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ツクモ様の昔語り  作者: 九木九十九
プロローグ
1/7

衛星さんの昔語り

お読み頂きありがとうございます。


 ハロー、ハロー、そこのお人。

 ちょいとよろしかったらで良いのですが、儂の話を聞いていってはくれませんか。

 とりとめのない、老人――いや、老衛星の昔話なのですが、退屈させはしませんので。どうぞ。

 

 儂は惑星アースの周りを、ぐるぐると回ることを生業(なりわい)としていまして。

 いえ、正確にいえば――儂から出ていく電波が、近く(宇宙的規模で)を通る船を助けているみたいなんですがね。

 でもねえ、アースから宇宙船が出てきたのなんて、もはやよっぽど遥か昔のこと。あの日、ほとんどの人類がアースを捨てて、宇宙の彼方へと飛びたってからは、もう滅多に見かけなくなってしまいました。

 だから、儂はこうしてアースや遠くの星を眺めることと、たまに通る隕石や船、太陽の風を観察することくらいしか、日課にできないわけなんです。

 

 ただし、一時期を除いては。

 

 丁度、人類の宇宙への巨大な便が、何度にも分けて発車されていた頃でしたか。

 あの頃、儂と同じようにくるくる回ってる衛星の中に、儂のように意識のこびりついたモノがおりましてね。

 付喪神(ツクモガミ)――というようで。彼女いわく、儂らのような存在は、アースではさほど珍しくないのだと。

 何故、衛星がアースの様子を知っていたかって?

 それは彼女がアースを見る、聞くための、調査衛星だったからです。

 儂も詳しくは知りませんが、望遠レンズで直接アースをみたり、レーダーを使って地面のでこぼこまで調べたり、仕上げにはミクロのロボットを大量に送りこんで、視覚聴覚嗅覚味覚触覚の情報を受けとっているんだとか。

 もうミクロのロボ――略してミクロボの五感情報だけでいいんじゃないかと、儂も思ったことがあります。ですが、なんとも『情報は制度と鮮度が重要』とのこと。

 

 おっといけない。脱線は儂の悪いくせでしてね。

 ああ、もちろん軌道を外れたことはないですが。

 ともかく、彼女は儂の近くに寄る度に、アースの様子を聴かせてくれましてね。あの頃だけは、日向ぼっこ以外の暇潰しがあったというわけなんです。

 

 それでね、儂は今からその、彼女の話をそのままお贈りしたいと考えるのですよ。

 儂の記憶が真空と混ざって、溶けてしまうその前に。

 なにぶん、ペンを持つ手がないものでしてね。誰かがこの話を拾ってくれないか、といったところです。

 

 では、僭越(せんえつ)ながら、ご早速。

 むかし昔。今となっては昔の話です。

 

 あの星が新星に爆発した頃のことです。

 人類はアースを見限りました。

 それも無理もないことでしょう。いくら生まれ故郷だろうと、心中なんてしたくはないのです。

 なにせ、あの頃には他の惑星に移住できる環境が整っていたのだから、みんな、そちらへと移っていくでしょう。

 なんでも、高度な演算マシンが未来を分析した結果、近年中のアースの滅亡は非常に確かなものとなったらしいとか。

 マシンに半ばおんぶにだっこだった人類は、急ぎに急いでアースを旅立っていきました。ちょうど罠にかかったばかりの鳥のような、そんな焦り方でした。

 ただ、前述に『ほとんど』と述べたように、心中のほうを選ぶ物好きもいました。

 単純に、取り残されたモノだったり、或いは、なにか信念があってそうしたモノだったり、もしかしたら、特に何も考えがなかったモノもいたのでしょう。

 

 儂――いえ――私が語るのは、その残り物と残り者達の物語である。

 

 そう――すべて今となっては、もう昔の話。

 

(2017.11.17 大幅に加筆修正しました)

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