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僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


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第10話:日曜日、おんぶの温もりと「無言」の贅沢

 日曜日の午前。一条凪いちじょうなぎは、自宅の縁側に座ってのんびりと茶を啜っていた。

 昨日の土曜日は藍澤凛あいざわ りんに誘われてバッティングセンターで汗を流したが、今日は特に予定がない。昨日の帰り際、凛が「明日はゆっくり休めよ!」と妙に念を押してきたのもあり、今日は読書でもして穏やかに過ごそうと決めていた。


 しかし、運命――あるいは計算されたシナリオは、彼を放っておかなかった。


「……あいたたた。……困ったわ、これじゃ歩けないわね」


 隣の家、つまり支倉聖奈はせくら せいなの玄関先から、聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。

 凪は反射的に立ち上がり、サンダルを引っ掛けて隣家へと駆け寄った。


「聖奈! どうしたんだ、今の声!」


「あ、凪くん……。ごめんなさい、夕飯の買い出しに行こうとしたら、段差で足を挫いちゃったみたいで……。少し、腫れてきちゃったわ」


 聖奈は玄関先に座り込み、細い足首を痛そうに押さえていた。

 常識人の凪にとって、幼馴染のピンチは見過ごせるはずがない。

「見せてごらん。……うわ、本当だ。今日は僕が買い物に付き合うよ。荷物も持つし、聖奈は家で休んでなよ」


「……ううん、大丈夫よ。でも、せっかくの休日なのに申し訳ないわ。……もしよかったら、スーパーまで連れて行ってくれないかしら?」


 聖奈は潤んだ瞳で凪を見上げた。

 彼女の内心では、昨日「破産」と引き換えに手に入れた執念の権利――『日曜午前・買い物同行および身体接触枠』のスイッチが、カチリと音を立てて入っていた。


 スーパーでの買い物を終えた帰り道。凪の両手には重いレジ袋が握られていた。

「……凪くん、やっぱり足が痛むみたい。……ごめんなさい、少しだけ、甘えてもいいかしら?」


「もちろんだよ。……ほら、捕まって。家までおんぶしてあげるから」


 凪が背中を向けて屈むと、聖奈は戸惑うフリをしながら、その背中にそっと体重を預けた。

 密着。

 凪の背中から伝わる体温と、少しだけ速い鼓動。

 聖奈は(……30ptで勝ち取った、凪くんの背中……! この温もり、プライスレスだわ……!)と、昨夜のオークションでの敗北感を完全に上書きするほどの幸福に包まれていた。


「聖奈、意外と軽いんだな。……あの日、屋上でみんなと話し合ってからさ。なんだか、聖奈との距離が近くなった気がするよ」


 凪が無自覚に放ったクリティカルヒットな台詞に、聖奈は顔を真っ赤にした。

(……な、凪くん! その言葉だけで、来週一週間分のマイニングが確定したわ。……でもダメ、今は幸せすぎて、鼻血が出そう……!)


 しかし、そんな二人の至福の時間を、物陰から血走った目で見つめる者たちがいた。

 公園の植え込みの影。一ノ瀬舞夜いちのせ まやが、ハンカチを噛み締めながら震えていた。


「おんぶ……おんぶなんて、30ptの価値じゃないわ! インフレよ、完全な価格破壊よ! 来週は絶対に、身体接触枠の最低入札額を吊り上げてやるわ!」


 隣では凛が「……くそっ、ボクだって、凪をおんぶしてやりたいのに……!」と、悔しさのあまり木の枝をへし折っていた。


 聖奈を家まで送り届けた凪は、少し汗を拭おうと近所の公園のベンチに腰を下ろした。

 すると、そこには霧島凪沙きりしま なぎさが、幽霊のように音もなく座っていた。


「……凪くん。30分。約束」


「あ、凪沙ちゃん。……約束って?」


「……昨日、決まったから」


 凪沙は凪の服の裾をぎゅっと掴むと、それ以上は何も喋らず、ただ前を見つめて隣に座り続けた。

 これが凪沙が10ptで落札した『公園で無言で過ごす権利』だ。

 凪は困惑したが、彼女の独特の静寂は不思議と心地よく、彼もまた、流れる雲を眺めながら30分間を過ごした。


「……不思議な時間だけど、凪沙ちゃんといると落ち着くな。……ありがとう」


 凪が微笑むと、凪沙は小さく「……うん」と頷き、そのままふらりと立ち去っていった。

 凪沙のスマホには、凪からの「癒やし報酬」として、想定外の20ptがチャージされていた。


 夕方。帰宅した一条凪は、自室のベッドに寝転んで、今日一日を振り返った。

「……土曜日はバッティングセンター。今日は聖奈のおんぶに、凪沙ちゃんとの公園……」


 そこで、凪はふと違和感に気づいた。

「……そういえば、公園の植え込みから、ほのかちゃんの『ギギギ……』っていう声が聞こえた気がするんだ。……それに、バッティングセンターにも聖奈たちがいた。……これ、もしかして、みんなで僕を尾行してる?」


 常識人ゆえの「不自然さ」への気づき。

 5人が示し合わせたかのように、日替わりで、かつ絶妙な距離感で現れる。それが単なる偶然ではないことを、彼の理性が警告し始めていた。


 その頃、5人の共通グループチャットには、舞夜からの宣戦布告が叩きつけられていた。


『一ノ瀬 舞夜:……全員、聞いたわね? 明日から2週目の平日よ。凪くんに不審がられないよう、隠蔽工作を強化しつつ、死ぬ気でポイントを稼ぎなさい。……今、私の手元には447ptがあるわ。来週のオークション、誰一人として私に逆らわせない。……覚悟することね』


 完全破産した聖奈。

 魚の難読漢字に詳しくなったほのか。

 幸せボケの凛。

 そして、お尻にケツバットの痛みを残しながらも凪の温もりを反芻する凪沙。


 それぞれの決意が夜の闇に交差し、物語はさらなる混沌の2週目へと突入する。


「……まあ、みんなが仲良くしてくれてるんだし、変な考えはよそう」


 凪は自分に言い聞かせて電気を消した。

 彼が放つ無自覚な「優しさ」という名の通貨が、明日また、5人の少女を狂わせるガソリンになることも知らずに。


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