思わぬ発掘
内野手はどんな感じだろうか。
とは言ったものの良い内野手なんて一軍でもそうそういるものではない。
守備が良いだけで、内野手はある程度重宝される。
将来に期待できそうな若手は数人いるものの、物になる選手はそうそういないのが現実なのだ。
守備機会の多い内野手はどうしても守備力が重視される傾向にあるから、一軍で試すのも順位がほぼ決まりかけていたり、試合で大差が開いてる時など限定されてしまう。
普段の練習もやはり守備練習が基本だから、外野手に比べて代打や指名打者のチャンスも無い。
ましてや、うちのチームのリーグは指名打者は無い。
このような理由でドラフトで外野手の一位というのは、滅多に無い。
外野手はわざわざ一位で獲らなくても出てくるだろうという考え、風潮があるからだ。
守備が上手くて打てる外野手より、守備が上手くて打てる内野手の方が現実を見ても希少だから、そうなるのは当然と言える。
例外はあるが、優先順位を付けるとしたら投手、内野手、捕手、外野手の順番になるだろうか。
内野手の話をしている最中に少し脱線すると、それだけ山井はアマチュアで別格な成績を収めていたのだ。
”一軍の”層が厚かったこのチームで二年目から代打を任されるのが期待と凄さの証明になるだろう。
さて、内野手の話に戻ろう。
そういう訳だから、内野手は対外試合でほとんどを決める事になると思う。
それでシーズンのスタメンを固定する訳ではない。
あくまで調子の良い選手をその都度起用していく方針だ。
幸か不幸か、チーム全体で見て内野手の総数は少ないので、開幕で一軍漏れの内野手は全員二軍の試合に出れる。
これは選手の調子把握に便利だ。
万が一にも無いだろうが、チームの打撃が好調なら守備力の高い選手をスタメンで起用する事もあるだろう。
しかし、守備シフトのサインを頻繁に受け取ったり、慌てている投手に声をかける役目がある内野手には固定された選手が必要だ。
定石としては声かけの役目なんかは頼れるベテラン選手が好ましいのだが、生憎今のチームの内野手には頼れるベテラン所か、そもそもベテランがいない。
「どうしたものか…」
調子次第で上げ下げする方針に適応できて、ある程度頼りがいのある奴。
俺は半ば諦めた気持ちで内野手をざっと見渡す。
「よーしこい!ほい来たっセカンッ!…おっし!ナイスゲッツー!」
「いいよーいいよー!ファーストいいよー!」
相変わらず元気な奴だ。俺の思考を邪魔する声を発するあいつは山本。
二軍レベルでは高く、一軍レベルでは低くまとまっているユーティリティプレイヤーだ(といっても二軍に長く居る内野手は色々なポジションを守る物だが)。
特出した物が無く、今季で二十八歳という期待して我慢できる程若い年齢でも無いので、二軍ではそこそこの成績を残すものの一軍に呼ばれる気配は一切無かった。
仮に他のチームでも一軍に呼ばれる機会はほとんど無かっただろう。
一軍で低レベルにまとまっている選手を控えに置くなら、足が速かったり、守備が上手かったりする選手を置くものだからだ。
むしろ、内野手で一芸に秀でる者はそれだけで生き残れたりするのだから、先も使っていくと考えれば尚更だ。
じゃあ何故戦力外通告を受けずに残っているのかって?
先程も話したが、二軍レベルで高くまとまっている内野手もこれまた相当出てこないから”万が一”に備えて残しとくのだ。
「ムードメーカーで、二軍の選手には信頼はある」
山本の特徴をある程度整理して、呟き、ハッとする。
俺が求めてた物とは多少違う気はするが、一番内野手のリーダーとしては適役ではないだろうか。
二十八歳という年齢も、俺がリストアップした先発候補の年齢を考えると声をかけやすいのではないか。
二軍レベルでは高くまとまっているというのも、裏を返せば一番調子に左右されずにシーズンをプレーしていけるという事だ。
勿論対外試合であまりに酷ければ、他の選手に示しも付かないから開幕スタメンとはいかないが…。
「おっしゃー!ナイスプレー、俺!」
俺の心が見えたのか、うまい具合に山本が叫ぶ。
二軍の選手は既に知り尽くしてる物だと思っていたが、思わぬ発掘ができた。
注目していない選手も固定観念を外して、見方を変えて考えていく必要がありそうだな。
さて、次は守備の要の捕手だ。
バッテリーコーチと良く相談する必要がありそうだ。