「ギルティーな初恋」
「頼む……嘘だと言ってくれ! 僕の“愛の薔薇”が、髭面の男だったなんてぇっ!」
王城の謁見の間に、情けない絶叫が響き渡った。床に這いつくばっているのは、私の婚約者ライアン王子だ。豪奢な絨毯には涙と鼻水がべったり染み込み、周囲には気付け薬の刺激臭まで漂っている。
原因は単純だった。
彼は半年もの間、SNSで知り合った“金髪美女”に莫大な金を貢ぎ続けていた。そして今、その正体が隣国の騎士団長だと判明したのである。
「殿下、見苦しいですわ」
私は扇子で口元を隠し、冷ややかに告げた。
「アイコンが可愛いというだけで国家予算並みの金貨を送るなんて。脳みそをプリンと入れ替えましたの?」
「だ、だって……彼女は病気の母のためだって……!」
「その騎士団長、今ごろ貴方のお金で奥方へ宝石を贈っていますわね」
「ひぃっ!」
ライアンは青ざめ、肩を震わせた。そこへ父である公爵が進み出て、一枚の書類を王子の頭へ叩きつける。
「婚約は破棄だ。こんな愚物に国は任せられん。北辺境の農場へ送る」
「や、やめてくれ! あそこは泥と家畜の臭いしかしない地獄だ!」
王子は必死に縋りつく。普段は威厳ぶっていた男が、今では雨に濡れた犬のようだった。
私はそんな彼を見下ろし、ゆっくり微笑む。
「お父様、お待ちくださいませ。わたくし、殿下を許して差し上げます」
「エリス……!」
希望に縋る瞳がこちらを向く。私はそっと彼の頬に触れた。
「ただし条件がありますの」
その瞬間、彼の身体がびくりと震えた。
「これより殿下は我が公爵家専属の終身使用人。わたくしの許可なく口答えは禁止。毎朝六時に起床し、家計簿を提出。お小遣いは月に銅貨三枚。もちろんSNSも永久禁止ですわ」
「そ、それは……」
「あら? 嫌なら農場送りですけれど?」
沈黙のあと、ライアンは唇を噛みしめ、力なく頭を垂れた。
「……従う。僕は一生、君に逆らわない」
その姿に、胸の奥で煮えたぎっていた怒りが、甘い愉悦へ変わっていく。
「よろしいですわ」
私は彼の顎を扇子で持ち上げた。
「では殿下。これからは、その愚かさの代償を一生かけて支払ってくださいませ」
王子は怯えたまま、小さく頷く。
こうして私は、浮気未遂の婚約者から、永遠の主導権を奪い取ったのだった。
ちなみに騎士団長は、殿下から届く長文の愛の詩を酒場で朗読して笑いものにしていたらしい。衛兵たちまで腹を抱えていたという。しかも投げ銭の名義は全部本名だった。救いようがない。




