魔力制御具
まだまだ詰め込みたい所ですが、とりあえず今回はここまで。
(守護霊side)
「ソウマさんや。」
普段は好々爺のジェームスが真面目な表情になる。
「此度のようなことは、今後は禁じ手じゃぞ。」
「ええ、ヘタをしたら、取り憑いて操るのと変わりありませんし。」
「解っておれば良い・・・、まあ、終わりよければすべてよしじゃい。」
「ところでエリザベスさん、もしかして、これであの娘のお母さん・・・、えっと、ミリアリアさんの運命をねじ曲げてはいませんよね?」
「そうね、こちらへ来る運命では無かったけれども、ひょっとしたら障害を抱えたまま生きる運命だったのがねじ曲げられたのかも知れないわね。」
「過ぎたことは仕方が無いが、不都合であれば冥界から何か言ってくるだろう。」
「言ってはこんとは思うがの。」
ともあれ、現世を見守ることにしたソウマ達であった。
(現世side)
一夜明けた産婦人科では、昨日の疲れを癒やしたワッサー医師とメディサ術師によるヤンセン家の母子に対する診察が行われていた。
「まずは赤ちゃん、マリーメイアちゃんでしたか、身体は健康そのものです。
そして、ヤンセン夫人は、出産前よりも健康になっていますね。」
と、ワッサー医師。
続いてメィデサ術師が、
「魔力的にも奥さんとお子さんは安定してますな。」
「この子から漏れていた魔力が突然収まったのはどうしてなんでしょう?」
「ヤンセン夫人、それにはいくつかの仮説が考えられます。
1つ目は、胎児が最低限度の魔力制御が出来る程度に発達してきた・・・、ロマンのかけらもありませんが。
2つ目はその時にこの子の身体へ魂が宿った、3つ目はソウルマスターが憑いた。
いずれも検証不能なので仮説の域を出ませんが、私としては2つ目の説を採りたいですな。」
「おいおいメディサ、その仮説なら、俺は最初の発達説を採用だぞ。
と言うか、医学的には発達説しか出せない。」
「とにかく、妻と娘は健康で問題は無いのですね。」
「娘さんの大きすぎる魔力を除けば、ですな。
なにせ、出生直後なのに平均的な成人の魔力を凌駕しています。
正直魔力量だけなら、魔力学院の生徒と遜色ありませんね。
なので、ある程度成長するまでは、魔力制御具をいくつか装着しておく必要があります。」
「失礼、魔力制御具はどのようにして魔力を制御するのでしょうか?」
「左様、百年くらい前までは囚人用の物をサイズ調整したものが使われておりました。」
「では、娘にもそのような物が?」
「あぁいや、魔力の大きな新生児や乳幼児など、そんなに数がおりませぬ故、子供向けの制御具のなど当時はそれで済ませておったのです。
が、そう言う子供だった方が成長してから研究されたことが礎となって20年ほど前から囚人用の物とは違う子供用の制御具が実用化されてきました。」
「では娘にはその子供用の制御具が使われるのですか?」
「いえヤンセン子爵、制御具はすでに使っておりますよ。」
「何だと!しかしそれほど娘は不快に感じていないようだが?」
「そこが囚人用との違いでございます。
魔力を放出していると言っても、その時々の体調などによって変動することは子爵殿も体験なさっておられるでしょう。
囚人用は、その最大値の5割増しくらいに固定されているため、常に放出されないで体内を循環する魔力までも吸い出してしまいます。
それ故にきついのですが、今使っている子供用の物は、純粋に外へ出てきた魔力だけを吸収するので、不快感はないのでございます。」
「ふむ・・・、しかし一見して見当たらないがどこに付けている?」
と、娘の姿を観察するヤンセン子爵。
「両手首のネームタグの内側、肌着のおへそのあたり、ベビー服の両膝の裏地に制御の陣が付いております。」
「どうしてそんなに付けているのですか?」
とミリアリアの質問にワッサー術師が答える。
「それはの、着替えさせたり沐浴させるときのためじゃて。
どんなに規格外の放出魔力であっても2つあれば周囲への影響を避けられるしの。」
「この娘からの魔力で魔力酔いが酷かったのですけど、妊娠中に付けられなかったんですか?」
「あ~、残念ながら、母親が発生させている魔力と胎児が放出している魔力の識別が出来ませんのじゃ。
故に、母親が使おうとした魔力も吸い取ってしまうのじゃ。」
「なるほど、もしこれを付けていたら、ミリーが浮遊魔法で楽をしようとしても出来なかったわけだ。」
「おぉっ、ヤンセン夫人の運動不足解消のために付けておくという手もありましたね。」
と、穏やかに魔力制御具に関する説明などがされていった。
(守護霊side)
「と言うことはソウマよ、今はそんなに制御に問題はないのじゃな?」
「えぇ、突発的に増えたときだけ抑えるだけなので、現世の方で制御具を付けてからはかなり楽になりましたよ。」
「それでも、ソウマがいなければ、現世の者達は、濁流の中水門に近付いて水門を閉じようとするに等しかったはずだわ。」
「ん?クロード、どうした?」
「いや、子供の魔力制御具を研究している途中でこちらに来てしまったのが心残りだったのだが、後輩達が引き継いでいてくれたのだなと、感慨にふけっていたのです。」
「メディサ医師の話に出ていた研究者とは、クロードさんのことでしたか。」
「そのようだ。
とりあえず、最低限度の目標は達成したようだが、次は胎児と母体の魔力を識別して胎児の魔力だけを吸収するのが目標になるようだな。」
さしあたっての問題は回避されて、守護霊達も緊張から解放されたのであった。
「魔力制御具」と言いつつ「魔力制御陣」だったり。