弱体化のストーブリーグ
俺が一軍監督に指名されてから数週間、球団から主力の金銭+選手でのトレードと新任の一軍監督が発表された。
トレードされた選手は年俸が一億円を超える選手を始め、五千万円前後の中堅選手が中心で、複数年契約を結んでいた選手には違約金を支払いトレードに応じて貰ったようだ。
このトレードによって今季一軍に居た選手はルーキーで昨年のドラフト一位の岸野と一昨年のドラフト一位二年目山井の二人となってしまった。
この球団は実績が無くても活躍すればそれだけ年俸が上がるが、ルーキーイヤーは活躍できなく今季も代打が中心だった山井と一応ほとんどを一軍で過ごすも敗戦処理が主な仕事だった岸野は年俸をそこまで上げる必要も無く現年俸も高くない事から残されたのだろう。
「にしても二人って…」
どれだけこのチームが若手を使ってこなかったか、FA選手に頼ってきたかが目に見えてわかる。
なんにしろ、通年で一軍を主戦力でないにしても長く体験している選手が二人も残ったのはありがたい。
この二人は”俺のチーム”では主力中の主力になるだろう。
そして金銭のおまけで来た選手を見ると、一軍を経験している低年俸のベテランも数人いるようだ。
他球団からすれば戦力外にしにくい邪魔者だったのだろうが、若手への指導や刺激に一役かってくれるだろうし、経験というのはやはり重要で有難い存在になるだろう。
そして一軍監督の発表によって、俺の就任記者会見が開かれた。
新聞には”被害者”だの”消去法監督”など散々な事を書かれていたが、本人を目の前にすると流石に質問も遠慮が見られた。
「歴史のあるチームの監督に就任された気持ちはどうでしょうか?」
「厳しいチーム状況で任されてしまいましたが、秘策はあるのでしょうか?」
などの、然るべき質問から遠まわしな質問が入り乱れた。
直接的に結果を残すのは無理と言われるよりマシだと思ってなんとか乗り越えたが、事実より誇張するのがメディアの仕事。
「長く二軍監督をやられていたと言う事ですから、選手の扱いもお手の物なのでは?」
という質問に「あーお手の物というか、まぁ、はい」とうまく適した言葉が見つからず、適当に答えてしまったのがいけなかった。
次の日の新聞には”新監督名将宣言!選手を巧く動かしてAクラス約束”と大きく乗っていた。
言った覚えの無い言葉に対して、球界のOBが”ビックマウス”やら”浮かれている”などのコメントを出しているものだから、溜め息も出てしまう。
トライアウトで低い契約金と年俸で来てくれる選手を数人獲得し、このチームのストーブリーグは前例の無いとんでもない弱体化で幕を閉じる。
真剣にオーダーを考えているうちに、遂に来週から春季キャンプが始まる。
選手達を理解してるとはいえ、オフシーズンの調整具合でパフォーマンスは大きく変わる。
それを見極める春季キャンプは、少しでも良い成績でシーズンを終える為に大きな鍵となる。