ヴァッサーラント
自分で設定していた締め切りを8日もオーバーしてしまいました。
ストック無しで書いているとは言え、次は1ヶ月以内に。
森羅殿から出たソウマとクロードが、いよいよヴァッサーラントへ飛ぼうとした時、エドを伴って皇太子が見送りに来た。
「とりあえず、行き先が決まったことをおめでとう、と言わせて貰うよ。」
「ありがとうございます、殿下。」
「君の任期を正確に告げていなかったね。
胎児は女の子なので、その娘が幸せに結ばれて子供を宿したら、任期終了だ。」
「あ~~、つまり、不本意な妊娠だと任期延長、或いはその娘が一生を終えるまで、と言うことですね。」
「理屈の上ではそうなるけど、予定としては子爵家令嬢として幸せな生涯を送ることが出来るようになっているし、子供や妊婦を守る活動をやって貰うようになっているから、たぶん大丈夫なはずだよ。」
「たぶん、って?」
「ある程度冥府で方向付けはするけれども、斜め上の行動をとってしまうこともあるし、君のような取りこぼしもあるからね。」
「取りこぼしはもう勘弁ですが、魔法が使える世界へ生まれ変われるきっかけになった思えば、今回のことは悪くはなかったですよ。
それと確認ですが、任期が切れたあとはこちらへ戻ればよろしいのでしょうか?」
「その時になったら使者を出すから、使者の指示に従ってくれれば良いよ。」
「解りました。
あらためて、殿下、エドさん、お世話になりました。」
「ああそうそう、クロード、現在ソウルマスターをやっているジェームスには、彼にヴァッーサーラントの常識を教えるよう指示してくれ。」
「かしこまりした殿下、では、これにて失礼いたします。」
ソウマを連れてクロードがヴァッーサーラントへと飛ぶ。
飛んだ先は、オスカー夫婦の部屋。
胎児の守護霊なので、建物に設置されている魔除けも反応しない。
少し弱った感じの妻をベッドに寝かしつけた夫が妻に話しかけている。
「ミリー、お腹の子はどうだい?」
「オスカー、まだ4ヶ月の子なのに、魔力が大きいわ。
もう悪阻で吐いているのか、魔力酔いで吐いているのか判らないくらいだわ。」
そしてその周囲では、守護霊達が必死の形相で胎児の力を抑えていた。
「ジェームス、もう少し頑張って。
クロードが魔力の大きな人をきっと連れて帰ってきてくれるわ。」
「バーバラよ、そのもう少しがいつまで続くんじゃ、もう儂もみんなも限界が近いぞい。」
「待たせたな、みんな!
こう言う状況だ、大至急やってくれ!」
「ん~~、あぁ、あの子・・・、確かにあの子だ・・・、むんっ!」
ソウマが胎児の魔力の放出を抑え込み、胎児の体内で循環させ始めた。
とたんにへたり込むエリザベス達やバーバラ達。
「やれやれ助かった。
あんたが、いや、貴公が新しいソウルマスターで、儂はこれでお払い箱じゃな。」
「ジェームス、冥界の皇太子殿下の命令で、君は彼、ソウマの補助につくようになった。」
「それはまた何故じゃクロードよ。」
「ソウマは、あの胎児の魂と同じ異世界で生前を過ごしているので、ヴァッサーラントの常識に疎い。
なので、ヴァッサーラントの常識を彼に教え、そしてソウルマスターとしての仕事も手伝うようにとのことだ。
なお、その子が成人して子供を宿すまでがソウマの任期で、その後はまた君がソウルマスターに復職することになっている。」
「そりゃまた儂にとっては破格の条件じゃのう。」
「えっと、ジェームスさん、皆さん、ソウマと言います、色々とこの世界のことを教えてください。」
「ソウマさんや、儂の知っとる範囲なら、いくらでも教えてやるぞい。」
「私はバーバラ、あの子の守護霊団のリーダーよ。」
「バーバラさん、よろしくお願いします。」
ソウマの自己紹介も終わり、再びベッドに目を向ける。
「あら、急にこの子の魔力放出が止まったわ。」
「えっ、まさか・・・?」
「いいえ、ちゃんと生きているわ。
何というか・・・、無制限に外へ出ていた魔力が、この子の中で回り始めたような感じね。」
「大丈夫なんだね、明日、医者に診て貰っておきなさい。」
「えぇ大丈夫よ、あなたの言う通り、念のためにお医者さんの所へ行っておくわ。」
「じゃあ、お休み、ミリー。」
「お休みなさい、オスカー。」
壁のスイッチに触れて明かりを消すオスカーを見て、ソウマが驚く。
「この世界、ヴァッサーラントは魔法の世界じゃないんですか?!」
「うん?、魔法もあるし科学もそこそこ発達しておるぞ。」
「いや、魔法が使える世界と聞いていたので、明かりはランタンとか魔法石だと思っていたんですけど、ここの明かりって電気ですよね?」
「あぁ、そこからか。
昔は魔法派と科学派に別れて争いもあったんじゃが、当時の若い世代が歩み寄ってな、以来、魔法と科学で持ちつ持たれつ、足りないところを補い合って文明が進んできておるのじゃ。」
「科学と魔法の融合文明ですか・・・、生前の世界は科学のみの文明で、魔法は空想の中にしかありませんでしたよ。」
「ほう、科学だけの文明じゃと!
いろいろと危なっかしそうな世界じゃの。」
「ええ、産業廃棄物に放射能漏れに大気汚染、科学の発達がもたらした負の遺産が数多くあります。」
「ほほぅ、ならば、核分裂や核融合くらいは理解できる程度の科学文明じゃったのじゃな。」
「ええ、とは言え、核融合は理論上とか実験レベルの物で、プラズマの封じ込めが出来なくて実用化はほど遠かったです。」
「なるほどのぉ、こっちではそこをマジックフィールドで切り抜けておるんじゃよ。
魔力と電力の相互変換も実用化されておるでの、この部屋の明かりにしても電力を魔力に変換して使っておるマジックライトじゃ。」
「まさに夢のような技術ですねぇ、っと、こちらでは現実ですね。」
「あとは、原子核の分裂や融合を制御して発電すると同時に、かつて貴金属や希少金属と言われていたものを生産しておる。」
「ジェームス、技術談義はそのくらいにして、魔法のことをもっと教えておけ。
ソウマは、ヴァッサーラントの常識に疎いんだ。」
「これだけの魔力制御が出来ているんだ、何を教えることがある?」
「そうだな・・・、ソウマ殿、魔法師と魔術師と魔導師の違いがわかるか?」
「違うんですか?」
「と言うことだ、ジェームス。」
「こっちもそこからか。
あ~~、そうじゃの、魔法師は呪文も陣も使わずに大きな魔力を行使できる代わりに極めておおざっぱ、まあ天才型じゃな。
魔術師は呪文や陣を使わねば十分に魔法を使えぬが繊細なコントロールが出来る、こっちは秀才型と言って良かろう。
この2つは産まれた家系によって左右される。
魔導師は、双方のいいとこ取りのような物での、双方がそれぞれに修行して到達して得られる称号と言って良いの。」
「魔法師らしいおおざっぱな説明だが、的を射ておるな。」
「クロード、口を挟むでない、そして双方の家系の者達が結婚、つまりはオスカーとミリアリアのような場合にはじゃな、魔法師と魔術師が産まれる確率は五分五分じゃ。」
「そうすると、あの子は魔法師として産まれる確率が高いのでしょうか?」
「そうさの、まだ5ヶ月に満たない胎児にしては大きすぎる魔力じゃからして、その可能性が高いの。」
「冥府から、あの子を妊婦や子供の守護者として大成させるように言われているわ。
職業的には、産婦人科や小児科の魔法医かしらね。」
「すいません、魔法医とは?」
「治癒魔術を専門とする治癒術師は急性症状が得意じゃし、医師の方が慢性症状に適しておる。
まあ治癒魔術で慢性症状の治療も出来なくはないし、医学も急性症状に対処できないわけではないんじゃが、いささか効率が悪いの。
そして、医学も修めた治癒術師や治癒魔術を身につけた医師が魔法医じゃ。
これはまた魔導師とは別分類じゃ。」
「つまりは、直感の魔法師、理論の魔術師、そして双方を併せ持つのが魔導師ですか。」 「然り、クロードも生前は中堅クラスの魔導師として名を馳せたお方じゃから、我らが守護する娘の父親のソウルマスターとなっておられたのも頷ける。
ま、わしゃぁ魔術を修めきれなくて魔導師には成れなんだ。」
「それでも、発電所の事故を最小限の被害で食い止めて最高の魔法技師と言われたじゃないの、ジェームス。」
「最高のと言うのは、上役のポカの尻ぬぐいをして逃げ損なったのをごまかすために、死後に贈られたものじゃて、バーバラ。」
「まあ、そんなに謙遜しないでもよくてよ。
ともあれ、ソウマにはミリーのお腹にいる子の魔力を抑えて貰いながら、この世のあれこれを教えるわ。」
「ありがとうございます、バーバラさん。」
「ほほほ、お礼なんて要らないわよ、お互い様じゃないの。」
こうしてソウマはヴァッサーラントでの生活を始めたのであった。
今回は世界設定説明会になってしまいました。