《番外編》綺麗な音
今日はお休み、とかそういう定義は私にはないが今日はお買い物の日とします。
もうすぐハンナの誕生日だから、プレゼントを買いに来たのだ。
ラントーネ領の街に。
皇都とかで買えよと思ったか? 嫌である。もしかしたら騎士様に会えるかもしれないこのチャンスを、私が逃すわけがないでしょ!
まぁ、必要があればまた今度皇都に行く。
ということで現在、ラントーネ領の宝石商に来ている。
金目のものの方が喜んでくれそう。……うーん、でも売られちゃうかな……というかそれならお金渡した方がいいのでは? いや、それは嫌だしな……
んー、他にお花とかも買えばいいかな。
お金になるやつと普通にプレゼントしたいものを買おう。よし、そうと決まれば宝石選び。
赤紫色が似合うよな、ハンナ。瞳の色だから。綺麗なんだよねぇ。
「……フィーネ?」
後ろで私を呼ぶ声がする。
小さな声だったが私は聞き逃さない。
この声は……
「あっ! 騎士様!!」
やっぱり!!
宝石商の店の前にいる騎士様を見つけ、店員さんに話をしてから店を出る。まさか本当に会えるとは思ってなかった。
「騎士様! 偶然ですね、今日はどうしたんですか?」
「ギルドと討伐の話をしに……君こそどうしてここに?」
「友人のプレゼントですよ〜」
騎士様もアデルもなぜかめっちゃ驚いている。どうかしたのだろうか。
それにしても、偶然、それも討伐でもない時に会えるなんて、なんという幸運。日頃の行いが良いせいかな!
「それじゃあ私は戻りますね! 騎士様また会いましょう!」
「ま、待て」
騎士様は軽く私の手を掴んで言う。
「俺も一緒に選ぼう」
◆ ◆ ◆
まさか騎士様が一緒に選んでくれるなんて。これは実質デートと変わらないのでは?
「騎士様、お時間とかは大丈夫なんですか」
「問題ない」
なぜか騎士様の顔は険しい。そんなに真剣に悩んで選んでくれるのか。優しすぎないだろうか。
「どんなのがいいんだ?」
「そうですねぇ……ルビーやガーネットあたりがいいでしょうか」
この日のためにちょくちょくお金を貯めてきたからね。一つくらいならなんとかなる。
なぜかアデルの笑い声が聞こえるんだけど、私変なこと言ってないよね?
「フィーネ……その、友人というのは……」
「? とても大事な人なのでできるだけ良いものを渡したいんですよねぇ。瞳が赤っぽいので似合うと思うんです!」
アデルはぶはっと吹き出してしまった。宝石商でそんなに騒いで良いのかな。……まぁ侯爵である騎士様がいるから大丈夫なんだろうけど。
「フィーネ……その男は、」
「え? 男? 誰のことですか?」
アデルがさらに笑った。騎士様はそんなアデルに怒っている。
「アデルお前っ!」
「あはははっ! よかったじゃないですか騎士様?」
騎士様が本当に怒っている。これはまずそうだ。私は知らんぷりして宝石を見る。
ネックレス……とかが良いかな。
そんな高いものは買えないけど、ハンナなら許してくれる。
「これでお願いできますか」
「はい、かしこまりました」
そう店員さんに渡したのだが、すぐにはもらえないらしい。……まぁ、今の私は貴族じゃないからなぁ。顔は知られてるからいけると思ったんだけど。また後日、とのことだ。騎士様とアデルはいつの間にか仲直りしていて、コソコソと話している。
「何話してるんですか?」
近づいてみると騎士様は大きく肩を揺らした。
「な、何でもない。今日はもう帰るのか?」
「いえ、もう少し見て回ろうかと」
普段身につけられるようなものとか、お菓子とか。そういうのも贈ろうかな。あの宝石はお給料だし。
「そうか。俺でよければ手伝わせてくれ」
「え、良いんですか?」
「あぁ、先程は結局何もできなかったからな。……それとも嫌か?」
「まさか! とっても嬉しいですよ!」
まじめにこれはデートでは?
にやける口元を何とか抑えようとしたが無理で、私は満面の笑みで歩いて行った。
◆ ◆ ◆
ガチで楽しい。
何だこれは。騎士様とお出かけとかどうなってるんだ。あー死ぬ。もう死んでもいい……わけではないけど。悔いはあるけど。
ちなみにハンナの話をしたら笑顔で聞いてくれた。名前は言ってないけど。
夕日綺麗。
なんか良い雰囲気では? 自分で言っちゃなんだけど、かなり良いのでは!? 今それっぽく告ってみるか!?
「……フィーネ」
そう考えていた時、騎士様に声をかけられ驚いた。振りかえって騎士様の方を向く。
「どうしたんです……かっ!?」
なんか知らないけど耳に触れられてる気がする。何やこれは? 私、顔真っ赤だろうな。想ってもない女の子にこんなことしちゃダメじゃないか。
「? これは……」
騎士様の手が離れたので私が触れてみると、何やらイヤリング? がつけられているようだった。
「プレゼントだ。いつも感謝している」
うわぁぁああ! なにそれ!! 可愛い嬉しい!! わぁぁああ! やばー!!
そんな感じで私がきゃーきゃー心の中でやっているうちに、騎士様は反対の耳にもつけてくれる。私の心の中の語彙力が乏しすぎて悲しい。
……それはさておき、このプレゼントは一生の宝物にしよう。
「よく似合っている」
私の胸は嬉しさでいっぱいのはずだ。
けど、ちょっと、勘違いするからやめてほしい。
「フィーネ、俺は……」
騎士様はなにか言いかけるが、止まってしまう。私は騎士様を見つめ返していた。騎士様って本当に綺麗だな、輝いてる。思わず笑顔になるくらいに。
私はイヤリングを1つとると、魔法をかける。私の全てを注ぎ込む。イヤリングはかなり、見ていられないほど眩しく光ったが、やがて段々と消えていき、宝石にしては、少し綺麗に輝く程度になった。
私は彼の耳にそのイヤリングをつけてやる。騎士様は背が高いので、つけづらいが、何とか頑張る。
「へへ、お揃いですね、騎士様っ!」
私は目をつむって笑った。嫌そうにしてないよね? 騎士様。
お揃いとかやめといた方がよかったかな。ちょっと、大好きな騎士様の顔を、この時だけは見れなかった。
「つけなくても魔法は作動しますから、必ず持っていてくださいね、絶対ですよ! ……それじゃあ、今日はありがとうございました! また会いましょうね!!」
ふわりと転移魔法を使う。
……逃げてきちゃった。
けど、
ちらりと見た騎士様は、夕暮れだからか、赤くなって見えた。
嫌がってるわけじゃなさそうで、嬉しくて足をバタバタさせる。嬉しいしなんか恥ずかしい。早くまた騎士様に会いたいな。
……そういえば、あの時なんて言おうとしてたのかな。
その結論は出るはずもなく、私は疲れて眠ってしまった。
後日。
あの宝石を取りに行き、お金を払おうとすると『もういただいています』とか言われてしまうのだがそれはまた別のお話。
◇ ◆ ◇
*リオン視点
第12話アダル山の二回目の魔物凶暴化のときのこと。
パリィンと、綺麗な音がなった。
戦っている最中に聞くはずのない、不思議なほど……怖くなるほどに、綺麗な音だった。
前にはなぜかフィーネがいて、それが見えなくなるくらいに分厚い防御魔法が張られていた。だが、それも音と一緒に割れていく。
なぜか、怪我をしていない。
いいや、治されたのか?
目の前には、フィーネが苦しそうに痛そうにしているのに、俺には治せない。ただ魔物を、早く倒すこと。
それが、俺が今できることだった。
魔物を討伐して、フィーネを治療して侯爵邸に戻ってきた。フィーネはまだ眠っている。
ふと、気になってポケットに入っていた袋を開けると、中にはあの時のイヤリングが、割れて光を失っていた。
最後の最後まで読んでくださり、ありがとうございました! 少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです!




