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第四章 高層ビルと強化人間  作者: 池潮遺跡 - ikesioiseki -


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9/17

肉挟み


「梨乃ちゃんに手出しはさせないわよ!」

「私は普段から、貴方に手を出されそうになっているんですけれどね、篠守さん」

とりあえず、わたしは梨乃ちゃんの前に出る。

梨乃ちゃんが斬撃の網で防いでいるとは言っても、それで切り刻まれたヒトガタの死骸片は勢い余って飛んでくるし、もし何かの原因で突破されたりでもした時に、わたしという盾があるか無いかで戦況が左右されるだろうから、わたしは梨乃ちゃんと斬撃の網の間に立ち、切り刻まれていくヒトガタどもを見守るのだ。

……グロいよ。

「だらぁ!」

「しゃあっ!」

「…………」

一応の決まりとして、異能を使用する際には異能の名前を宣言して発動を周りに知らせることになっているのだけれど、馬垣くんはそれどころではなかったらしいし、隆谷寺さんは常時発動系の異能だから例外だし、御水見さんに至っては無口の極みだし、中々異能の使用を宣言する人がいない。

「《霊魂置換法(サンサーラデーヴァ)》……うーん……」

「《硬化(プラーク)》……いや、やりにくい!」

反対に、異能の名前を言いながら発動させている人達については、あんまり上手くいっていないようだ。

国栖穴さんの《硬化(プラーク)》はすぐには貪食獣を無力化できないし、社大路さんの《霊魂置換法(サンサーラデーヴァ)》は一度に一体までの貪食獣にしか効果が無い。

あーこれ、社大路さん、あんまり強くないわ。

「何だろう、僕の背後から、何か僕に不名誉なことを考えているような気配を感じる……」

「集中してください社大路さん。わたしじゃありませんよ」

「そうか篠守さんか……」

「ちっ」


話は替わるが、事前に言われていた通り、白銀さんの銃声は確かにうるさかった。

わたしの後ろで撃っているから見えないのだけれど、どんな銃なのかめちゃくちゃ気になる。別にそこまで大きな銃ではなかった筈なのに、スナイパーライフル…は言い過ぎか、しかし、マークスマンライフルとかに匹敵するレベルの銃声が鳴っている。

でも、それでも拳銃なんでしょ?

そんな火力だったら反動が制御できなくないか?

うわー、めっちゃ気になる!


「…あっ!《乳海攪拌(マンテカトゥーラ)》!」

「え?」

不意に、思い出したように異能を発動させる畑田畑さん。

……なんで?なんで今更?

畑田畑さんは、その異能と相性の良い爆発物(混ざると爆発する薬品を別々に密閉した二つの容器を繋ぎ合わせた物。これに異能を使うと爆発する)を常に携帯しているが、そもそもこれは貪食獣を直接攻撃するための物ではない。

しかし、彼女の異能は薬品同士を混ぜこぜにする以前に、貪食獣を混ぜこぜにすることもできる訳で……

「おお!お、おお……お……」

「凄い…!ヒトガタが、あっという間にぐちゃぐちゃに()ね合わせられて、練り込まれ……うっ」

背後からそんな声が聞こえてきて、わたしも一瞬振り返り、後ろの様子をほんの一瞬だけ見たのだが……

あ、これ駄目だ。

過去一だ。過去一グロい異能だ。

やばい、鳥肌が止まらない。

わたしの背後に広がる光景はとても語るに忍びないし、読者の皆さんとしても聞くに堪えないだろう。

従って説明の大部分を割愛するのだが、最小限の説明だけしておくなら、彼女の異能・《乳海攪拌(マンテカトゥーラ)》は、ヒトガタがいる辺りの空間にある、空気も含めた全ての物質を、その空間内のどこを切り取っても同じくらいの量があるような状態に変えたのだ。

わかるだろうか?この意味が。皮膚も肉も骨も内臓も血液も、空気すらも、全部が全部、まるで水に溶かした複数種類の着色料のように、薄まって拡散して、範囲内の空中に充満して……

うっぷ……いけね、間違えて説明しすぎた……


「うぅ、(くさ)い……血とか排泄物とか尿とか嘔吐物とかを混ぜ合わせたみたいなにおいだ……」

「具体的に言うんじゃねえ社大路!」

社大路さんが顔を歪め、馬垣くんが怒鳴る。

「あの……もしかして畑田畑さん、この惨状を見せないために、異能の発動を渋ったんですか?」

結局、その場を凌ぐことには成功した。梨乃ちゃんの斬撃の網で前方のヒトガタを、御水見さんの《船幽霊(オーシャンフォビア)》で壁を作ってガードした状態からの畑田畑さんの《乳海攪拌(マンテカトゥーラ)》の連発で後方のヒトガタを、それぞれ全て殲滅し終えた後で、わたしは畑田畑さんに訊く。

「流石にこんなえげつない異能、あんまり滅多やたらに使うものではありませんしね……」

「あ、いや、ただ忘れていただけなんです」

「……」

は?

「すいません、あの、爆発物のことしか頭に無かったので、私の異能が貪食獣を直接攻撃できるということを忘れてました…!すいません…!」

「……」

いや、何と言うかもう、そのまま忘れていて欲しかったと言うか……

「次からはちゃんと使うようにします!」

「いや、やっぱり使わなくて良いと思います」

「え!?どうしてですか!?で、出遅れてしまった無能な私なんてもう用済みだって言うんですか!?酷い…どうしてそんなことが言えるんですか…?皆さんの身の安全を守るためなのに!」

「言ってないですそんなこと」

「まあ冗談ですけど」

「冗談ですか」

身の安全って言うか、心の安全も大事なんだけどなあ。

「どうしようもなくなった時のために、最後の手段として取っておくっていう感じでどうですかね?」

「……ああ、そうしろ畑田畑」

わたし達だけでは判断できないので、上官のほうを向きながら改めて言ってみたが、日倭さんや砂原さんも少し考えてから畑田畑さんにそう指示を出した。

ふう……、これで当分あのむごい有り様を見ずに済みそうだ。

アレはまずいよマジで。梨乃ちゃんとか馬垣くんとかの異能を散々見てきたわたしでも、ショッキングに感じたくらいだ。


「えーと、次また挟撃(きょうげき)を受けた時のために、ある程度策を練っておく必要がありそーだけど……どうする?」

と、話題を切り替える馬垣くん。

「俺なんか、思うように戦えなかったし。隆谷寺が邪魔で」

「えっ」

隆谷寺さんに飛び火。

「邪魔というなら馬垣、てめえもあたしら後方支援役の邪魔だったがな。隆谷寺もそうだけど、お前ら前に出すぎじゃねえか?誤射も恐れねえで」

「結局、俺が邪魔だってことに変わりは無いんだね……」

ああ、また国栖穴さんが馬垣くんに噛み付いていった。

もうちょっと仲良くしようよ、作戦中くらいは。

隆谷寺さんに噛み付くのはともかくとして。

「やれやれ、言ってる内容次第では喧嘩になってたけど、今回ばかりはそれも正論だな。で?国栖穴、お前は、俺達がどう戦うのが良いと思う?」

「代替案か?お前、あたしに代替案を訊いたのか?ならばあたしはこう答えることに決めてんだ。『そんなもん知るか』ってな」

「知れ」

と、馬垣くんの、恐らくは過去最短のツッコミだった。

「それで結局どうするの?俺なんかは別に、小畑ちゃんの異能で一掃してくれても良いんだけど」

「やめてくれ隆谷寺さん」

「あ、はい、良いですよ!そうしましょうか?」

「やめてくれ畑田畑さん」

畑田畑さんはどうして、何の抵抗も無いんだ。あんな、この世の物とは思えない凄惨な攻撃手段を行使することに、躊躇いは無いのか?

もしかして畑田畑さん、本当はやばい人なんじゃないか…?

わたしだけじゃなく、社大路さんとか馬垣くんとか他のみんなも、あんなグロテスクな光景は二度と見たくないっていうのに……

「いや、良いじゃん。やれよ小畑」

「国栖穴さん!?どうして乗り気なんです!?」

「お前らが気持ち悪そうにしてる顔が拝めるし」

「あなたも一緒に気持ち悪くなるじゃないですか!」

「いや、あたしはグロいのとか好きだし」

無敵かよ。

いや、そろそろ真面目に話し合わないと。

「馬垣さんや隆谷寺さんは一旦何もしないでいて、それ以外の畑田畑さんを除く人員で距離を取りながら敵を攻撃したとしても、十分だとは思います」

と、ようやくまともな意見を出したのは梨乃ちゃんだ。

やっとだよ。安心と信頼の紫野梨乃ちゃんである。本当にいつもいつも助かってるよ、この常識人には。

「それだけではどうにもならなくなったら、畑田畑さんの異能で一掃してしまえば良いでしょうし、それができなくとも御水見さんの異能で防御することはできますし……」

「それで良さそうだね。どうかな、かおりちゃん?」

「折衷案としてはそんなところか……『かおりちゃん』?」

という訳で、日倭さんが隆谷寺さんからの自分の呼ばれ方に違和感を持ったところで、結論は出た。

いや、隆谷寺さんは本当に見境が無いな。

日倭さんは上官だぞ?


さて、わたし達の戦闘中、敢えて様子を見て待機していた第二班に『索敵を再開して良し』という(むね)の通信を済ませた後、再びビル内の索敵を始めた第一班だったが、その時のわたしはまだ思っていた。

わたしだけではなかったかも知れないけれど。

少なくともわたしは、『恐らくこの高層ビルの中には、上の階層に行けばまだまだ沢山のヒトガタがいるのだろう、手間がかかるな……』などと、この時点ではまだ思っていた。

それは裏を返せば、(たか)を括っているようなものだ。

無数の相手とは言っても、無限の相手ではない。大量の貪食獣を地道に殲滅していくという気の遠くなる作業じみた任務も、終わりを迎えるのは時間の問題だと、そう思っていた。

ここが、全国で13番目に危険な場所だということも忘れて。

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