12 魔物の凶暴化
侯爵邸内がざわざわと騒がしい。
なんとなく、嫌な予感がする。
走り回っているアデルに悪いと思いながらも聞いてみる。
「アデルっ! 何があったのですか!?」
騎士様はもういないようです。まだ病み上がりなのに……!
「魔物の凶暴化です! 今は、部屋に戻ってください!!」
凶暴化。
まさかとは思っていたけれど。
私は探知魔法を使う。……アダル山。私が初めて凶暴化した魔物と戦ったあの場所。最近は落ち着いていたのに。
行かないと。
「フィアーネ様!!」
ハンナが思い詰めた様子で走ってくる。
「……行かれるのですね」
「うん」
ハンナには全てお見通しだ。さすがハンナ。私は結界を封じ込めたペンダントをハンナに託します。万が一のことがあれば、これがハンナを、街を守ってくれる。
「……お気をつけて。必ず、戻ってきてください」
「……えぇ!!」
覚悟を決める。
魔物の凶暴化が起こる度に騎士様のところへ行ってしまえば元も子もないのですが。それでも私は行くことにしました。嫌な予感がなくならない。
行けば後悔するかもしれない。それでも、行かなければそれもきっと後悔してしまう。胸騒ぎがする。はやく動いてできることをすること。きっとそれが最善。……これで最後にするから。そしたら、出て行くから。だから、今回だけ。最後だから。
……だから、
騎士様は私が守る!!
魔法使い、フィーネ。
騎士様と会うのは、きっとこれが最後です。
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だんだんと暗くなる空。太陽はあと少しで沈んでしまう。今日は月も見えない。
……早く倒さないと
魔法で転移すれば、周りに広がる光景に息をのむ。
「うわぁああ!」
「う、腕が……! あぁ…!!」
「く、来るな来るなぁ!」
想像以上にひどい。
騎士団が2つに分裂している。魔物と木々が邪魔であちらの様子がわからない。冒険者も出動しているが、今見える人数は少ないようだ。特に怪我がひどい。はやく回復魔法を……!
もっと早く気づいて駆けつけていれたら、こんなことにはならなかっただろうに。いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「みんな良く聞いて!」
「フィーネ!?」
回復魔法、防御魔法、そして攻撃魔法。みんなが動きやすいように、アシストする。だんだん息が合わさった。それと同時に向こうの状況も確認する。
「侯爵様たちは太陽の方向! こちらの魔物はまだ数が少ない、魔物を倒しつつ太陽へ向かって進め!」
「そうだお前ら! フィーネちゃんに情けねぇとこ見せんな! 立て直すぞ!」
「「おぉー!!」」
体制が整っていく。
魔物の数は減り、もうすぐあちらとも合流できる。
力がみなぎる、あの感覚が戻っていく。誰も死なせない!
「いたぞ、挟み撃ちだー!」
「「おぉー!」」
魔物がどんどんと減っていく。あの頃のように、みんなの攻撃と魔法とが合わさっている。負ける気なんてしない。
この調子ならいける。
このみんなと一緒なら大丈夫だ。
……けど、油断しちゃだめだ。こういう時が一番危険なんだから。私は、何度も探知魔法を使えばよかったと後悔したことを思い出し、探知魔法を広げる。
次の瞬間、私はあの頃のように、いや、今度は、騎士様の後ろになぜか立っていた。
考える前に動いていた。確かに、なんで動けたのだと聞かれても分からないなぁ。今になってやっと騎士様の言ったことが、分かったような気がする。
パリィンと、魔法が破られるにしては綺麗な音がなった。
「がはっ……」
傷がかなり深い。
血が止まらない。防げなかった。破られた。今までこんなことなかったのに。怪我人が多そうだ。回復魔法を打ちつつ攻撃する。
「フィーネ!!? ……くっ」
見たことのないような魔物。
ここ最近で一、二位を争うほどでかいだろう。攻撃が重い。また破られてしまいそうだ。
「フィーネちゃん!!」
「大丈夫。侯爵様に続いて……!」
「うわぁぁああ!!」
またあの魔法の波動。
私の魔法が破られる。辺りが赤く染まる。
温かい人たち。守るべき人、いや、守りたい人たち。みんなの笑顔が浮かんでは、真っ赤に染まった。
「させない……!」
瞬間辺りは光に包まれた。
何が起こったのかなんて考えられない。
また血が吐き出る音がする。体が限界だ。魔力が搾り取られる。
痛い
苦しい
辛い
それでも魔法を放つ。
放ち続ける。
騎士様の記憶に残って死ねるなら、それもまたいいのかもしれない。なんて、そんなことを心のどこかで考えていた。
それでも、諦めきれなかった。
まだ、生きていたいと、そう思った。
あなたの笑顔が浮かんだ。
どれくらい時間が経っただろうか。
一分のようにも一時間のようにも感じた。
……いや、一分は流石に短いか。
手も足も痺れて動けない。
「フィーネ!!」
騎士様の声がする。
魔物は……
「もういい、もう魔法を使うな……!」
終わったらしい。前が良く見えない。まぶたが重い。辺りが光っているのは、私の魔法……?
「分かってる。もう大丈夫だから。……姿を戻すんだ。……ごめん、ごめんな。すぐに、気づいて……いや、思い出してやれなくて……」
あれ? 姿? ……あぁ、バレちゃってたのか。
上手くできていると、思ったんだけどなぁ。
騎士様が謝ることないのに。
謝るべきは私なのに。
「ごめ、なさ……き、しさま」
私は眠りについてしまった。