9 もやもや
「この前は本当に申し訳ありませんでした。……その、フィーネはちゃんと見つかりましたので……」
「そうでしたか、それはよかったです」
まぁ、そうだよね。私がフィーネをちゃんと出したんだから。あぁ、誠実な騎士様。確かに、ちょっとあの時のお顔は怖かったけど。仲間思いということにしておこう。……それに比べて私は。
「……何か、不便なことはないでしょうか」
「いえ、とても良くしていただいてます」
正直、気まずいというか恥ずかしいというか、なんというか。……申し訳ないというか。先日フィーネとしてあんなこと言っちゃったのに、今はフィアーネとして騎士様と夕食を食べている。
騎士様にしては珍しく、今まで見たことないほど髪がボサボサとしている。食べようとしたトマトを落としたことも気づいていない。アデルもいつもならからかいそうだが、黙ったまま俯いている。ぼーっとしている、そんな騎士様も可愛いのだけど、多分今はそんな場合じゃない。明らかに様子が変だ。何かあったのかもしれない。フィーネのことがあったから? 違う、よね? ……うん、好きな人関連?だ。きっと。絶対そう!! だって、そうだと思わないと、私が……
「……何かあったのですか、私でよければ相談にのりますわ」
私の(じゃない)騎士様を悲しませるなんて。一体どこの女です!?……なんて。何自分を棚に上げてるの、私。
「……いや、なんでもないんだ」
ふむ、やっぱり話してくれないか。まぁしょうがない。騎士様が嫌なら無理に聞き出さず……
「いやいや、相談に乗ってもらいましょうよ〜、やっぱり男の僕達で話しててもキリないし!」
ほう? やはり女ね? 女なのね!?
くぁあ騎士様の役には立ちたいけど聞きたくないぃ。でも気になるぅ。
「……そうだな、その……」
「好きな子が逃げちゃったんですよぉ〜」
「おい……!」
「フィアーネ様、どうすれば良いと思います? どこ行ったかも分からないんですよ」
ほう? 痴話喧嘩か。
女め、贅沢な。
あぁ、私から聞いておいてあれだけど、私にそんな話をしないで……いや、私がフィーネだって、分かってないんだからしょうがない。
実はアデルにも『好きな人いるとか言われて大丈夫か』的なこと聞かれて、何とも思ってないから大丈夫、って返しちゃったんだよね。だから恋愛相談も……私にできると……
「……どこに行ったか分からない?」
「……あぁ、消えてしまって」
ふむ、消えた、ね……
好きでいてくれる騎士様を置いて消えるなんて、全くほんとに贅沢でずる(以下略
とにかく、騎士様のためにはその女を見つけなければ。けど、私が魔法を使って見つけるわけには行かない。危害は加えたくない。見つけたら危害を加えてしまうのか、と言う質問にはノーコメントでいこう。……その女に何かあれば、騎士様が悲しんでしまう。うぅ、そう考えるとモヤモヤする。
はぁ、だから最近辛そうだったのか。
「……領外へ出たかどうかなどは……」
「分からない」
分かんないんだぁ。
あれかな、喧嘩してもう良い! ってなって、
お互い血が昇っちゃって、それで時間が経ってから
騎士様が謝りに行ったらいなくなってた的な?
「……話を聞いてくれなくて」
おっと、ちょっと私にも心当たりが。
女の子あるあるなのかな?
ぬぁ、悲しんでる騎士様もかっこい、じゃなくて!
「……話を聞きに来てくれるんじゃないですか、その人なら。ちょっと時間を置いたほうが良いこともあります。嫌いになったわけじゃないと思いますよ。会えないなら出来ることをやるしかないです」
「……そうだな」
ちょっと冷たすぎたでしょうか。
まぁ、しょうがない。好きな人の恋愛相談って思ってた以上にきつい。自分で言ったんだけど。発狂しなかっただけ褒めて。
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あの出来事から2日。
まだまだ騎士様のお顔は暗いです。
フィーネとして本当はギルドに行かないとなんだけど、あんなことがあった手前、ちょっと無理です。
なのでお昼寝してたら夜寝れなくなりました。
現在夜のお散歩中です。
庭でお散歩。暗いけどこれはこれで綺麗です。風がそよそよと気持ちがいい。髪もスカートもちょっとなびくくらい。この感じとても好きです。
暗闇は嫌いです。それでも、騎士様の髪を思い出すので好きでもあります。騎士様が光でした。暗闇の中でも、光ってくれる。温かく優しく。
気分、転換のつもりできたんでしょ、私。
騎士様のことは忘れなよ。
「……ふんふんふふーん」
鼻歌を歌い、指をくるくるとする。
何か綺麗な魔法でも使って……
「フィーネ!?」
ぐいと手首を掴まれる。いつの間にか人がいたようだ。騎士様の声。驚いて見上げればすぐ近くに騎士様の顔がある。こんなに騎士様の切羽詰まったような表情の騎士様は初めて見る。いや、最近では何度か見たか。フィーネの時も。かっこい……じゃない。
まさか、フィーネだとバレた!?
「……侯爵様?」
バレてない。バレるはずない。
姿も違う。声も違う。魔法だって使っ……たことあるなまずい。
「……皇、女様、?……あぁ、すみません。こんなに急に……」
「いえ、気にしてませんよ」
あっぶない。バレてない。バレてないよね?
たぶん、騎士様疲れてるんだよ、うん。
好きな人とも喧嘩して、フィーネもあんなこと言っちゃったし。……かなり申し訳ない。
「お疲れのようです。お早くおやすみください」
そう言いながら回復魔法とか諸々魔法をかける。せめてもの罪滅ぼしだ。きっと大丈夫。ばれない。ハンナごめん。
「……?……はい。ありがとうございます」
……よし、バレてないバレてない。大丈夫。
それにしても。フィアーネがフィーネに見えるくらいなら……いくら何でもあんな風に去っちゃったのはやっぱ酷かったよね。話があるって言ってたし。……
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次の日。
覚悟を決めて、私は騎士様を避けずにギルドへ行くことにする。正直不安しかないが今のままではいけない。ちゃんと心のモヤモヤを取り除こう。1週間後には、参加しなきゃいけない1回目のパーティがある。フィアーネとして騎士様とまあまあ一緒にいないといけないのだから、ボロを出さないためにもしっかり話をしよう! 会えるかわかんないけど!!
と、思っていたのだけど。
やっぱり会うのが怖くて動けず。
うぅ、明日こそは、ちゃんとギルドに行きます。
きっと。たぶん。