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第四章 高層ビルと強化人間  作者: 池潮遺跡 - ikesioiseki -


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討伐本番 (1)


「降下用意!」

そして、現在。

わたし達は静岡県にいる。

正確には静岡県静岡市葵区にある、山崎第二公園の空中を飛行する、ヘリの中だ。公園というのは大抵見晴らしが良いため、安全を確保しやすいので降下地点に選ばれることが多い。

(くだん)の貪食獣『ヴリトラ』を見たのは、ここから大体東北東の方角に2~3kmくらい離れた位置にある洋服店だったので、そこから近すぎず遠すぎずといった位置に降下しようという訳だ。

ファストロープによる降下。当然のようにわたしが最初に降り立って、次に馬垣くんとか隆谷寺さんとかが降りて来て、最後のほうに後回しにされていた御水見さんや梨乃ちゃんが降りて来た。

まずはわたしを降ろして様子を見る。次に近距離戦が得意なメンバーを降ろして防御態勢を整える。最後に、それまで降下していたメンバーを援護していた梨乃ちゃんとか御水見さんとかが降りる。そういう理屈での、この順番である。

全員を降ろした後、ヘリは来た方向へ引き返すようにして飛び去って行った。見晴らしが良くて比較的安全な場所をどこかに確保してあるらしいので、そこにほぼ全てのヘリを着陸させ、一旦停めておくらしい。

ヘリを守るための人員が見張っているとのことだから、多分、ヘリが貪食獣に壊されて帰れなくなる心配とかは無さそうだ。

「周囲に敵影無し……、他班と合流するぞ」

日倭さんもここにいるが、今回の指揮官は彼女ではなく、福島県支部の上官である。名前は確か、砂原(さはら)王樹(おうじゅ)さんだったな。

砂原さんの指示に従い、ここから程近くに降りたであろう第二班と合流するために、わたし達はまず第一班だけで移動用の陣形を構成してから歩き出した。


予め聞いていたが、第二班のメンバーは全然知らない人ばかりだった。福島県支部か山形県支部の顔ぶれだろうけれども……なんかよくわからないが気まずい。

わたしが知ってる人達の残りは、第三班とかに集中しているらしい。目品ちゃんも第三班で、ついでに荻原(おぎはら)さんと真鈴(ますず)さんのコンビや、髭根さんとか谷貝(やがい)さんとかも第三班らしい。今回はわたしと一緒には行動しないってことだ。


第二班と合流してからは東に進み、安西橋という大きな橋で安倍川を渡って、そこからおおよそ東の方角に進む。

流石に人数が人数なので、できるだけ国道のような大通りを歩くようにしなければ窮屈(きゅうくつ)(かな)わないのだけれど、かと言って国道に沿って行き続けると、昨日ヴリトラを見た地点からは遠ざかってしまう。いやまあ、今もまだその地点にヴリトラがいる保証は無いのだけれども。

少し進むと大きな交差点があった。ここで国道そのものが右に折れ曲がるのだが、わたし達はその交差点を少し直進したところで左に曲がり、北上した。


「……静かだ」

隆谷寺さんが呟く。

わたしとしても、たった今の語りにおいて『道中、雑魚の貪食獣と遭遇して…』などということを一切言わなかった自分に、違和感を感じている。

()()()()()()()()()

「篠守さん、どうしたのです?私に向かって、別に誤用ではない表現を繰り返して」

「…ちっ」

知ってやがったか、くっそー。

梨乃ちゃんを論破するためにはもっと工夫が必要だなと反省するわたしだったけれど、さておき、やはり貪食獣と全く遭遇しないこの状況に対する違和感は拭いきれない。

何故だ?人口が多い地域である程、貪食獣も多く発生しているんじゃなかったのか?

もちろんヴリトラのような超抜級に規格外な敵もいる訳だから、そりゃあ危険であることに変わりは無いけれども……

思えば、昨日偵察で来た時もそうだった。もっと貪食獣がうじゃうじゃいるのかと思っていたのに、隆谷寺さんが遭遇を予知した回数はそこまで多くなかった。

「そもそも、被害が大きいっていうのは、行方不明者とか死者とかが多いからっていうだけの話だからな」

と、馬垣くん。

「何も貪食獣の数を確認したから言ってるって訳じゃねーだろ。極端に例えば、その町の全ての人が死んだのなら、その町の市民と外部との連絡が付かなくなるから、そりゃ被害が甚大だということは外部から判るけどよ、それで貪食獣が多いってことが判る訳じゃねえ」

「つまり、例えばあの『ヴリトラ』が強力過ぎただけで、貪食獣の数が多い訳ではないのに静岡県は甚大な害を(こうむ)って壊滅した……という可能性もあるということですか」

そうなると本当に、強い相手なのだろう。

当たり前だけれどね。自然界における摂理の基本として、動物とは、身体が大きいほうが戦闘力が優れているものなんだから。

「むぅ……隆谷寺、周囲に敵は?」

「今のところ、遭遇する未来は見えないね」

私語をするわたし達を気に食わなそうに一瞥(いちべつ)してから、上官が隆谷寺さんに確認した。

恐らく、私語を注意しようと思ったけれど、隆谷寺さんが特に何も予知しないうちは私語をしていても別に良いかなとでも考えたのだろう。


「あの……割とこんな感じなのかい?ADFって」

と、社大路さんが小声で訊いてくる。

「こんな感じ、とは?」

「いや……結構皆、任務中に喋ったりとかして……」

「ま、多少は特別扱いをされている部隊ですからね。そういうこともあり得ます」

ADFは抵抗者が強制的に入隊させられるので、それを詫びるかの如く抵抗者を特別扱いしているのだ。入ったばかりの社大路さんは知らないかも知れないが、任務中に私語をしても多少は許されるというのが主な例である。

「そうかい?えーと、山形県支部のほうでもそうなのかな?」

「いやいや、私の所ではそうでもないですけど……」

ん?

山形県支部の畑田畑さんが、社大路さんにそう答えたが……あれ?

「うん、僕達の支部でも、あんまりこういうことは無いよ」

乗じるように、福島県支部の社大路さんも言う。

「え?もしかして、長野県支部だけ私語が許されている…?おかしいな、そんな特別扱いなのかしら……」

「私語をするのが長野県支部だけなんだろうな。私語が許されるかどうか以前に、普通はそもそも私語をしねえし。俺は私語をしないと死ぬ人間じゃねえし」

「そうですね。誰かさんのせいで、私達までもが私語に巻き込まれていますから、傍迷惑(はためいわく)な話です」

「わたしなら私語をしないと死ぬみたいな言い方は控えてくれる?馬垣くん。他責思考はやめたほうが良いわよ?梨乃ちゃん」

「いや、誰もお前のせいだとは言ってねえよ。そう言われてると感じるのは、気のせいじゃねえのか?」

「人は自覚があるとそういう勘違いをしやすくなるものですからね。まさか篠守さん、そうなんですか?」

「あるいは()(せい)が関係しているのかな」

馬垣くんと梨乃ちゃんのコンビネーション口撃はともかく、社大路さんの発言に関しては意味不明だった。

樹の精って。上手くないし、話と何の脈絡も無いんだよ。

「いやあ、(にぎ)やかで何よりだよ。賑やかさにかけては、うちも再冉さんがいるから負けていないと言いたいところだけれどね……」

言いたいところだけれどね、の後に続く言葉を言わずに、納得した様子の社大路さんだった。

悪いように納得されてしまったような気がする。

「言っておきますけれど、こっちだってそんなに賑やかじゃないですよ?毎回わたしだけが喋り始める訳じゃないですし。他の人が喋り出すことも結構あります。これは本当です。なんならわたしの友達に聞いて回って確認してくれても良いですよ」

「うん、それは嘘だね」

「なっ…!どうしてわたしに友達がいないとわかったんです!?」


……えーと、長野県に対する風評被害を防ぐためにこれだけは言っておくけれど、ADF長野県支部に所属しているのは、長野県民だけではない。周囲の都道府県から避難して来た人達も沢山いる。


さて、そんなことを喋っているうちに、とうとう貪食獣の一匹とも遭遇せず、隆谷寺さんが何か予知する訳でもなく、最初に『ヴリトラ』を目撃した洋服店の真ん前に到着していた。

おかしいな。昨日来た時にはもうちょっといたのに。

「隆谷寺、本当に、何と遭遇する未来も見えないのか?」

と、日倭さんが確認する。

「うん、見えない。まあもしかしたら偶然かも知れないけどね。偶然、上手くすれ違うようにして遭遇せずに済む未来が最初から見えていただけであって、探せばその辺にいるのかも知れないけども」

「……なら、探すか」

探すと言っても一応、今やっているのが索敵であり探索であって、つまりは敵を探す行為なんだけどね……


そんな訳でわたし達は、念の為同じような区画をぐるぐると回るようにして巡回し、ヴリトラと遭遇する未来を隆谷寺さんが予知するまで、ひたすら動き回った。

道中、貪食獣の一匹とも遭遇せず……

結局、ようやっとヴリトラを発見したのはその辺りの区画ではなく、そこから北上したところにある水道町という町の、大きな交差点だった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「っ!いる…!150m先……」

当然、最初にその存在を知覚したのは隆谷寺さんだった。

彼の異能・《神眼》は、重ね重ね便利なものである。まさに神の賜物と言っても良い。ADFにおける三種の神技(じんぎ)に数えても良いくらいだ。

「三種の神技って。三種どころじゃないような気もするし、いやその称号は俺としては光栄だけど、そもそも『神技(じんぎ)』なんていう言葉は無いし……」

「因みに残りの二種が、《不壊(ミョルニル)》と《船幽霊(オーシャンフォビア)》です」

「待てや篠守。なんかおかしくねえか?」

おっと、馬垣くんが突っ込んできた。

訂正しよう。

「残りの二種は、《不壊(ミョルニル)》と《万物融解》です」

「そっちじゃねえんだよ。俺に(こび)を売れば済むと思ったか」

「じゃあ《神眼》を外して、そこに《船幽霊(オーシャンフォビア)》を入れて…」

「最初に()めた異能を外すな」

「自分が選ばれたことに対する感謝は忘れちゃ駄目よ馬垣くん?そんなことでは昇進できないわ」

「わかった。次言ったらお前をADFから追放することにしよう。嫌がっても石を投げつけて追い出してやる」

「そんな権限無いでしょ!というか何故!?感謝するべきところで相手を迫害するなんて!どうしてそんな恩を仇で返すようなことをするの!?」

「感謝のうちの一つが、迫害なんだよ」

「どういうことなの……」


……さておき。


「隆谷寺、『いる』っていうのは、ヴリトラがいるっていう意味で間違い無いんだな?」

「うん。偵察の時に見た大蛇と全く同じだ」

砂原さんが隆谷寺さんに確認したことで、良い加減に、その場に緊張感が戻った。

「位置は?」

「十一時の方向、およそ150mの位置だね。その位置でヴリトラが停止しているっていうこと以外は判らない」

「じゃあ作戦Aで行くぞ」

まだ奴との距離は割とあるため、改めて全員が作戦を確認してから、再び動き出す。

「因みに、隆谷寺さんの《神眼》って、どういう感覚で予知してるんです?」

「それはね、頭の中に、なんかそういう……未来の記憶みたいなのが流れ込んでくるんだよ。1分後の未来までの出来事が、記憶のような情報として常に流れ込んでくるんだ。存在しない記憶というか、これから存在する予定の記憶だね」

「……それだと疲れそうですね、脳が」

「はは、疲れても戦うのが武術家だよ」

「…………」

疲れること自体は否定しない隆谷寺さんだったが、そんなことはこの際置いておこう。隆谷寺さんなら大丈夫だ。


ここからは隆谷寺さんの声が通信によって全員の耳に届くように、全員がヘルメットの右耳付近に取り付けられたマイクのスイッチをオンにして、隆谷寺さんの予知を常に聞きながら行動するのだ。

作戦はパターンA。不意討ちであり、奇襲だ。これ自体には、たった4人の抵抗者しか使わない。

それが失敗したら、その瞬間にパターンBに移行する。ここにいる全員、第一班と第二班の総力を以って敵を討伐するのである。


「……ん?」

「どうした隆谷寺?」

「なんか、あのヴリトラ……」

少し歩いて、しかしまだわたし達からはヴリトラの姿が見えないような位置に来たところで、隆谷寺さんが呟いた。

隆谷寺さんの未来予知能力・《神眼》は、遠い未来ほど大雑把な予知になるため、時間の経過に伴って予知の解像度が高まり、新たな発見をすることもあるのだが……


「あれ、共喰いしてない?」


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