第四話 Beginning of Requiem―鎮魂歌の始まり―
あの鎧の男が来てから、さらに一週間が過ぎた。
全員日常生活に戻って行き、再び平穏な時間が流れてきた。
誠は家の手伝いをしながら、カノンに誘われてハルバート達と遊びに行ったり、一人で散歩をしていたりと有意義な時間を過ごしていた。
そんなあるとき、ライッシュ村の若者二人が婚約をしたと報告があったため、お祝いパーティーを開くことになった。
とても盛大なパーティーで村人全員が参加しており、お祭りみたいになっていた。
「いっぱい食えよ!!誠!!」
「ハルバートに言われなくても食べるよ。」
「そうだぞ。誠はお前と違って賢くていいやつなんだから、お前みたいな筋肉バカに言われると誠が困るだろ。」
「確かにそうだね。」
「誠に裏切られた気分…。」
誠はだいぶこの空気に慣れてきたため、ハルバートに対しての扱いが分かってきた。
こんなことが日常茶飯事起きているのだ。
ハルバートが誠に話しかけ、それに対してケルスが茶々を入れ、それを誠が肯定し、ハルバートが落ち込む。
そんな風にハルバートをいじるのだ。
そんな三人に対し、女子二人は花嫁の衣裳を見て、何やら話していた。
純白のドレス姿ではないが、それでも綺麗なものだった。
例えるならば、着物のようだと誠は思った。
「俺らもいずれはああなるのかな?」
ハルバートが花婿を見ながら言った。
「お前は無理だろ。虫苦手だし、がさつだし、物覚え悪いし。」
「ケルス、そんなことないよ。もの好きってのもいるからさ。」
「なるほど。」
「お前らひでぇよ…。」
とほほといった表情でハルバートが肩を落とした。
それを見たケルスと誠は笑いあった。
そんな誠にダイスが話しかけてきた。
「楽しいか?」
「うん。とっても。」
「そうか。ならよかった。」
そう言って手に持っていた飲み物の入っている小さな樽を誠の前において立ち去った。
「父さん、これは?」
「みんなで飲みな。」
「ありがとう。」
感謝の言葉を聞くとダイスは微笑んでどこかへ行った。
「みんな、これ飲もうよ。父さんが持ってきてくれたから。」
「なんだこれ?」
「果物のミックスジュースのようだね。」
ケルスはその樽から出ている芳醇な香りを嗅いでそういった。
開けてみると本当にミックスジュースだった。
みんなに注いで乾杯をしてから飲んだ。
口の中で果物の香りと甘酸っぱさが広がってとてもおいしいものだった。
「うまいな。」
「奇遇だな。俺もハルバートと同じ意見だ。」
「おいしい。」
三人はそのおいしさのあまり、口元に笑みを浮かばせていた。
後から聞いた話だが、ダイスの作るミックスジュースは村一番おいしいと聞いた。
だが、材料がそろっていないと作れないらしく、最近の二十年ぐらい作っていなかったという。
なんでも一つだけとても入手が難しい果物があるんだとか。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、フィナーレとなった。
ブーケトスみたいなこのパーティのために作られたネックレスを投げ、それを取れた人が次に結婚できるという言い伝えがこの世界にもあり、それを取るために必死になっている人がいた。
主に未婚の二十代の女性が。
その中にはカノンや、リンネの姿も見えた。
誠たちはその集団を外から眺めていた。
「いつ見てもすげぇな…。」
「まったくだ。」
どうやら毎回こんな感じらしい。
誠は前に大阪に行ったときに見た、おばさん達がセールで取り合いをしているような感じに見えてきた。
その時に初めて女は恐ろしいと感じた。
そんなことを思っていると、花嫁がネックレスを投げた。
それは綺麗な弧を描いて…カノンの手に中に入っていった。
「やったぁぁ!!」
喜びの叫びを叫ぶカノンと、取れなくて悔しい思いをしながら叫ぶ者。
様々な人がいたが、中でもリンネの反応がおかしかった。
「どうした?」
心配になって誠は声をかける。
「周りの人たちが怖かった…。」
「確かに怖いな…。」
カノンを睨んでいるやつまでいるぐらいだから相当怖かったに違いない。
「たぶん、大丈夫だよ。この村にはいい人しかいないし。」
そうやってほほ笑むとわかってくれたのか元気に返事をしてカノンのもとへ走って行った。
そこで何かを話している。
そんな光景を見ながら、誠はこの世界も綺麗だな、そう思った。
「何を見てるんだ?」
考え事をしていた誠は不意打ちを食らったと思い込み驚いた。
「うわぁ!!」
「なんだよ。こっちがびっくりするじゃねぇか。」
ハルバートが後ろに飛びながら言った。
「考え事してる時に声をかけるから。」
「俺のせい?」
「そう。」
ハルバートは自分のせいだと肯定されるとショックを受けていたが、すぐに回復するだろうと思って放っておいた。
その後、この祭りムードだったパーティーは終了し、全員帰っていく。
「じゃあな。誠、カノン。」
「じゃあね。」
「またね。」
五人はお互いの家に帰っていく。
帰り道、誠とカノンはさっきのパーティーのことを話していた。
「ネックレス取れてよかったね。」
「うん!これ着ければいい旦那さん来るかな?」
「来たら父さん達びっくりするだろうね。」
そんな事を話していると家に着いた。
家に着くとすでに帰宅していた二人が待っていた。
「おかえり。」
シノフィが柔らかい笑顔で迎えて、いつもの通りダイスは何も言わず目をこちらに寄せるだけ。
その後、寝るまで今日のことを話し合った。
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次の日、リナーファ家に来訪者が来た。
それは、前に誠を襲った彼と、もう一人ローブを身にまとい姿を隠しているものだった。
シノフィは扉を閉めようとしたが、その前に中に入って行ってしまった。
「ここに異世界から来た少年がいると聞いたのだが?」
ローブをまとった者は淡々と真実だけを語っているような話し方だった。
そんな人の前に誠は歩み寄り、自ら名乗り出た。
「それは僕のことです。」
ローブをまとった者は目を向け、口元を緩ませた。
その眼は邪悪そのものであり、いろいろな負の感情を表しており、その笑みはとても歪んでいた。
それらを見た瞬間、誠は戦慄を覚えた。
誠はこれから不吉なことが起きることを感じ取った。
その予感は当たった。
「付いてきてもらおうか。」
これについていけば何かが起こる。
そんなことを思ったのだが、ついて行ってみようという感情もあった。
だから誠はこう答えた。
「わかりました。」
にやりと笑うその者、そして心配そうに見つめる家族。
そんな家族に向かって誠はこう言った。
「行ってきます。」
誠が外に出た時、カノンがついてきた。
言葉はなくともその眼が訴えていた。
私もついていく、と。
その眼を見て誠は頷き、そのまま外に出た。
そこにはハルバート達もいた。
「俺らも行くぜ。」
「ハルバート…。」
「誠、何やらおもしろそうだったからな。」
「ケルス…。」
「この鎧の人を見かけたから…。心配になっちゃって…。」
「リンネ…。」
彼らの意思も固かった。
それは目を見れば分かった。
だから誠はこう答えるしかなかった。
「わかった。」
そう答えた時、全員で顔を見合わせ、頷いて彼らの後ろをついていった。
この先、何が待っているのかも知らずに…。




