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第四章 高層ビルと強化人間  作者: 池潮遺跡 - ikesioiseki -


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トンネル効果? (1)


「なんかおかしいな」

「ああ、間違いなくおかしい」

十階から二十階まで登って来るまでに、何度も『ヒトガタ』と遭遇し、その度に殲滅戦を強いられてくたびれてきたところで、ようやくわたし達は気付いた。

「第二班もいるのに、あまりにも殺し損ねが多すぎる。既に索敵を完了していた階から、今まで何回新手が来た?」

「5回です、日倭さん」

この高層ビル、何かおかしい。

わたし達第一班は第二班と連係して、一階一階、しっかりくまなく索敵し、探索した。その中で発見したヒトガタは、一匹残らず駆逐してやった。

追い込み漁のように、下から上へと着実に、一階ずつ制圧してクリアリングした。

にも関わらず、ヒトガタがわたし達のいる階よりも下の階から階段で登ってくるという不可解な現象が多発しているのだ。

別に、この高層ビルも2箇所しか階段が無い訳ではない。階段は3箇所あるから、一班と二班で二つの階段を登って行く時に、残り一つの階段でヒトガタが降りて来れば、すれ違うことはあるだろう。わたし達ADFが上に、ヒトガタが下に行ったとなれば、わたし達のいる階より下の階にヒトガタがいるという状況が生まれてもおかしくはない。

しかし、わたし達も何度か使う階段を変更してみたのだ。『全く使わなかった階段』というのが発生しないように、途中からは三つの階段を満遍なく使って、この二十階まで上がって来たのだ。

それなのに、ヒトガタが下から登って来るという事態は、もう5回も発生している。

間違いなく、何かがおかしい。


「この化け物どもに、あたしらと意図的にすれ違うように動く知性があるとは思えねえしね、馬垣?」

「お前のその喋り方で『思えねえし』の語尾が『な』ではなく『ね』になる理由も、わざわざ俺を名指して発言する理由も、俺にはわからねーよ、国栖穴」

「そうだしね馬垣くん。変だなあ」

「変なのはお前だし下手に便乗すんな篠守。便乗するにしても何か(ひね)りを加えろや。その言い方だと、思いつきで死を強要し始めたみたいになってんじゃねえか。第一、国栖穴とお前の協力くらいに不快なことはねえんだよ」

「ふかい?」

深いと言われたのかな?それとも不壊?

賞賛だな?

「馬垣くん、そんなことを言われたら、気の弱いわたしは動揺してしまって、何をするかわからないわよ?ついうっかり馬垣くんに抱きついちゃうかもね」

「好きにしろ。だが一つだけ忠告しておくと、俺の裏投げは自動車事故に匹敵する衝撃を相手の頭に与えるんだぜ」

「くっ…」

こいつ…!ツンデレめ…!


「現実的には、最初から話に出てた可能性しか無さそうだよね。外からこのビルの一階に入って来たっていうパターン」

と、社大路さん。

「ここは差し詰め、(あり)の巣のようなものなんじゃないかな?留守の蟻と働き蟻がいるみたいな感じで、僕達が最初に戦ったヒトガタは留守の蟻みたいなもので、下の階から登って来るのは帰って来た働き蟻なんじゃなかろうか」

「ただ出雲くん、君が風穴の空いた部屋でヒトガタに襲われた時、あのヒトガタは建物の外から来たよね?あそこは八階だっていうのに」

隆谷寺さんが言う。

「ヒトガタは壁や天井を歩くことができる。なら、ビルの外壁も歩けるんだろうね。やけに下の階から来る理由もそれで説明が付くでしょ?上の階からビルの外壁を歩いて下に降りて行った奴らが、再び階段で登って来たんだっていう可能性のほうが高いと思う」

「それもそうですね」

確かにそうだけれど、それが判ったところで別に……

「結局、全てのヒトガタを殲滅し尽くすのが困難だっていう点に変わりは無いのな」

と、今度は国栖穴さん。

「働き蟻みたいに外出している奴がいるなら、そいつらを探して殺すのは手間だし、ビルの外壁を歩けるっつーんなら、そんな場所にいる奴らを殺すのも面倒だし。あーあ、めんどくせえ」

ふむ。

国栖穴さんは何と言うか、本当に何気ないところで地味に、クリティカルシンキングが出てくるんだよな。

いや、それはつまり、楽ができるか面倒かということしか考えていないだけなのだけれど。


「とりあえず全ての階を一通り索敵してからでも、手を打つのに遅くはないだろう」

砂原さんの一言に、誰からも異論は無く。

結局、結論を出すのを保留した上で、わたし達は引き続き索敵をすることにした。

現在位置は二十階。あと七階残っている。

二十階に少しだけ居たヒトガタはもう殲滅し終えていたので、一応全ての部屋を見た上で、今から二十一階に上がるところだ。


ここまでの出来事から大体わかるかもしれないが、実は貪食獣というのは共食いをするものであるらしい。

共食いと言っても、同じ種類の貪食獣同士(ヒトガタ同士とか、長野市のカジキ狼同士とか、金足大学の大鴉同士とか)では共食いをしないのだけれど、異種族になった途端にお互いを攻撃し合うことが、いくつかの情報によって裏付けられている。

それもその筈。『貪食獣』などと一括りにしてはみても、別種の貪食獣というのは普通に別の生き物なんだろうから、別の生き物同士が食らい合うことを『共食い』と表現すること自体がそもそも間違いなのかも知れない。

さておき、ヒトガタも恐らくは例外ではないのだろうと仮定する限りにおいて、この高層ビルの中にヒトガタ以外の貪食獣がいる可能性は限りなく零に近いのだ。

そういう話を、二十階で日倭さんがしてくれた。

そしてそれがわかっていれば、索敵にもそこまで時間はかからない。あれくらいの大きさの生物が物陰に隠れるのには限界があるから、いちいち机の下みたいな狭い場所を探す必要は無く、部屋の中を大体見渡して何も見当たらなければそれでクリアなのである。

従って、二十一階からの索敵は、それ以前と比べると捗った。

二十一階には何もいなくて、二十二階にも何もいなくて、そのまま二十三階と二十四階でまたしてもヒトガタに遭遇し、白銀さんの使っている銃がどんな物なのかが気になりながらも、そいつらを殲滅し終えて。


ただし、疑問だった。

何故、これ程までの数の貪食獣が、高層ビルとは言えこんな建物一箇所に密集し、ここを根城にするかのように留まっているのか。

例えば長野市で遭遇した、カジキっぽいツノみたいなクチバシみたいな物を生やした狼型の貪食獣。

奴らだって、屋外で活動していた。もしかしたらどこかの建物を根城にして夜を明かしたりしていたのかも知れなかったけれど、わたし達を襲撃してきたのは屋外での出来事だった。

それは長野市にそこまで大きな建物が無かったから?それとも、そこまで仲間と密集するのを好まない生態だったからだろうか?

一つだけ言えるのは、長野市にいたカジキ狼の数よりも、ここまでにおいてこの高層ビルの中で遭遇したヒトガタの数のほうが、間違いなく多いということである。

間違いなく多いのに、この高層ビルの中にぎゅうぎゅうの寿司詰めかと思えるくらいの不自然な密集度で集まり、(たか)り、(つど)っている。

生態の違いとか、習性の違いとか、そんなことで説明が付かなくもないけれど、これはどうにも違和感がある。

外ではこんな化け物どもを見かけなかったし、社大路さんの『蟻の巣仮説』の信憑性はやはり低いのだろうと考えられるけれども、それなら殊更(ことさら)、ヒトガタがこのビルの外に出ようとしないことの不自然さは際立つばかりだ。

やはりこのビル、何かがおかしいのだろうとは思っていた。


「よし、足音は聴こえな……えっ?」

「ん?どうし…」

二十四階。

そこにいたヒトガタを全て殲滅し尽くして、念の為に隆谷寺さんが壁を叩いて物音を立てて、それでも遠くからヒトガタが寄ってくる足音は無かったから、よーしこの階はクリアっぽいなと安心して……

そこで背後から隆谷寺さんのそんな声が聞こえてきて。

わたしは、目の当たりにした。

「……は?」

まず初めに振り返ったのが彼だったのだろう、わたしと同様に後ろを見ながら茫然(ぼうぜん)として固まる隆谷寺さんの後ろ姿と。


その向こう、わたし達から7m程離れた位置にあった壁から、その壁を透過して来たかのように、ヒトガタが出現するところを。


「て、敵襲!背後に1匹いる!」

「あ?え!?なんで…!」

「迎撃しろ迎撃!」

たった一匹の雑魚がここまでわたし達を焦らせた理由は、説明するまでもないだろう。

直前まで、何の敵影も物音も気配も無かった廊下に、それは忽然(こつぜん)と現れたのだ。何の前触れも無く、壁をすり抜けるように通り抜けるように、壁の中からするりと這い出てきたのだ。

夢か幻か、まさかトンネル効果が起こるとは考えにくいし、こんなの物理法則に反しているじゃないか。

まるで壁という物が気体や液体であるかのように、あるいは壁こそがただの幻影であるかのように、壁から産まれたかの如く、その場に発生したのだ。

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