二軍の開幕
果たして、このチームに二軍は必要なのだろうかと考え始めたのは俺が二軍監督に就いてから四年目の事だった。
フロントがどんどん補強していくものだから、二軍の若手に余程チャンスがめぐってこない。
一軍の選手が怪我をしても、お呼ばれするのは調整中のベテランばかりでやはり若手にはチャンスはめぐってこない。
そんなだから、俺がいくら褒めてやっても何処か察してるような顔をして苦笑いを浮かべてきやがる選手ばかりだ。
チームへの愛着だってありゃしない。
トレードやFAの補償で出て行く選手は、意気揚々とニッコリ笑顔で荷造りを始めて、その様を他の選手はまるで餌をお預けされている犬のように羨ましい顔で指を加えて見ている。
でも、出て行く選手に良かったななんて思ってしまう俺も、どうしようもなく同じなのだろう。
思えば、俺は恵まれていた。
甲子園で活躍し、世間に注目された俺はドラフト二位という高評価をこのチームから受けて入団。
力不足ながら客寄せパンダとして起用された一軍の試合でたまたま好投、その後も無難な投球を繰り返しルーキーイヤーで一軍に定着し、中継ぎ転向等の配置転換もあったが引退試合をしてもらえるくらいには戦力として働いた。
しかし、こいつらはどうだろう。
ドラフト下位で、チームからの期待も薄ければ、客寄せ出来る程の知名度だってない。
それでも二軍で結果を残して上を目指す物だが、他球団と違ってそれも望みが薄いのだというのだからモチベーションの維持は、やはり難しいのだ。
就任四年目で親心でも湧いたのだろうか、こいつらをどうしても晴れ舞台に立たせてやりたかった。
…
朝、俺は何時ものようにトイレで新聞を広げると、その一面に目を疑う。
妻が朝っぱらからやかましく大丈夫なのかと聞いてきた理由がわかった。
野球一筋だったものだから、経営がどうのとか、外資がどうのとか詳しくはわからなかったが簡単に言えばうちのチームの親会社が大損失したらしいという事だった。
意味のわからない言葉を無視しながら野球に関係する話を見ていくと、赤字の補填を球団から大幅に行うので年俸の高い選手の行方に注目が集まるという文章に目が留まる。
「今年のストーブリーグは凄い事になるぞ」
思わず呟いてから、実は自分も危ないのではないかと気付いて、慌ててトイレを出て自分の携帯を手に取る。
画面に光が付くと、球団からの着信が何十件もあった。
掛け直しても繋がらないから、車のキーを手に取り球団事務所へと向かった。