第三話 demise―終焉―
誠がリナーファ家にお世話になって、ちょうど一週間がたったある日のことだった。
いつもの通りにダイスと畑仕事をしていた。
この世界では、というかこの家が集落と少し離れた位置にあるので、自給自足の生活をしている。
畑で野菜を育てたり、森に入って弓で狩りをしたり、山菜をそのついでに取り、持ち帰ったりもした。
どれも誠にとっては、初めての体験なので楽しかった。
ダイスとシノフィは誠のことを本当の息子と思って育てており、誠に自分らの呼び方を父さん、母さんと呼ばせた。
最初は戸惑ったが、ダイスとシノフィの接し方が今まで受けたことのないような温かいものだったため、自然と呼べるようになった。
誠はこれが本当の家族というものなのか、そう思って嬉しかった。
施設の時もそうだったが、みんなが優しいことに慣れていない誠にとっては気恥ずかしいような不思議な感覚があるが、やはりうれしい気持ちがどこかにある。
ある日、カノンとおつかいに頼まれたことがあった。
その時に誠に新しい友達ができたが、彼らは徹や、麗奈、日向に性格が似ていた。
一人は屈強な肉体を持ち、たまに暴走するがフレンドリーな性格で虫がとっても苦手な十九歳の男子、ハルバート・グレース。
一人はそんなハルバートの暴走を止める役で、しっかり者の十八歳の男子、ケルス・セイレン。
最後に心配性でどこか抜けている優しい十六歳女子、リンネ・アイリス。
三人はカノンと仲が良く、誠が一緒に歩いていた時だった。
「おぉーい、カノン!!」
大きい声で叫びながら走ってきたのはハルバートだった。
そのあとに二人がやってきた。
「うおっ!?カノンの彼女!?」
「そんなわけないだろうに…。」
ハルバートがそういった直後にケルスがすかさず突っ込んだ。
さらにケルスは追撃をかけた。
「お前は何も考えられないバカだからな。頭の中まで筋肉に支配されてんじゃないのか?」
「う、うるせぇ…。」
その言葉責めに頭が弱いハルバートは言い返すことができなかった。
「ということはお友達?」
今まで黙っていたリンネがカノンに質問した。
「そうよ。なんでも異世界から来たんだって。」
「ふ~ん。」
「なるほど。見たことがないと思ったら。」
「なぁ、異世界って何だ?」
カノンの説明で納得した二人は誠を興味があるように見ていたが、異世界自体が分からないハルバートに説明しようとしたのだが。
「バカに何を言っても無駄だ。」
ケルスがそういうとみんな誠に向き合い手を出してきた。
「俺は、ケルス・セイレン。よろしく。」
「僕は、支倉 誠。」
「私は、リンネ・アイリス。よろしくね。」
誠は二人と握手をして自己紹介をした。
それを見たハルバートは、強引に誠の手を握って自己紹介を始めた。
「俺は、ハルバート・グレースだ!!よろしくな!!」
豪快に笑いながら手を握るのだが、そのごつい手で握られて誠は手が痛くて顔を歪めていたところ、ケルスが何かをハルバートに見せた。
「ハルバート、これを見て落ち着け。」
「!?」
それはかわいらしい虫だったのだが…。
「うわぁぁぁぁ!!来るな!!」
思いっきりビビっていた。
そんな彼を見てケルスとカノンは大笑いしていたが、リンネだけはおろおろして心配そうに見ていた。
誠はそんな彼らがおもしろくてつい笑ってしまった。
全員笑った誠を見て、驚いていたが、すぐにまだビビってるハルバートを見て大笑いした。
だが、突如来たのはそんな日常になりかけた日々を壊そうとする者だった。
ダイスと畑仕事をしていると、馬に乗っている、鎧に身を包んだ男が近づいてきた。
こののどかな村に不釣り合いなもの者にただならぬ空気を察知したダイスは彼に声をかけた。
「何か用ですか?」
「……。」
ダイスの質問に何も答えようとせずに誠に近づいてきた。
彼は誠を舐めまわすようにじろじろと見てはぶつぶつと何かをつぶやいていた。
「お前か…。」
「え…?」
誠は彼に睨まれて動けなかったが、ダイスが誠の前に壁のように立ちはだかるが、思いっきり殴られ、誠の左側に吹き飛んだ。
「父さん!?」
誠はダイスに近づこうとしたが、彼に腕を掴まれ、引っ張られた。
その行為が誠のトラウマをよみがえらせた。
幼いころからずっと受けてきた虐待…。
いじめ…。
蔑みのまなざし…。
誠は叫んで彼を吹き飛ばした。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
彼はいきなりのことで驚いていたが、すぐに体勢を立て直した。
が、誠のほうが少し早くタックルをしていた。
鳩尾に入ったが、鎧で守られていたので彼に大したダメージを与えられなかった。
それでも誠は相手が体勢を立て直す前に何度も何度も攻撃を繰り返す。
騒ぎを聞きつけた周りの人たちが人混みを作る。
周りの人たちは農機具を持っていた。
畑の仕事でもしていたんだろう。
だが、今の誠にとってどうでもよかった。
誠の眼は憎悪に満ちたまなざしだった。
それは今目の前に立っている男に対してのみだった。
そんな彼を見たハルバート達は驚いて顔を見合わせた。
「あれって…。」
「あぁ…。誠だ。」
「どうしたのかな…。」
三人とも唖然としながら心配そうに見つめていた。
軍人であろう彼が誠におされている。
気迫でも、技術でも。
それほどまでに恐ろしく、隙のない攻撃を繰り出してはいるが、相手が悪いのか、それとも鎧のせいなのか分からないがダメージが少ないように見える。
そのうちに鎧の者は馬に乗り、逃げようとしたが、その過程の途中で顔面を殴られ、頭に着けていた鎧が外れて素顔があらわになった。
それを野次に来ていた村人が全員見た。
その素顔には、全体に刀傷が付いていた。
印象に深く残るような顔だったため、すぐに覚えられたが、逃げられてしまったし、どこに住んでいるのか分からなかった。
だが、そう遠くないうちにもう一度会うことになろうとは、誰もこの時は思わなかった…。
あの男が逃げたことによって精神力が切れ、その場にへたり込む誠。
そんな誠の周りにはついさっき到着したカノンたちが囲んでいた。
「大丈夫?」
カノンが手を出しながら尋ねてきた。
誠は手を取りながら頷いて答えた。
ひとまず騒動はなくなったが誠の心はしばらく荒れたままだった。
その後、誠の心が落ち着いた時にダイスがあの時に何があったのか聞いてみたところ壮絶な過去が聞かされた。
それを聞いたダイスたちは頷いて、肩に手をおいてこう言った。
「俺たちはお前をそんな風にはしない。家族だからな。」
「そうよ。あなたは義理でも私たちの息子。絶対にそんなことはしないわ。」
ダイスとシノフィの言葉は誠の心を温かいもので包むかのようだった。
その温かさを受け取り、誠の眼から自然と涙があふれてきた。
泣きやむまでダイスとシノフィは抱きしめてくれた。
泣きやんだあとカノンにびんたをもらった。
「バカ!!バカバカバカ!!ハルバート達から聞いたわよ!!なんで一人で戦うの!?今回は相手が逃げてくれたからいいけど、もし大勢いたらどうすんの!?死んじゃったかもしれないのに!!」
「ごめん…。」
泣きながら訴えてくるカノンに謝ることしかできない誠。
うつむいた彼をカノンは抱きしめながらこう言った。
「今回は許してあげる。もっと自分の体を大事にしなさい。」
「わかった。」
カノンは心配してくれたのだ、と誠は感じとったときもう二度と心配させないようにすると心に誓った。
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その頃、鎧の彼は仕えるべく主人の所に報告に来ていた。
主人は彼の姿を見て鼻で笑った。
「無様だな…。」
「申し訳ありません。ですが、ケルディア様のおっしゃっていた通りの人物がおりました。」
「そうか…。これでやっと私の願望が叶うのか。」
そう言ってケルディアと呼ばれた人物は顔を上げた。
その眼は復讐や、憎しみといった感情があふれていた。
その眼をゆるめて高らかにゆがんだ笑いを狂ったように出していた。
そう、その者こそあの地獄のような滅亡を遂げたダグラスの街の唯一の生き残りであった。




