。
魔術師が王に(嘘は見られませんよ)と耳打ちした。
王の目から見ても、この少女はまるで子どもが夢を語っているようにしか見えない。
しかし子ども扱いは絶対にしない。
先ほど、少女は「国王に会わせて」と騎士団を壊滅させてここまでやってきたのだ。
細腕で騎士を放り投げ、大鎌で剣を受けて、押し入った。
門番がまともに取り合わなかったから仕方なく、という理由は理解はできるものの、ありえない非常識な絶対強者。
(慎重に扱わなければならない)
だから、ダンジョンマスターであるという世迷い事もいったん信じて話を進めた。
「あのね、ダンジョンが小さすぎて、誰にも気付いてもらえないんです。だから王国に広報してもらえたらなって」
「……レストランダンジョンがあると?」
「そうです! なんと! 大サービスで絶対死にませんよ!」
「……!? そんなことが」
「できます。ぶっちゃけダンジョン内で侵入者を倒した方が経験値が多いんですけど、死なないように魔物や罠を調整しましょう。メインはレストランですからね」
「……ご配慮誠にありがとうございます。しかし返事には時間を頂きたく」
王が苦い声でそう伝えると、少女は眉をハの字にする。
「すごーく時間がかかるんじゃないですか?」
「うっ」
「正直、餓死寸前なんです。ダンジョンも私も。だから早く人に来て欲しくて、わざわざお願いに来ました」
赤い瞳からポロポロ涙が溢れる。
大号泣である。
美食家が飢えるのは、本当に辛いのだ。
王たちがどよめく。
(このままダンジョンマスターを飢えさせたら、何もせずともダンジョンを壊せるのでは……?)
そんな下心を一瞬抱いたが……
「かくなる上は、人々を攫ってダンジョンに押し込んで経験値にするしかないかなーとも」
「食事だ!! 食事を持ってこいッ!!」
王の一喝で、大急ぎで最高級の食事が揃った。
夜会のために準備していたものを全て放出した。コックたちは未だ嘗てない働きを見せた。
大テーブルにはずらりと大皿料理が並ぶ。
少女が顔を輝かせた。
丁寧に手を合わせて、料理を眺める。
「頂きます」
王が目を見張る。
(……こんなに丁寧に料理に向き合う者を見るのは、いつぶりだろうか……。会議の席では、皆交渉に必死で、料理は冷め切ってしまい、目を向けることもなかった)
ふと、気付いて……少女の視線に誘われるように、料理を眺める。
作りたてのホカホカとした湯気、艶のある食材、色とりどりの華やかな盛り付け。
少しの間、目を奪われた。
少女の銀のフォークがきらめき、ハッと注目を戻す。
「んんん〜〜!」
サラダをしゃきっと噛み締め、柔らかな肉をナイフで切り分けて大きく開けた口へ。
膨れた頬の内側では、肉汁がじゅわっと溢れている様子がありありと想像できる。
ポタージュスープを丁寧に飲み干して、豆の副菜を、なにやら二本の棒で摘んでパクリ。
デザートの花咲きババロアにチーズムース、木苺のタルトは、可愛らしい少女をさらに引き立てた。
他にも、たくさん。
あまりに美味しそうに食べるので、王たちも思わずごくりと喉を鳴らす。
業務中なのに空腹を覚えたのは、彼らにとって初めてのことであった。
少女は、大テーブルに並んでいた大皿料理を、ぺろりとすべて喰らい尽くした!
「なんて美味しい、罪の味♡」
ほうっと一息。
「……それは良かったです……」
王が、顔を引きつらせて返事をする。
精神的疲労のため、もともと老けぎみに見られる顔が10歳増しになってしまっている。
まだ25歳だというのに。
頭を振り、いったん食欲を追い出し、真剣に思考する。
(そうだ、ダンジョンが弱っているから……と、この少女は外に出てきたではないか。悠長にダンジョンの飢えを待っている場合ではない。何をしでかすか分からないのだ。機嫌を損ねないよう、とりあえず腹を満たすくらいしてやったほうがいい……)
少女は夢見るように頬を染めて、しばし後味を楽しみ、ナイフとフォークをそっと、置く。
目の前には最後の一皿があるのだが。
「……召し上がらないのですか?」
「レストランを経営って言ってても、実力が分からないと不安でしょう? だから、見せてあげます。レストランダンジョンで提供するものを」
おお、と王の脇に控えていたコック長が興味を示したので、重鎮がゴホン! と咳をすると姿勢を正した。
「[大罪魔法]魔物創造」
「なんだと!?」
ガタッと騎士たちが立ち上がり、王を守るように動く。
……が、光った皿の上には可愛らしい「ピヨコ」が出現している。
王国名産の地鶏・ココの子とそっくりだ。
「……は?」
「オムレツの魔物ですよ」
≪イートミィ!≫
ピヨコは少女に向かっていく。手のひらにえいえい! とふくよかボディを押し付けて、体当たりしているようだ。
コツンと指で弾かれて、ころころ転げてしまった。
小さな星の実になる。
倒された、らしい。
「…………」
「これをこうして」
少女は星の実を皿において、蓋をして、開くと……先ほどコックが作ったオムレツが現れた。
「じゃーん!」
誰も反応してくれない沈黙の中……少女がいそいそとナイフとフォークを再び手に取り、丁寧に味わってオムレツを食べる。
「んー!」と幸せそうな笑顔。
コック長が思わずでれっとして宰相に肘打ちを食らった。
少女は手を合わせて「ごちそうさまでした」と言う。
本当に食事を終えたらしい、と王たちが理解した。
「このような美味魔物を創造して。ダンジョンで倒して星の実を採取、レストランスペースで食べてもらうんです。いかがですか!」
(頭が痛いぞ)
王がこめかみを強く押さえた。
しかし、きらめく笑顔で少女に返事を急かされているので、何か、言わなければならない。
「わざわざ一度魔物にしなければいけないのですか?」
「ダンジョンですから」
「そうですよね……」
王は疲れているのだ。
「……レストランダンジョンへの協力要請は窺いました。王国側としては、さらに保証がほしいところです。実際にダンジョンを訪問して安全の検証をしたい」
「いいですよ! たくさんの人が来てくれるのは大歓迎です」
快諾されてしまった。
動揺しながらも、王はまず一週間後に使者を送ると約束した。
「こちらが協力をお願いしてるので、王国にも良いことを対価として約束しますね。近隣で強大な魔物が暴れている場合、私が出向いて狩りましょう」
「なんですって!?」
「食材にしますから問題ありませんよ」
少女はなんでもないように、ほがらかに言ってのける。
王はこの話を聞いて、俄然、前向きな気持ちになった。
この国にはよく上位魔物がやってくるのだ。
顎に手を置き、思案。
「貴女が討伐協力者となれば、頼もしい限りです」
「良かった! じゃあそうしましょう、頑張りますね。美味しい食事のためにっ」
「……国の安寧のために」
少女が近くまで歩んで来て、手を差し出したので、王は覚悟を決めて握手する。
ほっそりとした小さな手を、男性らしい手が包んだ。
なんと繊細な、と王は感嘆の息をそっと吐いた。
「ではまた! 一週間後を楽しみにしていますね。お料理ごちそうさまでした」
少女は手を振りにこやかに立ち去ろうとする。
「お待ち下さい! ダンジョンの場所は?」
「あっ、いけない。太陽竜の巣の跡地です」
「────ッ!?」
「では!」
少女が向かうのはなぜか廊下ではなく大窓。
突如として窓から黄金の光が入り込んで来た。
まぶしさに王たちが目を細めて、しかし必死で少女の行動を観察しようとする。
「お迎えご苦労さま。グレイビー」
さっそうとテラスから飛び降りる少女。
「大丈夫ですか!」と叫んで心配をアピールしながら王たちがテラスに押し寄せる。
──鮮やかな真紅のドラゴン! 腹は黒い。太陽の光が当たった部分は黄金に輝く。
ドラゴンの背中で少女が手を振り、あっという間に遠ざかっていった。
国王たちは青くなりながら、ざわざわと話す。
「……本当に竜の巣の方に飛んでいったな。なわばりに入ると攻撃してくる凶暴な太陽竜はどうしたというのだ? そういえばひと月ほど、竜の地鳴らしを聞いていない……」
「ドラゴンの従属なんてありえない。……いや、そもそも全身金色のはずだ。別種か?」
皆が考え込む。
そんな中、コック長がぽつりと一言。
「グレイビー? 太陽竜のステーキ・香味脂ソースかけ……の美味魔物とか?」
「狩られた……?」
「うそ……太陽竜死んでる……?」
全員、遠い目で、竜の巣”跡地”を眺めた。
地下にマグマを蓄えているため蒸気が昇っているが、あのダンジョンマスターを思い出してみると、今やそれさえ調理のための湯気かと錯覚してしまう。
「今宵は会議に変更だ!」
王の声が大広間に響いた。
☆
「美味しい物でお腹が満たされて幸せ……! はああぁ。今日はとってもいい日だね。お土産の食糧ももらったし、レストラン作り頑張ろうねグレイビー! ……まだ何もできてないけど」
『一週間あるでしょう? ルナ様』
「そうだね。なんとかなーる!」
美味しく平和なダンジョンにしようね! とルナは笑顔で語り、自らのダンジョンに帰還した。
読んでくださってありがとうございました!




