意味無き男の死
思い付きで書いた。もう少し書けたと思うけど、iPhone4sの動作が遅過ぎて諦めた。
木枯らしが吹く季節の終わり目には厚着をしなければ、寒くてやっていけない。ジャンパーやマフラーなどを着用し、街の人々は今日も出勤や通学に忙しなく動いている。そんな彼ら彼女らを眺める姿が一つあった。
性別は男。マフラーではなく、ネックウォーマーを着用し、口までを覆って寒さを凌いでいる。そんな彼はただぼうっと立っており、何をするでもなく、人の流れを見て憂いの帯びた顔をしていた。何処か寂しげなその表情は見る者を同情させるような雰囲気を漂わせている。
けれども、行き交う人々は彼の表情を気にする訳でもなく、通り過ぎていく。人が一人いるだけでは気にする必要もない。例えば、血反吐を吐いていたりしたらならば、誰かが気にしただろう。だが、彼は何もせず、ぼんやりしているだけだ。それは景色と同化しているのと変わらない。気にする人の方が稀なのだ。
「今日で終わりか。何だかいつも通り過ぎて面白みに欠けるな」
彼はそう呟いて手に持っていた紙を広げて内容を確認する。何度も確認したのか、その紙は端っこの角がヨレヨレしている。彼は無意識にその内容を小さく呟いていた。
「今日、あなたは死にます。死因はご存知の通り、心臓病の発作。何をするのも自由です。あなたの好きなように最後の1日を過ごしてください 神様より」
その内容はあまりにも一方的で残酷な物であったが彼にとっては感情一つ動かさない程にどうでもいい事であった。彼は元から死を望んでいたのだから。
その手紙を読んだ後、時計を見て彼はそろそろかと呟く。もうすぐで零時だ。もうすぐで自分が死ぬのだと思うと感慨深く感じる。そして、一つだけ二度と叶わない夢を口にする。
「百合に、会いたかったな。俺も、もうすぐでそっちに行くから会えるのか」
百合というのは彼の妹の名前だ。彼の妹は昨年、事故にあい、事故死している。彼にとって妹は何者にも代え難い人であった。その大切な妹を亡くしてから彼は無気力に生きるようになり、病気のせいもあり、死を望むようにもなった。
果たして、死ぬことは幸せとなり得るのだろうか。彼にとっては死は救いだろうが本当にそうなのだろうか? 他に希望はなかったのだろうか?
その問いに答える者はなく、彼もまた死ぬこと以外に意義を見出すこともなかった。彼の人生は呆気なく終わる。
「あ」
零時となった。彼は地面に倒れ伏せ、苦しむ間もなく、あっという間に息をひきとった。発作というにはあまりにも苦痛の無い死。けれども、彼にとっては救いとなったことであろうことは間違いがない。その後、彼が病院に運ばれ、死亡が確認されるまで三時間を要するのであった。
こうして、一人の男が死んだ。それに意味はない。神もただ予言を残しただけ。気まぐれなその神の行いは彼に何を齎したのだろうか。残酷な真実? 安堵? それが何であろうとも、やはり関係はない。人は死ぬ時は死に、生き残る時には生き残るのだから。
これはただ男が死ぬだけのお話。そこに意味はない。何の価値もないのだ。