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     ○○○


「今日、うち誰もいないから気使わなくていいよ」

 私がおじゃましますを言うよりも早く、幹直君はそう言った。

 幹直君の家の場所は知っていた。どの駅からどの道をどう歩いていけば着くのか、徒歩で何分くらいかかるのか、家の概観はどんな感じなのか、すべてを知っていた。なぜなら私は、何度も何度も彼の家を見に人知れず通っていたからだ。

 かといって初めて行くはずの家に一人で訪ねていくのも怪しい気がして、幹直君とは最寄りの駅で待ち合わせをした。白い壁の家に住んでいるということも知っていたけど、家の中に入るのは本当にこれがはじめてだった。

「部屋まだちょっとちらかってるけど……」

 幹直君の家は一軒家だった。広い玄関から、リビングへと続く扉を素通りして、幹直君は階段を上り始める。彼の部屋は二階で、階段を上がったらすぐの『MIKINAO』とプレートのかかった部屋。私は目に見えるものすべてを頭の中に叩き込んでいった。

 ようやく、外から眺めることしかできなかった幹直君の家に、足を踏み入れることができた。喜びで、私は胸がふるえる。昨日の夜は興奮しすぎてほとんど眠れなかった。

「……実は、茜ちゃんにあやまらないといけないことがあるんだ」

「あやまらないといけないこと?」

 なぁに? と私が首をかしげるのと、幹直君が部屋の扉を開けるのは同時だった。

「チロルなんだけど、今日トリミングに連れて行く予定だったらしいんだ。僕それ知らなくて誘っちゃったんだよね。チロルに会うのは次来た時でもいい?」

「うん、大丈夫……」

 私のそれは生返事だった。

 水色のカーテンや藍色のベッドカバーなど、寒色系の色合いを基調にしたシンプルな部屋。それが幹直君の部屋だった。話に聞いていたとおりの、本棚いっぱいの本やDVDやゲーム。学習机のある壁には大きなコルクボードがかけられていた。机の上にはノートパソコンが閉じた状態で乗っていて、辞書や参考書などがブックエンドに支えられて並んでいた。

 ここが、幹直君の部屋。私は頭がいっぱいになって、彼の話なんて聞こえていなかった。

そしてようやく頭が落ち着いたころに、彼が次来た時にチロルに会わせてくれると言ったことを思い出す。つまり私は、これからもこの部屋を訪れていいと言われたのだ。

「今、飲み物とか持ってくるから」

 感動のあまり立ち尽くして部屋を見渡す私に、ちょっと恥ずかしそうにしながら、幹直君は階段をおりていった。

 耳をそばだてて彼がリビングに入ったのを確認して、私はすぐに、ベッドにダイブした。

 布団に顔をうずめて、思いっきり幹直君のにおいを吸い込んだ。のりのきいていない、すこしくたびれたシーツの感触がたまらない。

 彼が戻ってくるまでずっとこうしていたいけど、やりたいことはまだまだある。私はすぐにベッドから降りて、彼の机にとびつく。コルクボードに貼っているのはカレンダーや学校の連絡事項。勉強のメモなど。残念ながら彼の映っている写真は貼っていなかった。

 そのコルクボードの裏側から、なにか白いものがはみ出ていることに気づいた。

 私は好奇心をおさえられず、そのコルクボードをめくってみた。


「茜ちゃん……?」

 缶ジュースとスナック菓子を持って戻ってきた幹直君は、ソファーがわりにベッドに腰掛ける私を見て、呆然と立ち尽くした。

 私は幹直君の机の上を、これでもかというほどに荒らしていた。コルクボードを壁から外して、裏返しにして机に立てかけた。閉じていたノートパソコンを開いて、その上に引き出しに入っていたものをすべてぶちまけた。

「……茜ちゃんならやると思った」

 さんさんたる有様になった机の上を見ても、幹直君は笑ってそう言うだけだった。

「これ、どういうこと?」

 ベッドのそばに寄せた折りたたみテーブルの上に、幹直君はジュースとお菓子を置く。私はじっとカーペットを見つめ、できるだけ冷静に話すようにつとめていた。

「僕のコレクションだよ」

 あのコルクボードの裏にあったもの。

 それはびっしりと貼られた私の写真だった。

「たくさん、集めたんだね?」

「けっこう大変だったんだよ。これだけ集めるのは」

 そのほとんどは、盗撮したものだった。学校でのものもあれば、私の部屋でのものもある。着替え中の下着姿や寝顔まであった。

 いったいどうやって集めたのか。それはパソコンを開くとすぐにわかった。インターネットにつながったままだったそれは、画面いっぱいに、ある映像を垂れ流しにしていた。

 それは私の部屋だった。


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