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第一話 Forgiveness―許し―

駄文でダメダメな文章ですが読んでいただけると幸いです。


西暦2021年5月17日。

この日も何もない一日だった。


この町に住む高校生である、支倉 誠は学校の屋上に周りが下校をしているのもお構いなしに、寝転がっていた。

だるいわけでもなく、落ち込んでいるのでもない。

ただ何もする気が起きないのだ。

だから屋上で寝転がっている。

そんな彼は小さい頃から去年に起きたことを思い出していた。


だが、そんな時に襲ってくるのは、誠にとって呪縛的な耳鳴りだ。

それは人の呻き声に似たものであり、誠の気分を悪くさせるものだった。

この耳鳴りは物心ついた時からしていた。

周りの同い年の人や、近所の人、いとこ、それに親にも話したが誰一人として信じてくれなかった。

その理由として、医者に診てもらったのだが精神的なものだろう、そう言われてしまったからだ。

だが、どれだけ自分がいやだ、耳鳴りはもう嫌だと思っても治る気配すらないどころか悪化していく。

それでも自分には味方がいない。

親は汚い物を見るような目で見ながら、暴力をふるってきたし、クラスメートや同い年のやつらには、気持ち悪いと言われていじめられ、いとこは近づいてはダメ、そう言って遠ざかり、近所の人には頭のおかしい子供だ、といわれて孤独にさせられた。


誠は孤独だった。

それだけひどいことをされながらも誠は人を怨まなかった。

正確にいえば親を。


その理由は施設の人が優しかったせいもあるだろう。

誠が高校に入るころ、親の虐待はエスカレートしていった。

最後には刃物で切りつけられたりもした。

その時に切り付けられたのは首だ。

幸い、頸動脈には届いていなかったらしいが、首元を血で真っ赤に染めて外に出た時、そこをたまたま通りかかった警察の人に保護されて入院した。


その時外に出た理由は自分が外に出た時、なんていうのだろう。

そういう好奇心からだった。

どうせ放っておくに決まっている、そう思ったのだが何かに脅えるようにいかないでくれと手をこちらに向けて、助けを請うような格好をした。

だが誠には助ける理由がなかった。

この人たちは親でもなければ人でもない。


何度も何度も誠は彼らに助けを請うた。

だが助けてくれなかった。

そういったことで誠は彼らとの関係はすでに壊れていたが、最後の一手を出すべく外に出た。


その結果、彼らとの関係はなくなった。

当たり前のことだが、親は捕まり、誠は保護された。

だからと言って彼らを怨んでなどいない。

むしろ感謝している。

自分をこんな快適な、温かい施設に入れてくれてありがとう、そう思っている。


それからの生活はいろんな意味で怖かった。

だけど誠の心にぽっかり空いた穴を埋めてくれた。

そこにいたのは誠と同じような境遇を持っていたが、明るく、元気に、そして何より、本当の家族のようだった。


そのみんなに自分の耳鳴りのことを言った。

その反応は、誠が思っていたよりもあっけなかった。

興味ない、もしくは興味があるやつは普通にいつから?とか、どれぐらいひどいの?とかそんなことだった。

その反応が誠にとって嬉しかった。

下手に、かわいそうとか、奇異の目で見られるより心地よかった。


そんな誠に幼馴染というほど一緒にいないが、同い年の友達ができた。

女子だったが一緒にいても気兼ねなく、いられる人だった。

彼女の名前は、早乙女日向という。

誠はそんな彼女と一緒の高校に、ちょうどきりがいい時、二年生になって一緒に通った。

そこには普通のやつらがいた。

誠は怖くなった。

自分では何ともないつもりだったが、対人恐怖症になっていた。


だが、そこで誠を待っていたのはクラスのムードメーカーの男子、幕ノ内 徹の昔からの友達のような態度と、徹の幼馴染の速水 麗奈の明るく、屈託のない笑顔で握手を求められた。

最初は戸惑ったが、心の中の何かが解けるような感じがした。

このクラスなら溶け込めるかもしれないそう思ったの。

と同時にもう自分はひとりじゃない、とも。


転校生が来るとクラスはにぎやかになり、恒例の質問攻めに誠はくらった。

質問の内容はいとも簡単であり、昔のことなんかは聞かれなかった。


「家はどこ?」

「日向と同じ所。」


質問が質問なため、日向はおどおどしながら見ていたが、心配はなかった。

だが逆に変な誤解を与えてしまった。


「きゃー。恋が成就しちゃうかもよ!!」


そんな事を言われたのだ。

だが徹はその女子に注意を出した。


「誠が困ってるだろ!!」

「なんだよ~。弁当のくせに。」


弁当とは徹のニックネームだ。

苗字が幕ノ内だかららしい。


「誠にもし、好きな子がいたらどうすんだよ!!」


それをクラスのやつらが聞いたとたん…


「それもそうだな!!」

「お、おい…。勝手に決めるなよ。」


つい口に出てしまった。

そんな誠をみんなが一斉に見た。

誠は少し焦った。

今は口をあけるべきではなかったか、と。

だが…


「わりぃわりぃ。」


そう笑いながら言ってきた。

これが友達というものなのか?

心の中で思いながらうなずいた。


「ということで質問ばっかで飽きたから今日の放課後にみんなで遊びに行こうぜ!!」

「いいね!!」

「歓迎会だー!!」


いきなり質問コーナーが終わり、遊びに行くことになった。


「すごい勢いだな…。」

「驚いた?あのバカの馬鹿さ加減にも呆れるっしょ?ほんとあのバカは人のことなんか考えないんだから~。ねぇ、まことっち。」


徹のことを矢継ぎ早に馬鹿と連呼しているのが、誠に握手を求めてきた麗奈だ。

幼馴染だというのもあるだろうがそれにしたって馬鹿と連呼しすぎだ。

しかし今はそんなことよりも、最後の言葉のほうが気になった。


「まことっち?」

「あんたのニックネーム♪まんまだけどね。」

「そうだね。」


二人で笑いあった。

麗奈は誰とでも話せて、優しい奴だ。

人気もあると日向に聞いた。

なるほど、とうなずくだけだった。


そんなこんなで普通に今日は平日なので、授業が始まった。

昔、あんなことがあったから勉強で時間を潰していたせいか、わからないところはなさそうだ。

これならついていけると思った。


そして放課後、クラスの全員は待ってましたと言わんばかりに、さっさと帰りの挨拶を済ませ、強引に誠の手を掴んで教室を出た。

徒歩五分、学校の近くの小さい店の中に入って行った。

そこはクラスメートの家らしい。

今日は特別に貸し切りにしてもらったという。

なんか悪いことをしてしまった感じはあったが、みんなが笑顔でいたのでそんなことを忘れて楽しんだ。


******************


その帰り道だった。

日向と徹と麗奈と帰る途中、交差点の赤信号で止まっていると、誠の体に異変が起きた。

いつもより強く、激しく、耳鳴りがした。

小さな悲鳴を上げながら誠はよろよろと道路に出ていく。


「誠くん!?」

「誠!!」

「まことっち!!」


三人それぞれが誠の事を呼んでいる。

だが叫んでも何も起きず、そのまま誠はトラックにひかれてしまった。

そしてそのまま病院に送られたが意識不明の重体になってしまった。

医者は死ななかったのが奇跡だ、といった。

だが、ここにはあのぎこちなく笑っていた誠がいない。

三人はそう思い、誠が目を覚ますのを悲しみながら待つしかなかった。



【誠からの視線】

いつもよりひどい耳鳴りが来た。

誰かが耳元で大声で叫んでいるかのようだ。

痛い、怖い、苦しい。

我慢できなくなり、身を捩る。

ふらふらする。

助けて、助けて、助けて。

誰か。

三人は何かを叫んでいる。

聞き取ることはできない。

その時だった。

視界の片隅に大きなトラックが見えた。

その時は非常にゆっくりに見えた。

同時に、俺轢かれるのか…、そう思った。

そして強い衝撃の後、死ぬのかな…。

そんなことを考えながら三人の顔を思い浮かべた。

あいつらは悲しむだろうな…。

最後にいい時間を過ごしたな。

この世界を、全ての人を、どんなことになっても許そう。

そう考えた。

誠は今までの行為を、最後にいい思い出ができたから、許すと思ったのだ。

そう、意識を失うまでずっと。

そうして誠は意識を失っていった…。


登場人物

支倉 誠 (はせくら まこと)


早乙女 日向 (さおとめ ひなた)


幕ノ内 徹 (まくのうち とおる)


速水 麗奈 (はやみ れいな)

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