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8 私の過去



私がこの、ライアーネ侯爵領に初めて来たのは、3年ほど前だった。まぁ、その時は一回来てみただけだったけど。こんな感じか〜、で、終わった。



毎日ただ生きるだけ。

生き残れるように、強くなって。


強くなったらお金をもらって味方を作る。



世の中結局


お金、地位、権力、強さ


そんなもの。


愛とか家族とかいらない。

だって、そんなの私には居なかった。そんなもの、知らない。私には、必要ない。

けど、本当はそんなの嘘で。それでも怖くて。


あの頃の私は、まだハンナのことも信じきれてなかった。なにも信じてなくて孤独だった。


もちろん楽しいこともあった。優しい人たちもいたし、そんな人たちを私の魔法で守れるのは本当に嬉しかった。

けど、どこかで嫌な気持ちがあって。どこかで疑って、怖くなって。皇帝たちがどうしても憎かった。会いにきてくれることもないくせに、私は何でいつもあの、皇帝が用意した家に戻るのだろう。まだ、期待しているの?


私はいつも心にポッカリと穴が空いているようだった。必死で埋めようとするのに埋まらない。魔法を使うことは楽しかったから、いろんな場所を巡っては魔法を使っていた。それでも心の穴は埋まらない。満たされない。



全部自分のため。

心から笑えるってどんなだろう。私が笑ってるのが、作り笑いなのかどうかも分からない。

ただ、それでも心の穴を埋めたい。それだけだった。



そんな中で、I年と何ヶ月か経ったある時。なんとなくもう一度訪れたライアーネ領で、いつものようにギルドで依頼を受けようとしていた時だった。なぜか、少し胸がざわついた。



「よう嬢ちゃ、え、Bランク!? すごいねぇ嬢ちゃん。パーティも組んでないのに」

「……どうも」



当時はまだBランクで

少女にしては強いとかそんなところ。その後すぐにAランクになれたんだけど。

パーティを組みたくなかったので受けられる依頼にまだ制限があった。



「……あ、じゃあ、あれどうよ?」

「あれ?」

「ちょうど侯爵様の部隊が上級討伐に行くんだ。あの部隊と一緒なら許可出せるぜ!」



そんなこんなで時々、騎士様の部隊について行くことになった。






「……お前大丈夫なのか? 倒れたりすんなよ?」

「まあ、怖くなったら帰って良いんだぞ」



最初の私はなめられていた。

まぁ、端から見ればただの少女だから当たり前なのだが。


なので最初は前線なんかではなく最後尾。

正直、ほとんどが体力強化と回復魔法しか出番がなくてつまらなかった。そんなの、思っちゃいけないことだって今ならわかるけど。



けど、時々上級魔物とも戦えたから大人しく着いて行っていたのだが。



「うわぁぁあ!」

「おい! 前見ろ前を!」


魔物の凶暴化。

北部では数年に一度あるらしい。

その中でもその時は本当に酷かった。



次々と倒れていく騎士たち。

回復魔法は使うが魔力が足りなくなったらまずい。

最低限の治療だけして攻撃を続ける。



そのとき、


「くっ」



初めて近くで見た騎士様は、

仲間を身をていして守っていた。


どうしてそこまでするのか、当時分からなかった。

回復魔法だってあるのに。

1番強い人が、団長が、怪我をしてどうするのかと。



でも

私は


彼をかばい前に立った。


みるみると力が湧いてくる。

こんな感覚は初めてだった。初めて、これが全力を出すということなんだと、そう思った。



騎士様の怪我を治しつつ、今動ける人たちで協力して全力で倒した。剣士たちの剣と、私の魔法が組み合わさる。すごいと思った。全力で必死で、何も考えられなかったけど、どこかでこれならなんだって倒せるような気がした。


幸い、死人は出なかった。


達成感がすごかった。

やりきったという達成感。

守れたんだと、嬉しいと思えた。


初めて経験したわけじゃないのに、今までになく私の心は温かい。




あの時からだ。

私の中で何か変わったのは。




とはいえこの時点では恋心なんてなかったけど。


ただ、まぁこの人たちなら守っても良いかな。

みたいな。

今思えばなにをそんな偉そうにって感じだけど。



そこからちょくちょくみんなと話せるようになっていった。私を悪く言う人は減っていった。あの2人も、謝ってくれたし。ただただ温かい人たち。



居心地が良かった。



私の魔法を認めてもらえて、少しずつ前線でも活躍するようになり、

それから騎士様と少しずつ話すようになった。

顔は怖いけど優しい人らしい。



「なんであの時、庇ったんですか。侯爵様が怪我したら指揮も下がるのに」


ある時、騎士様にそう聞いてみた。

私はあの時子供だった。

愛を知らない空っぽな子供。前世の記憶も忘れかけていて、なぜか、分からなくなってた。暗い闇のように堕ちていって、心の穴が広がるばかりで、視野が狭くなっていた。


騎士様は笑っていた。

まだ少し若い騎士様は無邪気に笑いながらこう言った。



「分からない」


と。



は? と、そう思ったけれど。

私以外みんな笑っていた。

もやもやする私の頭を撫でて彼はこう続ける。



「体が勝手に動いていた。君だって助けてくれただろう? 助かったよ、ありがとう」



私は驚いた。体が勝手に動くのかと。

私は違う。瞬時に考えてそれが1番良いと判断しただけ。



なにも考えずに救ってはだめだ。

野良の子犬は一度ご飯を与えただけできゃんきゃんと、きらきらとした目で、追いかけてくる。

いつまでもいつまでも、純粋そうに。ただただ嬉しそうに。



それからなんとなく、騎士様の街に通い続けた。

今思えば、騎士様を追いかけていたと思う。

明確な理由なんて分かんないけど、

気づけば恋に落ちていた。



気づいたのはちょうど1年ほど前のこと。

アデルに揶揄われて気付いた。


だんだん感情豊かになって、本当に笑えると思い始めていた私にアデルはこう言った。



「フィーネはリオン様にべったりだねぇー」


と。



「……確かに。好きなのかも?」

「え、えぇ!?」



侯爵様は、私を暗闇から引っ張り出すきっかけを作ってくれた、そんな"騎士様"なのだ。カッコよくて優しくて、みんなを守ってくれる“騎士様”。



騎士様を思い浮かべれば、自然と笑顔になった。心から。騎士様に会ううちに、心の穴なんて気にならなくなって。毎日人と話すのも楽しくて。



剣を振るう姿はかっこいいし、

街で困っていたおばあさんの鍵を見つけたことを話しただけで褒めてくれる。

偉いぞと褒めて笑っている騎士様を見たら、

誰でも惚れてしまうと思わない?




誰かを好きになるなんて知らなかったから、忘れていたから、ただただがむしゃらで、頑張ったと思うんだけど。私なりに笑って騎士様に好かれるような人になろうと思ったんだけど。



ダメだったみたい。




後悔はしてないよ?

騎士様を好きになってなかったら、

ハンナとも仲良くなれなかったし、

今もぼーっと生きていたかもしれない。



人々と笑い合えるようになったのは、

間接的にだけど騎士様のおかげだからね。




今思うとかなり重いなぁ。




嫌われたくないなぁ。



もう遅いか、



はは、ほんとにもう、

こんな自分に笑っちゃう。




大好きだよ、騎士様。

あなたの幸せを、

ずっと願ってるから。



……きっと、ちゃんと、願ってるから。





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