第13話 認められた拳
塩漬け依頼の帰還
ギルド広間の空気は凍りついていた。
ドウマが背に担いでいたのは、三メートル近い巨躯――【ゴブリン・シールドファイター】の死骸だった。
塩漬け依頼の対象は、徒党を組んだ通常のゴブリンと予想されていた。せいぜい一・四メートルほどの雑兵たち。だが実際は、想定外の凶悪な上位種。
多くのハンターは「アヴェルネ出身の小僧が戻るはずがない」と噂していたが、その予想を裏切り、彼は血と泥にまみれて戻ってきたのだ。
ざわめきが走る。誰もが信じられなかった。
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疑念と挑発
その場に立った最古参のハンター、【ダロスLv50】が前に出た。
筋骨隆々の体は歴戦の証であり、この支部で最も信頼される男だった。
「本当に倒したかも分からねぇ。死んだ奴を拾ってきただけかもしれねえ」
その一言で、場の熱が一気に変わる。
ラガードの後に配属された新しい上席係官はルール上問題ないと告げたが、ダロスは首を振った。
「俺たちは命懸けでハンター業をやってんだ。イカサマ野郎は認めねぇ。俺だってこのゴブリンには無傷で勝てねぇ。この小僧が勝てるわけねぇ」
その眼光は鋭く、ドウマを射抜いた。
「俺がコイツの実力を測ってやる。模擬戦だ。――殺しやしねぇからよ」
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模擬戦の幕開け
石畳の広間に円が作られる。
巨斧を構えるダロスの姿は、まるで山のように揺るぎない。
対するドウマは痩せた少年の体で立つだけ。
「やめて!」受付嬢が叫ぶ。
「タダじゃ済まない!」
普段は冷たく見えた彼女の声に、焦りが滲んでいた。
周囲のハンターも口々に止める。
「俺たちはドウマが嫌いだが……子どもが一方的にやられるのは見たくねぇ!」
だがドウマは首を振った。
「やる。俺は……逃げない」
その声に、広間は静まり返る。
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執拗な攻撃
ダロスの斧が唸りを上げ、石畳を砕く。
ドウマは避けきれず、肩口を抉られて床に叩きつけられた。
肺の奥から血が吐き出され、意識が飛びかける。
だが、膝が床を探り、震える腕が体を押し上げた。
立ち上がった。
次の一撃で壁に叩きつけられ、肋骨が軋む。
また立ち上がる。
腹を撃ち抜かれても、血だまりの中から、這い上がるように立ち上がった。
「おい……ゾンビかよ……」
誰かが呟く。
ダロスの額に冷や汗が浮かぶ。
(やめろ……死ぬぞ。いい加減、倒れてろ! 降参しろ……!)
だがドウマは止まらなかった。
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瀕死の逆撃
巨斧が最後の止めを狙った瞬間。
ドウマの瞳がぎらりと光った。
腕に絡むリムルードが槍状に変形する。
「――纏・穿突!」
血と汗を飛ばしながら突きを放つ。
巨斧の刃が凹み、床石が爆ぜる。
「……っ!」
ダロスの腕が痺れ、巨斧の重みが揺れた。
直撃ならば胸板を貫いていたかもしれない。
(これは……俺でもまともに食らったらヤバい。……本当にコイツが倒したのか?)
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認められた強さ
ドウマは血に濡れながらも、よろめき立った。
虚ろな目の奥に、まだ火が宿っている。
ダロスはついに斧を下ろし、上級ポーションをかける。
冷たい液体が傷を塞ぎ、血の臭いを薄めていく。
巨斧を担ぎ直し、深いため息を吐いた。
「……認めるしかねぇな」
そして広間に響き渡る声で宣言する。
「アヴェルネ出身かどうかなんざ関係ねぇ! 俺はコイツを同等の仲間として扱う。異論ある奴はいるか!?」
誰も答えられない。
やがて賛同の声が広がり、広間は震えた。
その日、辺獄の血を持つ少年は、ゾンビのように立ち上がり続けた末に、ついに仲間として認められた。




