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少年だけ魔術が使えない。  作者: 感謝感激雨霰
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少年、決意す。

 凄まじい。その表現はこのために作られたのかと思わせられるほど、ルナという少年は知識を取り込んでいった。

 乾きに乾いた土地に水を注いだように、どこまでも貪欲に一つ余さず全てを吸収して、なおも欲しいと渇望するその姿勢は、教鞭を振るうアランも出来の良い生徒だと暢気な事を考えられないほど凄まじかったのだ。


 物覚えが良いという次元ではなかった。本当に一回学んだことは頭に縫い込まれており、そこを基盤に広がる知識をさらに収集し、まるで知識の倍々ゲームを脳内で繰り広げているかのように成長していった。


 たった一日、いや、正しく言えばたった六時間のうちにノトス語を習得してしまったのだ。さすがに読みや日常会話といった部分にはたどたどしさが残っているものの十分意思疎通が図れるものだし、書きに至っては辞書ほどある分厚い本を渡しただけで並みの大人と同等レベルまで昇華させている。

 勉強させているうちに、頭の中で元々喋っていた言語と学んだノトス語を翻訳までこなしており、今までアランに喋っていた内容を改めて伝えるなど、瞬間的記憶も常軌を逸しているのを窺わせた。


 アランは最初はルナが天才だからそうなのだと思っていた。だが違ったのだ。

 勉強するために机に向かうその目が、あまりにも必死だったのだ。高難易度の魔術科学校に受験するために必死だとか、そういった種類のものではなく、文字通り、自分の死を隣に置いているかのように、飢餓した人が目の前に落ちているリンゴを見つけたように、必死だったのだ。


 元々ルナの頭が良かったという点は否めないが、それを加味しても常軌を逸したその学習能力の根底となっていたのは、彼が生きてきた環境だった。勉強しながらルナが語った内容でアランはそう察した。


 物心ついたときにはすでにこの国のスラム街に這いつくばっており、まず最初に生存本能に突き動かされて傍にあった腐ったゴミを食し、乾いた喉は唾で誤魔化した。

 命をこの世に垂らされてからルナに神が課したのは、自分が過酷な環境に生き抜く術を学ぶことだったのだ。

 その日からルナは本能的に視界全てに入る物から学ぶという姿勢を取り、どうすれば自分は生きながらえるかを考える思考回路を鍛えた。言い方は生易しいが、実際のところは筋肉的に限界を迎えても一生走り続けろと言われているようなもので、まさに生と死を別つ環境を生き続けてきたのだ。


 もはや人間が出来るようなことではない過程を乗り切った末に手に入れたのが、この学習能力と応用力だったのだ。

 そんな子を自分は拾ってしまったのだとアランは戦慄に似た何かを背筋に感じた。別に悪いことではない。むしろ魔術を研究してもしたりないご時勢に、こんな有望な人材を掘り当てられたのは今世紀最大の功績と言っても過言でないくらいだが、同時に歪に歪んでしまったがゆえに、あらぬ方向へと暴走する可能性もあるのだ。

 誰もが考え付かないことを考え付き、それを開発する。それは一見すばらしい発展のように見えて、しかしとんでもなく危険なことでもある。たった一人のせいで薄氷の上を行くこの世界の均衡を呆気なく崩壊させられるということなのだ。危険分子以外の何者でもない。


 だが、それはこの状態で野放しにした話。きっと彼は基本的な言語機能は身につけたのだから、それを足がかりに更に邁進するはずだ。首輪がついただけの魔獣のように、管理者が誰もいないその魔獣はみるみる内に強大化し、いずれ誰も手がつけられないような存在になるのも考えられる。


 ならば、それを掘り当ててしまった私が、彼を正しい道を行くように道標となり、そして制御しなくてはなるまい。

 机にとっぷして寝ているルナの寝顔を見ながら、アランは静かに決心した。



 ◇◇◇


 

 深い眠りから覚めた。そう自覚できるほど寝起きの僕の頭は靄掛かっており、らしくもなくいつぐらいに寝たのかも覚えてなかった。

 基本的に僕は就寝するとき、まず身の安全を確保しないといけないから、自分の意思に否応なく結構浅い眠りになる。何があってもすぐに飛び起きられるようにと考え始めたころにはその癖がついていて、その癖のおかげで何度か助けられた場面もあったので余計癖が悪化して……の繰り返しだった。

 だからアランに引き取られた今日一日熟睡できたのは、心の底からここは安全なんだと確信できたからだろう。久しぶりすぎて、もはや初めてに感じられる熟睡はとても心地よいものだった。


 寝る直前にある最後の記憶は数学の初歩を学んで鉛筆を走らせていたところだ。しかし現実はいつのまにふかふかなベッドに身を横たわらせていて、暖かい毛布が体を覆っていた。自分の熱と毛布とベッドが持つ保温性で、再びまどろみを誘うような暖かさを作っていた。

 それと同時に頭に枕が敷かれていて、こちらも今まで直の床で寝ていた僕としては病みつきになる心地よさを感じさせる。少しだけシャンプーの匂いがし、それに吸い寄せられるような甘い匂いが混じっており、なぜだかさっきよりも体が熱くなったように感じた。


 それからゆっくり体を起こしたすぐ隣にアランの頭があった。正しくはベッドにもたれ掛かるように寝ており、毛布越しの僕の脚を枕代わりにして寝ていた。

 そこでようやくこのベッドがアランのベッドで、代わりに僕が使っているのに気づいた。たぶん勉強中に寝た僕をここまで運んでくれた上に、ベッドを譲ってくれたんだろう。

 試行錯誤のため色々な体勢で寝たことのある僕の経験則として、アランの今の寝方は起きた時体が痛むと思う。

 僕がノトス語を喋れるようになってアランと会話して、彼女は生まれて初めて僕を守ってくれた恩人なんだと実感した。だからと言うのは少しおかしいが、そんなアランに何から何までお世話になって申し訳なく思い、せめて寝床を奪うのはやめようと決心し、ベッドから降りてアランの体を持ち上げようとする。


 しかし、床にぺたんと座り込んで前のめりにベッドにもたれ掛かってる状態なので、道動かせば起こさずにベッドに移動させることができるか解らず、あれこれとアランの腕を動かしたり上半身をずらしたりしてみたが、結局後ろから抱きかかえて持ち上げやすい体勢した方がいいという結論に落ち着き、それを実行した。

 

 起こさないように静かに腕を回すと、腕全体が枕のようないつまでも触っていたくなるような弾力と柔らかな温もりに包み込まれた。小さな寝息を零すたびに体が小さく上下し、とくんとくんと一定の周期で鼓動が刻まれる。

 僕の両腕が軽々と回してしまえるほど華奢な体に、スラム街にいたどの女の子よりも大きい胸、すらりと伸びる程よい肉つきの手足、そのどれもが僕の動悸を高める原因になる。

 よいしょと持ち上げてみると、その細い体らしい軽さを腕に伝えてくる。本当にこの子があの闇商人を有無を言わさず一撃で倒したのか疑いたくなるくらいだ。

 

 ノトス語を喋れるようになってから、僕を助けてくれたときに起こった現象のことをアランに訊ねてみたら、彼女は『それは魔術だよ』と教えてくれた。

 それは何? と重ねて問うと、アランは少し思考を巡らせるように顎に指を添えて『この世界の基盤かな』と答えた。僕も使いたいと申し出たが、アランはにこりと笑って『君にはまだ早いよ。まずは数学から出来ないとね』と数学の次に教えてくれると約束してくれた。

 そんなわけだから数学を勉強していたのだが、その途中で寝てしまっていたようだ。


 僕にとって大人というのは敵でないにせよ、恐怖の象徴であることには変わりない。アランからこっぴどく怒られたものの、僕が生きていくためには食べ物と水が必要で、それを持っているのが大人だった。だから盗まざるを得ず、日が昇って落ちる度に頭を巡らせなければならなかった。どうやれば盗めるのか、どうやれば大人から逃げれるのか、そんなことを考えるばかりだった。

 なぜなら大人は僕たち子供より遥かに強い。体も大きいし、腕も太いし、何もかも知っているような目をしている。一度捕まってしまえば未来は無いも同然だ。

 そんな大人を指先一つで昏倒させることが出来る魔術は僕にとって魅力溢れるものだった。この世界の基盤を為しているらしい魔術を是非学びたい。それが僕が生きていくうえで必要なものだからだ。


 焦る気持ちを押さえつけると共に、持ち上げたアランをベッドに寝かせる。はみ出てしまった脚を乗せて、上から布団を被せる。

 僕にとって、アランはこれから先の未来を提示してくれる案内人だ。今までのような生きるか死ぬかの境を彷徨う毎日ではなく、生きられることは前提で色々なことを学べる毎日。楽しみで仕方ない。


 ふうと寝起きの運動をした後の吐息をつくと、それに習うようにアランから小さなあくびが漏れた。まだ完全に目は覚めていない様子だけど、寝かされた状態でぐぐっと両手足を伸ばした。



「ん……くぅ」



 艶やかなため息を漏らし肩に手を当てて筋肉を解す。やっぱりあんな姿勢で寝ていたから全身が痛んでいるのだろうか。

 上半身を起こして首を回したアランは未だ意識がはっきりしていない様子で、目が眠そうにしょぼついてるが、潤った薄い唇が空気を食んだ。



「《治療(ヒール)》」



 唐突に行われた魔術。アランの胸の真ん中に幾何学的な文様が薄い緑に光りながら浮かび、アランの全身を淡い光が包み込んだ。その光が全身に溶け込むと次にはアランがさっきまでの眠気は嘘のようにパッチリと両目を開いて僕を見ていた。



「あ、おはようルナ君」



「おはよう、アラン」



 傷だけでなく眠気などにも《治癒》って効くのか……。すごい便利そうだ。

 ますます魔術について興味が湧く僕の目の前でアランは一度自分自身の全身を見下ろした後に僕を全身を見た。



「あはは、ごめんね。気を遣わせちゃって」



「僕も、ベッド使わせてもらってありがとう」



 ノトス語は不思議なもので、一人称が人それぞれで変わるらしい。アランだったら『私』レンジャーだったら『俺』ロイだったら『僕』他にも色々な種類があるみたいで、例えば『わし』なんていうのもあるらしい。

 区別の仕方は曖昧らしく、僕が作った言語の中には一種類しか一人称が無かったためどうすればいいか聞いたところ、アランが『絶対僕! 僕にしないとだめ! 解った!?』とすごい剣幕でお勧めしてくれたので僕に落ち着いている。なんだか鼻息が荒かったのは気のせいだろうか。


 改めてアランの部屋を見回すと、キャラバンという車両の中とは思えないような空間で、一架の本棚に詰め込まれた本たちに木の机の上に乱雑に置かれている紙、木の床にアンティークの電球が揃っていると知的な空気が漂う。

 アランが起き上がって窓際に近づき、閉められていた遮光カーテンをばっと開けた。



「んー! 良い天気だね!」



 汚れに満ちていたスラム街から見上げる青空よりも、この部屋から見上げる青空の方が澄み渡っているように見えた。

 それが、これからの日々の予感を漂わせていた。








 今日初めて『朝ご飯』なるものを食べた。見たことがない食べ物がずらりと並び、パンしか知らなかった僕にとってモノクロがカラフルになったような衝撃だった。

 スクランブル状に盛り付けられた明るい黄色の食べ物の上に、鮮やかな赤色の球状に緑の蔕を乗っけたもの。僅かに焦げが残された『ベーコン』にしゃきしゃきと音をたてる『サラダ』

 どれもが新しい味を口の中で訴えかけてきて、美味しさのあまりに涙を流してしまったほどだ。これを作ったアランは嬉しそうに微笑みながら僕が食べる姿を眺めていた。

 同席していたレンジャーとロイはおかしなものを見るように眉を寄せていたが、ある程度は察したのか声を掛けてくることはなかった。


 この《エルメリア》というキャラバンにはエルメリアという人ともう一人いるらしいのだが、前者はしばらく帰ってこない外出をしているらしく、後者はただのねぼすけだからまだ寝ているらしい。

 こんなに美味しいものを食べられないなんてもったいない。二人の分も食べたいくらいだ。まだフォークの扱いには慣れていないけど、あの食べ物をもう一度食べられるのならお構いなしだ。

 行儀よくしなさいと叱られたが、追加に貰った。ねぼすけには後で何か作っておかなきゃと言っていたアランに感謝しきれない。


 そんなカルチャーショックの後にレンジャーとロイはそれぞれ仕事があると言って早々に朝ご飯を食べ終わり、レンジャーは外に、ロイは自室に戻った。

 それからすぐに昨日途中で終わってしまった数学の勉強をし始め、アランにあれこれと教えてもらっていると壁に立てかけてあった時計が重々しい音を鳴らした。

 何事かと思えば、お昼の12時を回ったことを知らせたのだという。この世界には『時間』という目に見えず触れもしない物があるらしく、一日は24時間で作られているようだ。時間が経つにつれて『太陽』が空に昇ったり沈んだりする。その時間に合わせて世界は動いているのだという。とても面白いものだ。あるかどうか確かめられないのに、そんなものを頼りに世界が回っていて、それで上手くいっているのだから不思議だ。そういう『時間』のようなものを概念と呼ぶそうだ。奥が深い。


 アランから与えられる数学の教科書を全て解き終えたころには午後の3時を回っており、確かめるためのテストも合格したのでいよいよ魔術についての勉強に移った。



「魔術には色々な種類があるの。炎魔術、水魔術、土魔術、風魔術、光魔術。この五つを纏めて《基本魔術》と呼ばれているよ。昨日ルナ君が見た魔術は土魔術《岩弾(ロックブラスト)》だね」



 そう言い人差し指を立てると、その指先から小さな岩が形成され、空中で留まりながらその場でくるくると回る。そして何の拍子もなくその岩は空気に溶け込んで姿を消した。



「そして霊魔術、召喚魔術、封印魔術、治癒魔術、干渉魔術の五つを《補足魔術》と呼んで、合計十個の魔術を組み合わせて様々なことが出来るようになる。寝起きで使ったのは治癒魔術だね」



 難しい単語が沢山並んだが、確かに理解できている。意味もちゃんと解る。

 新しい言語を習ったばかりの僕を配慮してゆっくり説明するアランは、僕が話しに追いついたのを見計らって説明を続ける。



「例えばルナ君がここに来たばっかりのときにお風呂に入ったの、覚えてる? あの時キミを洗った時に使ったお湯は、水魔術と干渉魔術を組み合わせて作ったお湯なんだ。そういった違う魔術同士を掛け合わせた魔術を《応用魔術》って呼ぶの」



 今までの出てきたことをおさらいするようにアランは両手を広げて僕に見せた。

 右手の親指から順番に小さな炎や水玉や土が浮かんでおり、左手には文様が浮かんでいる。治癒魔術を指す中指には今朝見た幾何学模様が浮かんでいた。



「それで、その魔術を使うためにはどうしたら……」



「まぁまぁ、そう焦らないで。順序正しく説明しないとこんがらがっちゃうよ」



 人差し指に漂っていた水玉を僕の額でぱちんと破裂させた。干渉魔術が施されていない水魔術だったのか、ひんやりと冷たい水が額から滴り落ちた。



「この魔術を使うためには三つ必要なものがあるの。一つが《魔力》二つ目が《魔術式》三つ目に正しい知識。この三つ全て揃って初めて正しい魔術を使えるようになるの」



 机の上においてあるメモ用紙を無造作に一枚手元に寄せると、突然アランの右手に小さな光が収束し始めた。これが光魔術かと思ったが、その光が棒状に形成され上から光がはがれ始めると、光の中から僕がさっきまで使っていた鉛筆が現れ始めた。全ての光が無くなったときには机の上に転がっていたはずの鉛筆がアランの手元に移動していたのだ。

 光魔術ではなく、召喚魔術だ。



「たった今使った召喚魔術の構成分配はこんな感じ」



 ささっとペンを紙に走らせ僕に見せた。そこには『魔力:0.01 魔術式:α(アルファ)型 階級:初級』と書かれていた。初めて見るものばかりである。



「まず魔力。これは人なら誰もが体の中に持っているもので、《魔術回路》を活性化させると生成することが出来るものなの。魔術回路っていうのは所謂心のことで、食事をしたり運動をしたり、とにかく心に刺激を与えれば活性化するの。紙に書いてある『0.01』っていうのは平均的な人が体に保持している魔力総量の約0.01%を消費するって意味」



 ふんふん、と頷いているとアランは難しい顔を浮かべた。



「う、うーん、説明しないといけないこと多すぎるなぁ……魔道書を使っちゃお」



 再び召喚魔術で取り寄せた魔道書と呼ばれた本は、茶色の革張りで今まで使ってきた教科書を積んでようやく届くくらいの太さをしていて、ページが全体的に古ぼけているように黄ばんでいた。

 想定外の内容の多さに空いた口が塞がらないが、魔道書の表紙を読んでみると『初級魔術入門の書』と書かれており、つまりこれに似た内容の魔道書がまだ沢山後に控えてることが窺え、思わず口角が引き攣ったのを自覚した。

 そんな僕を知ってか知らずか、アランはどこか誤魔化すように明るい声で宣言した。



「魔術の基礎については2ページから210ページまであるから、まずはそこまで読んでみよう!」



 ということで、魔道書を読み進めて纏めてみた。


1.魔力


 これを魔術式に当てはめることによって魔術の行使が可能となる。

 厳密にはこれを魔術式に当てはめた状態のものを《魔術空間》に送信することによって、それを受け取った《魔術空間》が三次元に干渉し成り立っている。

 魔力には《特性》と呼ばれるものが存在し、誰もが持つゆえに誰もが異なる性質を持った魔力を保有している。ただし誰もが違うと言えど、一般的にはその差異はほとんど観測できないレベルである。

 魔力を生成する方法は生まれながらに体内に備わっている魔術回路を起動し活性化させるというもの。

 生成できる魔力は個人差があり、誰しもが限界がある。

 魔力は人体に維持しにくく、特定の物体に保存できる性質がある。人体に維持しにくいというのは正しく言うと、人間の本能が魔力によるパンクを恐れて自然排出を促すため、かなり熟練させなければ大量の魔力の長時間の体内での維持は難しい。逆に言えば極少量であれば少し意識するだけで維持することは可能である。


2.魔術回路


 誰しもが生まれながらに体内に存在する魔力を生成する場所。

 しかし魔術回路という器官があるわけではなく、概念的に存在している。

 これを活性化させることによって魔力が生成される。活性化させる方法は運動をしたり、食事を取ったり多岐に渡る。

 魔術回路は鍛錬によって魔力の生成量を上げることができ、適度に鍛錬を続けていれば老いても衰えることは無い。

 今現在では魔術回路は心と同一ではないかという説が有力であるとされている。


3.魔術式


 魔術の行使に当たって、魔力に起こそうとしている事象を実現させるための式の総称。

 魔術の強弱の大本の調整を魔術式で行い、微調整を使用する魔力の総量で行う。

 そのため、炎魔術の中にも何段階ものレベルが設けられており、それに相応しい知識量と理解度、魔力の量が必要とされている。初級をα型、中級をβ(ベータ)型、上級をγ(ガンマ)型、三級をδ(デルタ)型、二級をε(エプシロン)型、一級をζ(ゼータ)型、魔級をx(イクス)型を用いる。

 一般的に魔術を行使する際は魔術式の詠唱を行うことでより鮮明に頭に思い浮かべてされることが多い。

 生活で必需となる魔術式は学校で習う。その他は魔術専門学校にて習うことができる。

 具体的に魔術式は専用の文字を使うことによって構成されているが、ある程度慣れれば必要としている魔術式を頭の中で思い浮かべて魔力を通せば魔術を行使できる。感覚的には暗算に等しい。

 逆に返せば、特定の物質に直接魔術式を記入してしまえば、後は魔力を通すだけで魔術の行使が可能となる。もちろん高度な魔術式になればなるほど必要な魔力の量も文字数も極端に比例していく。

 魔術式に使われる文字そのものを独自で解析することによって、オリジナルの魔術式を構成することが可能であることが世間一般的に広がっている。ただし、それには専門的な知識と経験が膨大に必要となるため、一般人には縁の無い話でもある。

  

4.特性


 特性とは魔術を行使する際に使用する魔術式との親和性を一般的に指し、ニュアンス的には特別なものではなく、色のムラと同じようなもの。

 例えば炎魔術に親和性を持つならば《猛火》の特性であり、炎魔術の行使に長ける代わりに水魔術の行使は滞るといったもの。

 しかしムラと表現した以上、特性にもレベルのようなものがあり、非常に極端的に言えば炎魔術しか使えないほどの《猛火》という特性を持っているとすれば、極めて強力な炎魔術を行使できる代わりに他の魔術全て行使できない、という者も存在する。

 炎魔術《猛火》 水魔術《灌水》 風魔術《飄風》 土魔術《王土》 雷魔術《霹靂》 光魔術《燦光》


5.魔術空間


 定義として、四次元そのものを指す。

 所謂ところ宇宙に匹敵するレベルで謎の塊である空間だが、発見した魔術式を三次元で使用することでその魔術式が自動で魔術空間に吸収され、何かしらのプロセスを踏んで三次元に干渉を及ぼしているということは解明されている。

 非常に長い年を掛けて解明されつつある魔術分野において最大の謎とされている空間である。


 他にも細々としたものがあったのだが、集約するとこんな感じだ。

 メモしながら読み進めていたのでほとんど頭に内容は詰め込めた。しかし全部読むのにすでに夜の9時を回ろうとしていた。

 読書に没頭していたせいで気づかなかったが、アランが机にとっぷして寝ていた。彼女の下敷きになっている書類を見ると、僕が読み終わるまで自分の仕事をしていたようだ。

 それにしてもアランはよく寝る。疲れやすいのだろうか。それだったらあまり無理言って勉強に付き合ってもらうのは悪い気がしてきた。


 ひとまず今日の勉強はこれでお仕舞いだ。昨日まで過ごしていたスラム街の日々が嘘のような充実感で満ち溢れている。

 魔術について基礎的なことは学べたし、明日からとうとう実践だ。僕がどの魔術特性を持っているのか定かではないが、巨大な水や岩をバンバン吹っ飛ばしている自分を妄想するといても立ってもいられない。


 よし! 魔級魔術師目指してがんばるぞ!


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