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第五話 Dawn―黎明―


ローブをまとった者の後ろを歩いていた誠たちはあたりを見回していると、ローブのやつがおもむろにローブを脱ぎ捨てた。

その本性は首から包帯が見えており、何かを隠すかのような服装の女の人だった。

が、その人を包み込むオーラはカノンや、リンネとはまったく違い、禍々しいまでの殺意と憎しみのこもった目をしていた。

そんな彼女がゆっくりと口を開いた。


「私の名は、ミノス・ケルディア。君たちは聞いたことあるかな?かつて世界一美しかった街、ダグラスの街を。」


誠は何を言っているのか分からなかったが、ハルバート達は驚いた顔をしていた。

それはまるで悪魔を初めて見たような驚き方だった。

驚きというより、怯えのような気がするが。


「知らないのはお前だけか。まぁいい。後で教えてやる。」


その後、全員無言のまま一時間ぐらい歩いただろうか。

誠たちの目の前に規模は小さいが、城が建っていた。

その周りには城下町として街があり、さらに外側には城壁が立ちはだかっていた。

その城壁が誠の眼には臆病になりすぎている。

そう映った。

まるで、人に虐待され、保護されたケージの中の犬のように。

そんなことを思っていると城の中に通された。


「改めて自己紹介をしよう。私は、ミノス・ケルディア。このダグラス王国の国王だ。異世界人、お前に用があってここに呼んだ。」

「用、とは?」

「お前は人類をどう思っている。」

「どうって…。」


誠は言葉に詰まった。

この世界も、日本にいた頃も変わらないのは負の感情だ。

誰かを貶めたり、憎んだり、様々だ。

だが、誠はそれと同時に優しさや、温かさも変わらないものだと知っている。

この二つがあるため、誠の心の中で葛藤が生まれた。

それを勘付いたのか、ミノスが誠にこう言った。


「私は人類が憎い。これほど欲深く、誰かを貶めたり、殺したりすることによって喜びを得るような動物は他にいない。人間が皆平等?そんなの嘘だ。強者がいて、弱者がいるのが平等なのか?それに見た目や何か障害を持つ者に対して罵ったり、排斥することが平等なのか?お前はどう思うんだ。」


誠はその言葉を聞いて納得する自分がいた。

だが、誠は知ってしまった。

世界がそれだけじゃないことに。


「確かに人間は心が弱く、欲深く、暴虐なことをしてしまうかもしれない。でも…それが全てじゃない!!人間は誰かを思いやったり、大事に思ったりすることを僕は知っている!!」

「ほう…。」

「人間は、いや、人類は何度も過ちを繰り返した。でも、人々はそれを改善しようと努力している人もいる!何もすべての人が悪いわけではない。」

「私とは正反対だな。」


誠はそれを聞いてこの人の考えを変えなければならないと思うのと同時に、この人が囚われているものを取り去ってあげなければならないとも思った。


「私はこんな人類など滅ぼしたほうがいいと思っている。お前は止めるだろう。だが私はやる。私の街を、いや、私たちダグラスの街に住んでいた者が全世界の人類をダグラスのように滅ぼす!!」


その言葉を聞いた瞬間、誠の耳に今までより鮮明に何者かの叫びが聞こえた。


『やめて!!』


誠は頭の中でその声の持ち主に誰なのか尋ねた。

その声の持ち主はミノスの家族と答えた。

目的は何なのか分からないが、ミノスに伝えたいことがあるようだ。

誠はそれを悟り、代弁することにした。


「あなたの親族からの伝言です。

『ミノス!!なぜそこまで怨んでいる?それにレイノス王国は何も悪くない!!』

だそうです。」

「誰から聞いている?」


ミノスは怪訝そうに聞いてきた。

誠はこの声が誰のものなのか分からなかった。

だが、あの声が教えてくれた。


『私はミノスの兄だ。』


誠はその声を疑った。

ダグラスの街の住民はミノス以外全員死んだはずだ。

ということは今誠が話している相手は霊体となったミノスの兄と話していることになる。

誠は今までの耳鳴りの経験から、少し勘付いてはいた。

理由は二つある。

まず一つ、だれかの叫び声のようなものが毎回耳鳴りがするたび聞こえてくること。

二つ、トラックにひかれたときに聞いた声がこの声と一緒で、最後に助けてくれ、ではなく助けてやってくれと聞こえたこと。

それが今につながっているのだとしたら、誠は死んだ者の声を聞けることになる。

それがこの世界を救うことになるならば、苦しい耳鳴りを耐えて聞こうと思った。


「あなたの兄だそうです。」

「兄さん!?」

「はい。僕は死者の声が聞こえるんです。あなたのお兄さんはこう言っています。

『もうやめるんだ。レイノス王国は悪くないのだ。あれは反逆だった。』

だそうです。」

「反…逆…?」


その頃の情勢として、レイノス王国は豊かだった。

ダグラスの街と交易をしていたからだ。

ダグラスの街にはたくさんの資源があった。

そのため、貿易を行い、それぞれが儲かっていた。

だが、ある日レイノスの荒くれたプライドの高い兵士たちがダグラスの街のやつらが出しゃばっていると思ったらしく、攻撃した。

それは国王の意思とは関係なしに行われたものであり、国王はこれからもダグラスと友好を深めようと思っていたためその兵士がやったことは反逆行為であった。

これらのことがあの壮絶な事件の真相だ。

その後、レイノス国王は辞任し、後継者に国王の座を譲った。

次の国王に即位したその国王の息子はダグラスの街を攻撃したすべての兵士を処刑し、前国王と共にダグラスの街へ赴き、追悼の儀式を行おうとしたときにミノスを見つけ、レイノス王国の最高峰を誇る医療機関に入院させた。

が、ミノスは体が治るとともに脱走した。

そのため、本当のことを言えずに終わってしまった。

だが。


「そこにいる僕を襲ったあなた、レイノス王国前国王のクラース・デルト・レイノスさんですね?」

「!?」


その場にいた全員が言葉を失った。

当の本人は隠すこともなく、微笑んで頷いた。


「その通りだよ。この子にせめてもの罪滅ぼしというわけで仕えていた。」

「お前…?」


驚愕の目でクラースを見るミノス。

その眼には様々な感情が交わりあっていた。


「私の部下たちが私の指示でないとはいえ、一つの街を滅ぼしたのだ。これだけで罪が償えると思ってはないがね。」


クラースはまるで父親かのようにミノスに優しく微笑んだ。

そしてクラースは誠に向き直ると尋ねてきた。


「やはり君には不思議な力を持っていたのだな。」

「なぜわかるんですか?」

「一度君とこぶしを交えたからだよ。」


答えになっていないような気がしたが誠は何となく察した。

そんなやり取りを黙って見ていたミノスは乾いた笑いをしていた。


「ハハハ…ハハ…。私のやろうとしたことは無駄だったのか…。」


放心状態になりながらそんなことをいうミノスの言葉を、誠は否定した。


「無駄ではありませんよ。あなたはやり方を間違えただけで、あの街のことを愛していたのだから。」


そう、やり方を間違えただけなのだ。

ミノスもやはり人間なのだから完璧なんてものじゃない。

誰だってミスをするものなのだから。

だが、ミノスが次に口にした言葉は衝撃的なものだった。


「そうだよな。私はダグラスの街を愛していた。だからこそ、レイノス王国を潰さなくてはならない。」

「何をするつもりですか!?」

「もうすでに、私の兵がレイノスへ向かっている。」


その場にいたすべての人が息をのんだ。

もしそうなってしまったら大変なことになってしまう。


「そんなことをしたら、また新たな争いが生まれてしまう…!!」

「それがどうした。もう私は決めたのだ。この世界を滅ぼすと。全人類が負の連鎖に閉じ込められ、私の故郷、ダグラスのようになればいい!!」


ミノスのその眼は揺れていた。

彼女は迷っているのだ。

レイノス王国に滅ぼされたが、レイノス王国の前国王に助けられた真実により、板挟みになっているから。

誠は迷っている彼女を見て、最後にこう言い放った。


「それで本当にいいと思っているんですか?攻められたから攻め、まったく関係のない者が死ぬような光景をあなたはつくりたいんですか!?いい加減にしろよ!!お前はもう気づいているはずだ!!そんな事をしても、何も生まれないと!!争って何が残る?残るのは悲しみだけだ!!お前が知っているその悲しみを、ほかの誰かにも同じように経験させたいのか!?それに、お前の親だって、兄弟だって、友人だってそんなことは望んでなんかいないっ!!」


誠の叫びを聞き、ハッとするミノス。

彼女はもうそんなことはわかっていたが、一度ついた憎しみの炎はなかなか消えずに彼女の心の中に留まり、歯止めがつけられなくなっていた。

だが、それは言い訳にしかならない。


私はなんて愚かなことをしたのだろう――


天井を仰ぎながらミノスの眼からとめどなく涙があふれてくる。

ミノスは撤退命令を出そうとしたのだが、その前に命令を出していたやつらがいた。

ハルバート達だ。


「誠、伝書鳩で撤退命令しておいたからな。」

「みんな…ありがとう。」

「なに、誠のためだ。こうしなきゃ怒られると思ってな。」


冗談を交えてケルスがそう言った。


「怒らないよ。」

「これでよかったの?」

「うん。」

「当り前よ。」


リンネの問いにカノンと誠は揃って首を縦に小さく振った。


こうして憎しみの炎は消え去り、平和な日常が返ってきたのだった。


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