6 ギルドへ
久しぶりにギルドに来ました。
ハンナには、何かあれば合図を出すように言ってあります。騎士様はまだお屋敷にいる様子。今なら大丈夫。……会うことはない。
「これ、お願いしまーす」
フィーネの姿もこの声も、久しぶりですね……
ほんとは、もうフィーネとなるのはやめて、新しい人になっちゃおうかとも思いましたが……流石にいなくなったままではいけませんよね。それに、Aランクというのはかなり魅力的なのです。どの依頼でも受けることができます。ハンナのお給料は高いのですよね……
なので、フィーネは別の地方へ行くということにしようと思います。もともと、騎士様に会えるかもしれないからここに来ていたわけですし。ここじゃなくても行こうと思えば色々なところに行けますから。
ちょっと、もう騎士様と一緒にはいられませんから。
この受付の子ともお別れです。
「フィ、フィーネちゃん!? 元気だった、? 心配してたんだよ!?」
「うん、元気だよ。ごめんね、心配かけて」
「ううん、良いんだよ気持ちはわかるし……アルダ山に行くの? 中級依頼だけど……」
「うん。久しぶりだから……」
嘘である。
だって、上級依頼は騎士様と会ってしまうかもしれないから……
アルダ山は中級依頼の中では依頼料も弾むし、運が良ければ珍しい薬草が見つかる。
今日のある中で、上級依頼の次に依頼料良さそうだ。ハンナへのお給料が本当に高いからなぁ……最近は特にダンスのレッスン代が……
「そ、そっか……分かった。はい、どうぞ。気をつけてね」
「うん、ありがとう。それからこれあげる」
「これは……」
さっとネックレスをつける。
小さく白い鉱石がついたそれは私のとっておきの加護魔法がついている。
「マリアにはお世話になったから。……私、そろそろここを離れることにするよ」
「えぇ!? それって……まって。いつ行っちゃうの?」
「うーん、決まってはないけど。……早くて明日?」
「明日!? ちょっと待って、早いよ……」
「うん。……へへ。ごめんね急に。色々とありがとう。落ち着いたら手紙でも送るよ」
「……っうん! 分かった約束ね! 今日待ってるから! また今度ご飯でもっ……!」
「うん、行こう」
マリア優しい。
確かに明日は急だったよね。
悪いことしちゃったなぁ。マリアとは、これからもずっと仲良くしてたいな、伝書鳩でも飼おうかな……?
ってん? なんかギルドが騒がしい? いつの間にか人が多くなってる気がするし……
ま、いっか。
マリア以外にも親しくしてくれた人たちには挨拶したし。よし、魔法ぶっ放しに行こー!
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その頃、ギルドでは…
『聞いたか今の!?』
『あぁ。フィーネちゃん、可哀想に…。ショックでこの街去るんだってよ』
『は!? 明日!?』
『どうするよこのままじゃ行っちまうぞ!』
『どこにも行かないって言ってたのに……、なにも言わずに行っちゃうなんて!』
『侯爵様の結婚なんて反対だ!!』
『そうだそうだ!』
『私たちはフィーネちゃんの味方よ!!』
『このまま黙ってらんねぇ、おいお前らは侯爵様に伝えてこい!』
冒険者たちの団結力はすごかった。
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「ふんふんふふーん」
指をくるくる。ふわりと吹く風が心地いい。
スシャっ、ズサッ、ドーン!
ザシュッ! ブォォーオ!
どんどん湧き出る魔物。何も考えずに魔法を放つ。ほっとけば人を襲う魔物に慈悲はなくて良し! どんどん倒そう!!
久しぶり剣を持ち、魔法で強化しつつブンブン振り回す。
……どんなに辛くても、騎士様が悪いわけじゃない。彼はフィアーネがフィーネだと知らないのだし。フィーネだった私にも、全て話す必要はないのだし。
ぐるぐる駆け巡る黒く思いぐちゃぐちゃした色の思いを、魔物にぶつけていく。
こんな状態じゃ、騎士様に会える気がしない。フィーネとしても、皇女のフィアーネとしても。パーティに一緒に行くなんてできるだろうか。真っ赤になって倒れるどころか、泣き出してしまいそう。
「ふぅー、だいぶ倒したな」
考えたくなくて、思考を無理やり変える。
森の中の少し開けた場所。
私が倒した魔物の山がすごい。
久しぶりに思いっきり力を出して汗をかいたからだいぶスッキリした! 試したい魔法も使えたし……!!
魔石やツノなど売れそうなもの、報告に必要なものを取る。ちなみに魔物は回収しなければ消える。何と都合が良いことか。
「よし、今日はもう良いかな……」
久しぶりに体を動かしたら疲れた。そろそろ帰ってお風呂に入りたい。
―ピーン―
ガサガサっ
「何!?」
なんとなくの直感と、音。それを感じた。振り返るが見当たらない。“何か”がいる。そう感じた。油断した。やっぱりちょっと鈍ってる。
今からでも探知魔法を……
バンッと大きな音がした