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第四章 高層ビルと強化人間  作者: 池潮遺跡 - ikesioiseki -


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まえがき


『性格は先天的に決まる』。

これは一昔前までの通説であったが、しかしわたしから一つだけ言わせてもらえるのならば、一つ質問させてもらえるのならば、このわたしを見てもそう言えるのだろうかと問いたい。


わたしの両親は良い人だ。

親切で優しい。理不尽に怒ることなんて無いし、叱る時は怒鳴ったりせず理性的に、かといってネチネチとした陰湿な叱り方でもなく、誠意のある一本筋の通った叱り方だ。もう紳士的に真摯すぎて、なんか、そんな顔されたらそりゃあ言うこと聞きたくなっちゃうよねみたいな感じの顔で叱られた記憶がある。

祖父なんかはもっと優しい。この場合、母方の祖父を指して言うのだが……この世の誰よりもと思う程、優しくて親切で思慮深くて誠実で、慈愛に満ちた人だった。

身内に限らず、ありとあらゆる人々を尊重し、(いつく)しみ、愛と敬意を以て守り、助け、救う。

まさしく聖人と言えよう、善人だった。

父方の祖父母は、どちらもわたしが物心つく前に死んでしまったので、知らないが……あれ?死にすぎじゃないか?わたしの血族。


そんなわたしの母方の祖父。名前は確か、木堂留居(きどうるい)だったか。わたしの母である彩陽(あやひ)の父が留居なので、わたしの母の元々の名前は木堂彩陽だということになる訳だが。

その留居はいつの日かわたしに、『自分にも意地悪な部分がある』と言った。

嘘を()け。あなたは身内にだけでなく、誰に対しても、例え強盗に対しても優しくて真っ直ぐな人だ。そんな人の言う『意地悪な部分もある』は信用できない。

実際にわたしが具体例を問うた時に帰ってきた(こたえ)は、

『ゴミ箱にティッシュを投げたらうまく回転してくれなかったんだけど、それを失敗だと思って落ち込んでしまったんだ。でもそれはつまり、世の中にいる人達の多くは、失敗どころではない極限にして超絶怒涛の失敗をしまくっていると言っているようなものだろう?そんな風に、僕でも傲慢なことを考えてしまうものなんだ』とのことであった。

何を言っているのだ……何を言うか貴様。

わたしのようなネガティヴな性格の女からすれば確かに傲慢な考え方かも知れないけれど、しかしあなたはそれを悔い、恥じているではないか。それがあなたが聖人たる証左(しょうさ)ではないのか。

それでも謙遜するのか?喧嘩を売っているのか?いやもう、それこそが留居の意地悪で生意気で傲慢で下衆(げす)で不遜で醜悪(しゅうあく)下賤(げせん)な部分だということなのか?

……なんか自己言及のパラドックスが発生しそうな気がするけれども、木のせいだろう。いや植物に対するヘイト感情を抱いても仕方ないので、強いて言えば木堂のせい…もとい、気のせいにしておこう。


とにかく、少なくともわたしなんかよりは優しいおじいちゃんだった。

そう、おじいちゃん。おじいちゃんであった筈だ。年老いていた筈なのに、あの美形の顔が全然老化しているように見えなかったのが未だにムカつくけれども。

改めて生前の彼の顔を思い出してみても、意味がわからない。何だったんだあれ?老化しろや。隆谷寺さんと同じタイプだったのか?でも隆谷寺さんだって、髪は白髪になってるぞ?それなのにおじいちゃ…祖父の髪の色は死ぬ間際まで(つや)やかな緑色だったじゃないか。しかもその髪を見せびらかすように、めっちゃ伸ばすし。美女みたいなおじいちゃんだったんだよ、本当に。まじでムカつくわあいつ。


とまれかくまれ、わたしの遺伝子はそんな良好で善良な人達から受け継いだものである筈だ。

しかし、そのわたしはこれである。根暗で卑屈で神経質で臆病でクズでネガティヴな女の子である。

いや、流石にここまで卑屈が過ぎるのも良くないかな。あまり自分を卑下するものではないか。

訂正しよう。

根暗で神経質で臆病でクズでネガティヴな女の子である……あれ?


因みにというほど閑話休題(かんわきゅうだい)でもないが、実に近年の科学界隈でも、性格はむしろ後天的に決まることが多いというのが通説になっている。まあ、一概には言えないのかも知れないけれど……

やはりどんな常識にも例外はあるか、もしくはその常識そのものが間違っているということがあるものなのだ。皆様にはそう憶えておいていただきたい所存である。

まあわたしの場合は、血を争ったばかりか小悪党になってもなお、貪食獣から世界を救うための組織に所属する始末であるので、そこはまあ……微妙なところだけれども。

でもやっぱり、わたしは親とは似なかった。


ところが、今回のエピソードを通して考えれば、別にわたしだって例外ではないのかも知れないという結論が出てしまったのだ。

もしかしたら、わたしもあの善人どもと根っこの部分では同じようなものなのかも知れないと……いや、可能性の話だけれど。

悪いね、さっきまでの話をひっくり返すようで。

おじいち…祖父と同じとまでは言わないけれども、わたしもわたしで、どう足掻いても善良な血が流れているのかも知れないと、そういう可能性が出てきてしまったのだ。

それは妙に酸っぱいような気恥ずかしさを覚える一方、しかして実に素敵な結論である。


今回のエピソード。

高層ビル。洞窟のような廊下。後悔の数十秒。

そう、あれはわたしの人生において、忌むべきでありながら懐かしむべき、初冬の出来事であった。


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