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三年采配  作者: 多部衣装
一年目
4/16

春季キャンプ

息子の卒業式と高校の入学準備が同時に迫り、家も慌ただしくてついつい暇つぶしに近くのパチンコ店に足を運ぶ。

息子はどうやら地元ではそこそこ有名な高校に進学するようだった。

自分の子供に言うと親馬鹿に思われてしまうかもしれないが、息子は勉強の要領がとにかく良いようで、長く家に居ない事が多い俺ならまだしも嫁も家で勉強してる所を見たのは数回程だったという。

高校に合格した時、家族で食べに行った飲食店でそう妻がまるで自分の事の様に自慢していた。

そう言われると息子はなんだか恥ずかしげに照れ笑いをしていた。

「高校でも、野球するんか」

「しようと思ってるよ。野球部がそこそこ強くて、俺くらいだとベンチにも入れるかわからへんけど」

自分の子供に言うと最低な親に思われてしまうかもしれないが、息子はあまり野球の才能が無い。

でも、俺の影響と言うより俺がプロの選手だったものだからテレビや球場で野球を見る機会は多くとにかく野球が好きだった。

才能が無いのは悲しい事に本人も自覚していて「野球選手にはなれへんから、球団の職員になりたい」と既に将来のビジョンも見えているようだ。

「フロントの査定係にもなろうもんなら、俺の敵やないか」

「年俸下がると母ちゃんが悲しむからな。父ちゃんには色付けたる」

「なんや、ありがたい」

「その為には、まず一軍監督にならな話にならんわ。はよなれや」

「なんや、なまいきな」

パチンコ店特有の爆音の中、そんな時を思い出し「ほんとになってしまった」なんて心の中で呟いていると、どうやら球が切れてしまったようだった。

一度も当たらなかった。

悪い方の運をここで使ってしまったと思えば、まぁいいか。

しかし明々後日からの春季キャンプで、これの充て付けを選手達に練習としてぶつけるのは確定事項だろう。

飯食って、風呂入って、荷造りして寝て…と今日の残りの予定を立てながら暗くなり始めた空の下で車を家へと走らした。


移籍組とルーキーの挨拶とチームリーダーの指名が終わり、選手達にとっても俺にとっても大きなキーポイント春季キャンプが始まった。

選手人数が少ないということと全員を見たいという俺の希望で一軍組と二軍組に分けず、キャンプを行う事となった。

冒頭の監督挨拶で御馴染みのレギュラーはすべて白紙であると言ったが、他のチームとは違う本当の意味での白紙とあって選手達の返事も何処か殺気迫る物があった。

先ずは、チームの核となる投手を見に行こう。

もし俺の身体が何個もあるならば、あらゆる所へ俺を派遣できたのだが、生憎、俺の身体は一つなものだから仕方無くと言えば間違いになるかもしれないが投球練習が行われている大型ブルペンへと足を運んだ。

「やっぱ目に付くのは岸野だな」

豪快なフォームから放たれる球威とスピードのあるストレートがキャッチャーミットからはじけるような音を出させる。

昨季一軍で投げていただけあって、球の質は他の選手と比べて頭一つ抜けているようだった。

ルーキーイヤーを敗戦処理で過ごしたドラ一左腕も、先発のチャンスがあるとあってか気合が入っているようだった。

俺がしばらく岸野を見ていると投手コーチが俺に寄ってくる。

「岸野ですか?」

「はい。良い球投げてますよね」

「まぁあれだけの四球数で、防御率が三点台でしたからね。球の質は申し分ないですよ」

「ですね。構えた所付近には球は行かないようだ」

「あの荒れ球を経験の無い捕手が取れるかどうか」

「安定性が求められる先発には考え物ですね。化ければあるいわ」

「そこまで岸野を分かられているなら問題は無さそうだ。ゆっくり視察していってください」

「ありがとうございます」

投手コーチは長く一軍の投手コーチをされていて、その手腕は野球を知る者なら誰でも分かる名コーチだ。

親会社が赤字になったとき、複数の球団から大量のオファーがきたらしいがこのチームに骨を埋めたいと大減俸を受け入れチームに残った。

恐らく現状のチームで一番チーム愛がある人間なのではないかと思う。

三年間最も頼りになる人だろう。

俺は岸野から目を離し、見慣れた二軍の選手に目を向ける。






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