1 魔法使いフィーネ
大変唐突ですが、私は恋をしています。
この騎士様に。
「こんにちは騎士様! 今日もかっこいいですね。好きです、結婚してくださーー」「しない」
振られちゃいました。悲しいです。しくしく。
でも私はこんなことでは諦めません。いつものことですから。
「今日はどちらへ行かれるんですか?」
「ディヤ渓谷の魔物を倒しに……」
「偶然ですね、騎士様! 私もです! 運命かもしれませんね!」
「……」
「ご一緒しても良いですか?」
「……あぁ」
運命かもと言ったところは見事にスルーされました。……運命、とは言ったものの、騎士様率いるライアーネ騎士団が行きそうなのは、上級依頼である、ディヤ渓谷かスペラ洞窟だろうと考えただけだ。危険なところから騎士団は倒しに行くからね。
……ということで、運命じゃないです。二分の一を私が当てただけです。バレているのでしょうか。
「……どうかしたか?」
「いえ! 何でもありません!」
首をこてんとかしげる騎士様、いと尊し。心配してくれていたのでしょうか。嬉しすぎて死にそう。結婚してほしい。さっき振られたけど。
……まずはこの魔物たちを倒して良いところを見せる作戦です! 落ち込んでいる場合じゃないです、頑張ります。騎士様を惚れさせてみせましょう!
ディヤ渓谷へは馬で行きます。魔法で近くに転移することもできますが、魔力を温存するためです。向かっている間に騎士様の素晴らしさについてご紹介しましょう。
騎士様のお名前はリオン・ライアーネ。我がルネティア帝国が誇る侯爵様です。若くして侯爵になった騎士様ですが、領地をしっかりと治めつつも、民を襲う魔物を倒し、みなの安全と平和を守っている、それはそれは素晴らしい方なのです。普段は無表情に見えますがとてもお優しい方で領地民たちからの信頼も厚いです。剣を振るう姿は狼のようにクールで少々恐いのですが、それがまた満月の輝く夜のごとく美しくて…
「ここからは徒歩で行こう、分かっているとは思うが、気は抜かないように」
「「はい!」」
……今、私の方を見た気がしますが気のせいですよね? えぇ、気のせいですきっと。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そっちに行ったぞ!」
「下がって!!」
「あの魔物に触れると危ないぞ!」
騎士様たちが倒しにくるくらいですから、大変手強いです。渓谷を利用し、最初に上から駆け降りてたくさん倒したとはいえ、どんどん魔物が出てきます。今は谷の下の方なので、上から降ってくる敵が本当に手強いです。邪魔です倒しづらいです。
私の仕事は主に、後方から防御魔法、回復魔法を使いつつ、時々遠距離の攻撃魔法を使うことです。近距離魔法を使うこともできますが、やはり剣士さんたちのサポートをする方が向いてます。
「ははっ、楽勝だぜ〜」
「おい、ロバート、調子にのるなって!」
むむっ。私の危機感知センサーが反応しました! ……あらあら、まだ新人なのでしょうか。なめてますね。かなり危ないのに……
まぁ、私がしっかり守るつもりです。あの子には要注意ですね……
そう、先ほどまでは、そう思っていたのですが。大丈夫そうです。もう魔物をほとんど倒しました。さすがは騎士様が率いるライアーネ騎士団ですね。あのロバートとかいう騎士も、チャラチャラしているだけで強いのでしょう。私もだいぶ魔法を使ったので疲れました。念のため魔物が隠れていないか探知魔法を……
「うわぁぁ! 助けてくれ!!」
「っロバート!」
先程の二人が騒いでいます。私は素早く転移魔法で彼の前に立ち、すかさず防御魔法です。猪のような魔物は思いっきりぶつかって来て跳ね上がっています。探知魔法は使おうと思わないと使えません。当たり前ですが。ずっと探知魔法を継続できたらどんなに良いことか……
ブォンッと剣を振るう音が聞こえます。騎士様です。うまく倒してくれました。よかった。
……もう魔物はいませんね。
「ロバートさん、怪我を見せてください」
「……」
「ロバートさん?」
「……あ、はいっ!」
ぼーっとしている様子を見ると、出血が多過ぎたのかもしれません。足を怪我しているので歩けないでしょうし、今の私ならまだ魔法を使っても大丈夫。包帯だけでなく今すぐ回復魔法を……
「フィーネ、そっちは他のやつに任せるから、こっちに来てくれ」
「はいっ! 騎士様!」
私はすぐさま立ち上がり、騎士様の元へ駆け寄る。
騎士様に呼ばれたなら騎士様なのです。ロバートとやらは他の人たちにお任せします。
「……ロバートは帰ってから話がある」
「……はい」
……あんな感じで気の抜けていたので、怒られてしまうのでしょう。かわいそうに。いえ、自業自得ですね。騎士様の怒るところはかなり恐いです。いや、ほんっとうに恐いです。それでも好き。騎士様と話せることを誇りに思うのです、ロバートさん。
「おいっ! ロバート、バカかお前は」
「ちょっと油断してただけだって〜」
「……そこもだが、そこじゃない」
? じゃあどこだと言うのでしょうか。
「フィーネ、さっきはありがとう。おかげで……」
き、騎士様にお礼を言わました!
嬉しすぎて死にそ……
―ヴィーン、ヴィーン―
私の中で警報音がなります。戻らねばならないようです。せっかく騎士様とお話ししていたというのに……しかも、嫌な予感がします。なぜでしょうね。
「……申し訳ありません、騎士様。私はもう行かないといけないんです」
「またいつもの、か? ……わかった。ギルドには伝えておこう」
「……はい、ありがとうございます騎士様。……きっとまた、会いましょうね」
「……フィーネ」
そう名前を呼ばれて止められる。どうしたんだろう? 珍しい。振り返れば不安そうな騎士様の姿が目に入る。心配、してくれてるのかな。
「……いや、何でもないんだ」
「そうですか? それでは」
騎士様の様子が気になりますが、しょうがありません。時々あるのです。戻らなければならない時が。騎士様の前でも何度かあったので把握していてくれてます。お優しい。好き。
その後すぐに、私は転移魔法を使って家の自室に戻る。そして変身魔法をとく。
私は魔法使い、フィーネ。騎士様のことが大好きなどこにでもいる普通の女の子……で、良かったのに。普通の女の子が、よかったのに。
コンコンコン
「皇女さま、入ってもよろしいですか」
「……えぇ」
「皇帝陛下がお呼びです。準備をいたしましょう」
「はぁ……分かったわ」
"フィーネ"は魔法で外見を変えて作っているもう一つの私にすぎないのです。
ルネティア帝国が第一皇女、フィアーネ。
帝都から離れた場所で療養中…………もとい、冷遇された皇女。それが本当の私なのです。
「行きたくないなぁ」
その声は虚しく消えていきました。
ここでは誰も私の声を聞こうとしない、聞いていないのです。あぁ、今すぐ騎士様のところへ戻りたい……
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