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2 皇女フィアーネ




馬車に乗られること数時間。

ようやく皇帝たちのいる皇宮までやってきました。



「はっはっは、久しぶりだなフィアーネ。表を上げて良いぞ」



にこにことしている陛下。騙されてはいけませんよ? こんなの仮の姿ですから。仮? いや、偽りの姿の方が正しいか。まぁ、私も人のことを言えませんけどね。それにしてもいきなり呼び出すとか何考えてんですか普段は呼ぶことなんてほぼないくせに! わざわざ騎士様といる時なんて!! 騎士様との愛しい時間が台無……



「はい、ありがとうございます、陛下。お呼びいただけて光栄です」



私は怒ると笑っちゃうタイプなのです。助かりました。危ない危ない、舌打ちするかと思いました。盛大に。流石にそれはまずい。



「……よいよい、調子はどうだ?」

「陛下のおかげでとても健康に過ごせております」

「そうかそうか」



私はルナティア帝国の第一皇女ではありますが、私のお母様は側室でした。皇后であるサラティア様は、お身体が弱かったため、貴族たちの反感がおこり、私の母が側妃となり、私が生まれました。ですがその数年後、皇后様は元気になり、今では2人の皇子と、1人の皇女に恵まれています。


私の母は私が3歳のころに亡くなり、皇帝陛下はサラティア様を大切になさっていたので、私は療養という形で皇都から離れることになりました。つまり追い出したって感じですね。私としてはありがたいので良いのですが、じゃあこの人たちが好きかと聞かれたらそれは別です。嫌いです。



皇宮から離れて以来、皇帝の使いの人が来ることはあっても、年一の謁見以外に直接会うことはなかったはずです。


……そして私は今17歳。もう良いお年頃です。呼ばれた理由なんて決まっています。あー聞きたくねー。



「今日呼んだのは、お前に縁談があったからだ」

「……そうでしたか」



ほ〜ら、やっぱり! そんなことだと思った! 今まで何にもしなかったくせに! ……いや、何にもしなかったわけじゃないな、うん。でも私に関するひどい噂とか……皇帝じゃないかもしれないけど……それにしても、縁談だなんて。いつかはと思ってはいたけど……



だって、

私は……



「……相手はリオン・ライアーネ。ライアーネ侯爵だ。最近の魔物の討伐の功績を称えて、お前との縁談を決めたのだ。何か言いたいことはあるか?」



私は目を見張り、口をポカーンと、開け……そうになった。ぎりぎりで堪えて、返事をする。



「!?……いえ、ございません。光栄です」

「そうか、なら良い。もう下がって良いぞ。また使いを送ろう」

「はい、失礼いたします」



……え? うん、え?

申し訳ないけど、言いたいことしかないんだけど? え、侯爵様? 侯爵様ってあの、騎士様だよね? そんなことある? ほんとに? ほんとに!? こんな幸せで良いの? 侯爵様は良いの私で? いや、多分侯爵様が決めたんじゃなくて、陛下の命令だろうけど! 私の活用法と、侯爵様への褒美に都合がよかっただけだよね!? 騎士様にこれ以上権力持って欲しくない的な? なんも役に立たないらしいけど私、一応皇女様だもんね!? 本当は魔法使えるけど! 侯爵様、すごすぎて他の貴族たちに疎まれてるんだよねぇ……いやいや、何言ってんの? 騎士様こそ権力を持つべきで……



ぐるぐる考えが回っていく。私は早足で皇宮を歩いていた。早く帰ろう。というかまじで嬉しい騎士様が相手だとか。騎士様がちょっと可哀想だけど。



「あら、フィアーネお姉様じゃない」



……だから嫌だったのに。ここは私にとって嫌な場所でしかない。ここの人たちから、悪意しか感じない。気のせい? 気のせいじゃないな、逃げていい?



「ライアーネ侯爵との婚約が決まったんですってぇ? よかったじゃない、お姉様のような人にはもったいない方ね」



この子は義妹の、アネモネ様。私より二つ年下で可愛らしく皆に愛されていて、()()()と呼ばれているらしい。甘ったるい言い方。くどい。



「ライアーネ様ってぇ。女嫌いでとっても怖い方なんですってぇ。くれぐれも失礼のないようにね?」

「アネモネ姉様、そんな風に言ったらかわいそうじゃん? 特に秀でたところのないお姉様にはきついって」

「そうだよ? アネモネ。少しでも長生きできるようにお祈りでもしてあげたらどうだ?」

「あははっ!お兄様こそ〜」



話しかけられたと思ったら、嵐のように過ぎていったんだけど? なんなの? ……なんで、そんなに嫌われてるの? 側室の娘だから? 敵意丸出しすぎじゃない? そんなんで大丈夫?



……ゴホン。つい苛立ちが。


……そんなことより!! ライアーネ様は、私のことをどう思っているんだろう?



魔法も勉強もまるでダメ、とか散財がひどい、とかやばい噂しか流れてないからなぁ。まずいぞ。会ったことないけど、良いイメージはないよねぇ。……緊張してきた。大丈夫かなぁ不安だな……けど! 婚約相手が騎士様って最高じゃない? 変なやつなら逃げようと思ってたけど! 騎士様だなんて!! めっちゃ嬉しい! ……けど、騎士様は私がフィーネって知ったらもっと嫌だよね……いつも付きまとってきて断ってるのになぜか結婚! なんてことになってるんだから……バレないようにしたほうがいいかな……とにかく、つつましく、つつましくいくのよ!




……けど、もしかしたら、気づいて……いや、()()()()()くれるかも、しれない。



もしかしたら。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




そこからは怒涛の毎日でした。

皇宮から使いが送られてきて徹底的に作法などの総復習させられました。今までほとんど、ほっといたくせに何なの? とも思いましたがしょうがないです。騎士様にみっともないところを見せるわけにはいきません。



私には、専属侍女のハンナがいました。

お金で買収済みです。私の味方。この子だけは私の話を聞いてくれます。ハンナがいてくれたので、もともとは、作法や勉強なども全部ハンナに見てもらっていたので、今はだいぶ楽です。ハンナは伯爵家の次女さんなのですが借金があり没落しかけていたので私のところに来てくれました。私も一応皇女なので貴族の侍女さんが必要らしいです。ハンナはだいぶ借金を返せたようですが、まだ私と一緒にいてくれます。



「……大丈夫ですか、フィアーネ様。お顔が死んでいますよ?」

「大丈夫じゃないよ……」

「口調が戻っています」

「……大丈夫じゃない、ですわ……」



ハンナを買収したため、勉強以外の時間は魔物討伐に当てていました。なんかあった時はあの時のように警報音を私に聞かせる魔法具を渡してあります。私の手作りです。そのためずっと街にいりびたることができ、口調がやばいです。楽とか言ってたけど嘘でした。作法もちょっと危ういです。怖いです。



「やっとあのうわさの“騎士様”に会えるのですから、もっと喜ぶものと思っていましたが……」



そうです。喜びはあります、もちろん。

準備やら何やらが忙しすぎて魔物討伐には2週間ほど行けませんでした。ハンナだけならお金を渡せばすむ話ですが、今回は違ったので。流石に皇帝陛下の使いを買収は無理そうです。



騎士様が魔物討伐に行かれる時はほぼ必ずと言っていいほど、ついて行きました。最近では2週間も会えないのはほんとに、稀です。久しぶりに会えるのだからめっちゃ楽しみなのですが、不安でもあります。騎士様は()()()()()のことをどう思っているのでしょうか。いえ、ずっと考えていました、良いはずないです。騎士様を思うなら、私がフィーネであることを明かすべき? いや、隠したほうが……なんて、ずっとずっと同じことを考えてしまいます。


「もうすぐ着きますよ、フィアーネ様。……ほら、深呼吸して胸を張ってください!」

「……わかった、分かったわよ……!」



私が逃げないようにするためなのか、式など挙げずにさっさと騎士様のお屋敷で住むことになりました。おそらく皇帝の命令でしょう。騎士様に得はないですから。いえ、式をあげることも得はないかもですが。


……ふぅ、しっかりしないと。

フィアーネとして初めて騎士様に会うんだもの。失態をおかさないように……





馬車で揺られながら、そうぼんやりと考えていました。私がフィーネとして、駆け巡った街が見えてきます。いつもは魔法で転移していたので、こうして馬車から見るのは新鮮です。


ちなみに、私が皇女だということを隠して、フィーネとして活躍していた理由は単純です。私が魔法を発現したのは5歳。私は生まれた頃から前世の記憶がありました。最初はどんな小説、漫画の中の世界かとワクワクしていましたが、全然思いつきません。多分そういうのではないのでしょう。


それじゃあ前世の記憶が役に立たないって? そんなことはありません。5歳の私は考えました。この魔法を誰のために使うべきか。もちろん、“優しくて”困っている人たちのために、です。私が助けたいと思う人たち。間違っても私を冷遇している皇帝たちのためじゃないです。


そう決心した私は魔法の適性検査を見事潜り抜け、皇帝たちには大したことない皇女になり、魔法使いフィーネとして各地を巡ったのでした。……ただ、ちょっと名前を凝ったほうが良かったと後悔してます。フィアーネとフィーネ、似過ぎです。まあ、全然違う名前にしたらそれはそれで面倒なのですが……(たとえば、ナナという名前にしたとして、“ナナ”のはずなのにフィアーネに近い名前を聞いた時に返事をしてしまったり。逆にフィアーネと言われても反応できなかったり、ね)



……あぁ、着いちゃうな。


バレちゃうかな、フィーネだって。()()()()()くれるかな、騎士様。……どうしよう、どんな顔すれば良いんだろう。



色々と考えていたら着きました。

何度か見たことがありますが、侯爵邸はシンプルでありながら落ち着いた良い雰囲気の素敵なお屋敷です。こげ茶色と白を基調とした、窓の水色とのバランスがとても良くて、周りのお庭の植物も生き生きとしています。さすがです。この感じめっちゃ好き。


「ようこそいらっしゃいました、フィアーネ様。侯爵様がお待ちです」


「……フィアーネ様?」

「えぇ、分かったわ」


一瞬、きゃあぁやっと騎士様に会えるぅ!! とか言いそうでした。危ねーです。ハンナが声をかけてくれて良かったです。


それにしても、いつ来ても綺麗なお屋敷です。時々フィーネとしてお邪魔したことはありましたから、侍女さんの中に知り合いもいます。全員? 出迎えてくれたのですが、ちょっと皆さんの表情がかたいです。もしかしなくても良く思われてないですね。普段楽しくお話ししたりしてたから、すごく悲しい……




「こちらです」




ようやく、ようやくです。

2週間ぶりの騎士様に、会えます!

辛かった、こんなに会えなくて。なんか不安とか消えてます。ちょっともう会えるならもう何でもいいです。早く騎士様に会いたい。騎士様が足りない!!?



騎士様のところへ、いざ!







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