第18話 半年の歩み、そして金の瞳
半年の変化
ギルドカードを手にしてから、もう半年が経っていた。
あの日、クラガン討伐の功績で発行されたカードは、俺の手に「名誉」以上のものを与えた。アヴェルネ出身であっても、正式に認められたハンター。誰にどう言われようと、カードは揺るがない“証”だった。
カードを持ってからは、扱いが一変した。
依頼の掲示板で俺の手を押しのける者はいなくなり、受付で舌打ちされることも減った。何より、報酬の扱いも正規の基準で支払われる。塩漬け依頼ばかりを押し付けられていた頃とは雲泥の差だ。
それだけじゃない。ハンターランクも昇格した。
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ハンターランクの説明
ギルドのランクは七段階に分かれている。
一番下は【灰鉄】。見習い同然で、危険度の低い雑用しか回ってこない。
次が【青銅】。正式なハンターとして認められ、一般的な討伐依頼をこなせる段階。
その上に【白銀】、【黄金】、【紅玉】、【黒曜】、そして頂点の【輝晶】がある。
多くの者は青銅で止まり、白銀に上がれれば優秀、黄金まで行けば街で名前が知られる。紅玉以上は英雄譚に語られる存在で、黒曜や輝晶など大陸に数えるほどしかいない。
俺は、半年の働きを経て【青銅】に昇格した。
下から二番目――だが、アヴェルネ出身でそこまで上がった者は過去に存在しない。それだけで街の目は変わった。
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装備と街での暮らし
報酬も増え、装備も充実してきた。
革鎧は金属板を組み込んだ胸当てに変わり、刃こぼれだらけだった短剣は、打ち直された鋼の剣に。足には滑り止め加工されたブーツ。盾こそ持たないが、攻防の切り替えは以前より格段に速い。
街の暮らしも変わった。
酒場に行けば軽口を叩いてくる同業者も現れ、顔なじみの鍛冶屋は「お前さんの剣はまだ俺が面倒見る」と冗談交じりに背を叩いてくれる。
ギルドの受付嬢ミランダとも、気軽に言葉を交わせるようになった。あの冷たい眼差ししか知らなかった頃を思えば、別人のようだ。
「また塩漬けに挑むの?」
そんな冗談さえ言うようになった。
俺は肩を竦めて返す。「慣れたからな」
彼女がふっと笑う。――それが、なんだか救いに思えた。
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リムルードの成長
リムルードも進化した。
ビッグスライムからマジックスライムに至り、魔法を扱えるようになった。火球、氷槍、雷撃、風刃――一通りの元素魔法を模倣し、敵の弱点属性を突く戦い方ができる。
俺自身も、リムルードとの同調で同じ魔法を操れるようになった。肉体強化と併せれば、以前の俺とは比べ物にならない戦力だ。
ドウマ Lv35。
リムルード(マジックスライム) Lv35。
半年前、誰がこんな未来を想像しただろう。
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森での遭遇
そんなある日。
俺はリムルードと共に、近郊の森を巡回する依頼を受けていた。瘴気の残滓を探り、小型魔物の駆除をする定期任務だ。
森は雨の後で湿り、腐葉土の匂いが濃い。踏みしめるたび、靴裏に冷たい泥が吸い付く。
その奥で――見つけた。
小さな影。
木の根元で蹲っていたのは、一匹の【ゴブリン Lv1】。
通常のゴブリンは黄色い瞳を持つ。だが、そいつの眼は――金色だった。
金の瞳は不吉の象徴。
かつて災厄を呼んだ魔王軍の眷属に、同じ眼を持つ個体がいたと伝承にある。それ以来、金眼の魔物は“忌み子”として同族からも迫害される。
この個体も例外じゃなかったのだろう。
身体は痩せ細り、骨ばっている。腕には噛み傷や石をぶつけられた痕があり、皮膚の一部は剥がれて赤黒く腫れていた。
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ゴブリンの記憶
その瞬間、頭に流れ込んできた。
――虐げられる記憶。
仲間の群れに混じることを許されず、常に餌を奪われ、遊び道具のように殴られた日々。
ただ立っているだけで石を投げられ、声をあげれば嘲笑される。
“金眼”というだけで、存在そのものが拒絶されていた。
胸の奥が締め付けられる。
それは俺が味わってきた差別と重なり、なおかつそれ以上に救いのない孤独だった。
(……同じだ。いや、それ以上に、酷い)
リムルードが胸の奥で震える。「まもる……」
あいつも、同じ匂いを嗅ぎ取ったのだ。
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救出
俺は腰の水袋を取り出し、口を湿らせてやった。ゴブリンは驚いたように目を見開き、戸惑いながら水を飲んだ。
次に干し肉を差し出す。恐る恐る噛み、すぐに涙のようなものを流しながら貪り始めた。
「……生きたいんだな」
その姿を見て、放ってはおけないと確信した。
だが、連れて街に戻るわけにはいかない。ゴブリンは討伐対象であり、金眼となれば即刻処分だ。
だから俺は、森の外れにある洞窟を選んだ。
そこにゴブリンを匿い、食料と水を与え、三日間の休養を取らせた。
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短い交流
三日の間、ゴブリンはほとんど言葉を喋らなかった。
ただ目を伏せ、食べ、眠る。
だが時折、視線が俺に向く。その金の瞳に宿るのは、警戒と……かすかな感謝。
人間のように頭を下げたりはしない。
だが、干し肉を食べ終えた後に小さく胸を叩く仕草を見せた。
それは――戦場で仲間に送る「生きろ」の合図に似ていた。
もちろん、俺の憶測に過ぎない。
けれど、彼なりの感謝なのだと、俺は受け取った。
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別れ
三日が経ち、体力も戻った頃。
ゴブリンは洞窟の出口で立ち止まり、振り返った。
金の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。
そして、踵を返して森の奥へ消えていった。
俺はそれを追わなかった。
いや――追えなかった。
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リムルードとの会話
(どうして仲間にしなかった?)
リムルードが問いかける。
俺は少し黙ってから、答えた。
「……分からない。ただ、今じゃないって気がしたんだ。何か……やり残したことがあるんじゃないかって」
リムルードが小さく震え、「まもる」と呟いた。
否定ではなく、理解の響き。
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終わりに
街へ戻る道すがら、腰のカードを撫でた。
藍革のそれは、ただの道具ではない。
半年で俺は、ハンターとして、そして一人の人間としてここまで来た。
だが――金の瞳のゴブリン。
あいつもまた、生き残るべき存在だと、心の奥で強く思っていた。
生きていたらいずれまた出会うだろう。
その時、俺は迷わない。
読んでいただき感謝です。続きは明日か、明後日には投稿します!




