誕生
設定していた締め切りから1日遅れです。
次こそ!
「おはようミリー、体調はどうだい?」
「おはようオスカー、そうねぇ、少し魔力酔いがあるくらいよ。」
「以前に比べたら良いのかな、さ、起きようか。」
ミリーをお姫様抱っこでドレッサーの前まで連れて行くオスカー。
因みに彼女のパジャマには、オスカーがこっそりと重量軽減の陣を描いていたりする。
「入ってくれ、ミリーの朝の支度を頼むよ。」
メイド部隊が入り口から入ってきてミリアリアの身支度が始まったのを見てオスカーは隣室に移動して着替え始めた。
夫婦の身支度が終わって朝食。
「そう言えば今日は産婦人科の検診日だね、お医者さんの言いつけは守っているかい?」
「あのストッキングは締め付けがきついし、お腹が重いから歩くのもちょっと、ね。」
「おいおい、先生から血管を詰まらせないようにって言われていただろ。
まさか屋敷の中すらも歩いていないのか?」
側に控えているメイド長に尋ねてみるオスカー。
「はい、魔法で浮遊移動されております。
魔法を使われておりますのでカロリーは消費されておりますが、運動にはなっておりません。」
「ミリー、血管が詰まって大変なことになった妊婦さんも多いと先生が言っていただろ。」
「出産には治癒術師がバイタル管理につくから大丈夫よ。」
「君ねぇ、治癒術師の出番がある時には、命に関わることになっているんだから、出番がない方が良いんだよ。」
「大丈夫よ、ワッサー先生とメディサ先生のコンビだもの。」
「はぁ・・・、今日はたっぷりと先生から叱られてきなさい。
じゃ、ボチボチ行ってくるよ。」
「はい、あなた、気をつけて行ってらっしゃい。」
魔法で浮遊し、オスカーに抱きついて軽くキスをして送り出すミリー。
「奥様、そろそろ行きませんと、診察の予約時間に遅れますよ。」
「あら、じゃあお留守番お願いね。」
自分で車を運転して産婦人科へ向かい、診察を受ける。
「ヤンセン夫人、お腹のお子さんは順調のようですが、ヤンセン夫人ご自身の検査データが正直よろしくございませんね。」
「あら、キチンと節制しておりますのに?」
「あまり歩かれておりませんね、検査データは嘘をつきませんぞ。」
ワッサー医師から、つい目をそらしてしまうミリアリア。
「やれやれ、来週末が予定日ですから、週明けから入院していただきましょう。
キチンと言いつけを守っておいででしたら、もう少しギリギリで良かったのですけど。」
「でも、あのストッキングは締め付けがきついし、お腹が重くて歩くのも大変なんですよぉ。」
「ふくらはぎの筋肉を動かさないと、血液が足に滞って血栓ができやすくなりますし、その血栓が流れ出して肺とか脳に詰まることがあって、とても危険ですよって、な・ん・ど・も・説明しましたよね?」
「ひゅっ・・・、ごっ、ごめんなさい。」
「まあ、今から動かしますと余計に血栓が流れていきますから、今の状態を保ったままにしてください、今日の診察はここまでです、お大事に。」
「ありがとうございました、では週明けに。」
しょんぼりと診察室から出て行くミリアリア。
(守護霊side)
「エリザベスさん、こちらからミリーの治療をすることは出来ないんですか?」
「ダメよ、あくまでも私たちは見守るだけよ。」
「どうしようもない時は干渉するが、普段は示唆するまでだ。」
「でもジャックさん、かなりの肺塞栓が出来ているんですよ。」
「現実問題として、我々が現世に干渉することは非常に難しいんだ。」
「まだミリーは死すべき運命ではないけれども、このままじゃ、お腹の子が産まれてすぐにこちらに来てしまいかねないのよね。
何も出来ないのが、はがゆいわ。」
「ま、あの魔力があれば出来んこともないがの、それでも難しいぞい。」
「ジェームスさん、どうすれば良いんですか?」
「あの子の意識に働きかけて治癒術を使わせるのじゃが、これも口で言うほど簡単には行かんぞい。」
「そうね、現世の人たち次第かしら、あの子を含めてね。」
「まあ今更だが、安静にさせすぎたなエリザベスよ。」
(現世side)
「では、陣痛の間隔も短くなってきたようですので、痛覚のみを切ります。
麻酔が効き始めましたら、魔力による鎮痛を止めます。
ご主人は奥様の手をしっかりと握ってあげてください。」
ミリアリアの陣痛が始まり、分娩室に入って治癒術師のメディサが魔法で痛覚を麻痺させる。
「ところであな・・た、この子の名前は決めて・・いるの?」
「ああ、君がマリーと呼びたいと言っていたし、僕はマリアと呼びたい、だから色々考えて決めたよ。
産まれてくるこの子は、マリーメイア、マリーメイア・ヤンセンと名乗ることになる。」
「うふふっ、流石、知恵の魔術師様、いい名前ね・・・、うきゅっ!」
「これはかなり早い、後処置の用意は整っているか?
すぐに使えるようスタンバイ!」
ワッサー医師が助産師達に指示を出し、処置用の機材や薬剤が展開される。
そして程なく・・・、「ふぎゃー、んぎゃー、ふんぎゃー!」と産声が上がった。
「・・・五体満足、異常は見られません、女の子です。」
「よ・・・、良かった・・・。」
と崩れ落ちるオスカー。
その横で助産師達が産湯を使う。
「う・・ま・・れた・・のね?・・うぐゅっ!」
「む、いかん!メディサ!」
「もう始めてる!・・・、くっ、血栓が肺と脳に飛んで来ておるっ!
こっちは全力で脳細胞を保護するから、後は頼む!」
「血栓溶解剤を最大速度で落とせっ!
誰かご主人を外へ!」
突然戦場となった分娩室から、オスカーは助産師達の手で分娩室の外へ引きずり出された。
「早くしろっ、治癒術で保護していると言っても限界があるっ!」
「解っているが、なにぶん血栓の量が多すぎる!」
モニターに映る状況は、肺に大量の血栓が詰まった上に脳にも血栓が詰まり始めていて、かなり危機的な状況である。
(守護霊side)
「何を呆けているんですかエリザベスさん!」
「ソウマ、無理よっ、現世の人たちに頼るしかないのよっ!」
祈るように分娩室での奮闘を見守るエリザベス。
ワッサー医師やメディサ術師たちの守護霊達も、現世の者達を応援するだけだ。
「このままじゃ、あの子のママが危ない・・・、嬢ちゃん、ママが危ないんだぞ!」
『・・・、ま・・・ま・・・、しんじゃう?』
「かなり危ない、死ななくても君を抱けなくなる。」
『ま・・ま・・を・・たす・・け・・て。』
「君が助けるんだ、僕が手伝うから!」
『ど・・う・・す・れ・ば・い・い・の?』
「よし・・・、ママの体の中をよく視てごらん、血の塊がたくさんあるだろ。」
『ま・ま・・、ち・・・、ぶよぶよの・・つぶ・・。』
「そうだ、そのぶよぶよを溶かすんだ。」
『ど・う・やって?』
「ん~~~、ぶよぶよが、サラサラっと溶けていくのを思い浮かべてごらん?」
『ん・・・、やって・みる。』
(現世side)
助産師の腕に抱かれた赤子から突然、柔らかな光があふれ出してきた。
「これは・・・、治癒の光・・・、はっ、モニターはどうなっている!」
「はえっ・・・、先生っ、血栓が・・、血栓が急速に消えていきますっ!」
「メディサ、君か!」
「そんな余裕はないっ、この光は誰だっ!」
「産まれたばかりの赤子だ!」
「何っ・・・、産まれたばかりで・・・、本能で解っているのか!」
モニター上の肺や脳にあった血栓が、次々と消滅していく。
「はっ、降圧剤を側管から落とせ、血圧モニターも忘れるな!」
「むうっ、損傷を受けた脳神経も再生されていく・・・、こりゃ俺でも難しいぞ。」
「へ?お前がやっているんじゃないのか?」
「出来なくはないが、こんなに短時間じゃ無理だな・・・、この子にはすごい才能があるのか、本能で母親を失わないよう必死なのか・・・、よし、峠を越えたな、もう大丈夫だ。」
「よしよし、お嬢ちゃん、もうママは大丈夫だよ。」
ワッサー医師が声をかけると、その言葉の意味を理解したように、赤子から溢れていた光が停まり、眠りに落ちた。
(守護霊side)
『ま・ま・・、ま・ま・・、ま・ま!。』
「嬢ちゃん、もう大丈夫だ。」
『ま・ま、しなない?』
「ああ、死なないよ、嬢ちゃんが頑張ったからね。」
『よ・かっ・た。』
安心してそのまま眠り込んでしまう。
「お前さんもムチャしたものじゃの。」
「魔力制御でリンクしてますからね、賭でしたけど。」
「そのリンクは、赤子・・・、マリーメイアが物心つき始めたら、少しずつ切らねばならんぞ。」
「クロードさん、解っていますよ、本人の魔力はあくまで本人がやらないといけませんし、私もお役御免になれませんしね。」
「クロードよ、その辺の塩梅は、儂に任せろい。」
「産まれた以上、後は私からは助言しか出来ん、頑張れよ。」
(現世side)
「先生、血圧も酸素濃度も安定してきました。」
「よし、後は君たちに任せて、僕らはご主人に説明だな、行くぞ、メディサ。」
「やれやれ、もう一仕事か。」
分娩室からつまみ出されて廊下のベンチで祈っているオスカーの所へ向かう2人。
「先生方、ミリーは、娘・・・マリアは大丈夫ですか?!」
「ええ、もう大丈夫です。」
「そうですか・・・、ありがとうございました。」
「いやいや、我々の力だけではありません、お嬢さんの力があってこそですよ。」
「・・・、お嬢さん?」
「ええ、産まれたばかりなのに治癒魔法を使って、危険な状態だった母親を救ったのですよ。」
「メディサ師やワッサー先生ではなく?」
「我々だけであと30分はかかったと思われますし、障害が残ったかも知れません。
我々の治療をお嬢さんが補完してくれたようです。」
「ふくらはぎに出来ていた血栓が肺に詰まり、その一部が脳にも流れていって
詰まり始めたので治癒術で脳神経保護をしつつ、
血栓溶解剤を最大速度で注入しました。」
「私は脳を保護するだけで手一杯、薬もすぐには効きませんから焦っていたところに、
お嬢さんが、おそらく本能的に治癒魔法を使い始めて、奥様は持ち直しました。」
「そうですか・・・、ミリーもマリーメイアも無事・・・、良かった・・・。」
安心してその場にへたり込むオスカー。
こうしてマリーメイア・ヤンセンは、ヴァッサーラントに誕生したのであった。
名前を考えるのが1番苦労しました。
6/19 「治癒術」を「治癒魔法」に修正。