帰り未知
帰り道。それは誰もが迷わない道。
何度も通る道であるのだから当然の事と大半は思う。
しかし迷った。いや、正確にはちょっと違う。
いつもの町並み。
いつもの見覚えあるが歩行者。
いつもの景色。
ここがいつもの? 道のはずだ。
はずなのだが、違う気がするのだ。
第六感がそう訴えてくる。
寄り道をした訳では無い。
寄り道をしていないからいつもの道にたどり着いているのだから。
そもそも、寄り道をするほど幼くない。
社会の荒波に揉まれている30半ばだ。
寄り道をする気力なんてわかない。
終わればすぐ帰りたい。
やはり、疲れているのだろうか?
疲れているからいつもの道も違って見えるのだろう。
そうだ、そうに決まっている。
強引に思考を結論付けて、歩きだす。
違和感はあるが、異常は無いので、歩き続けた。
自宅に着いた。着いたはずだ。着いたよな?
そう疑心暗鬼になるのは、その家が、はっきりとおぞましいと思ったからだ。
違和感の正体だと、実感した。
本来もっとも安らぐ場所。
その歪さが恐怖の拍車をかけた。
足は岩が積まれたみたいに、動きたがらない。
その中にナニカがいる。そういった恐怖だった。
引き返して、近くのビジネスホテルに泊まるか?
いや、それじゃ根本的な解決にならない。
というか、自宅が怖いから離れるって、とんだ間抜けでは無いか。
そんな自尊心がよぎり、事を急ぐのに思い止まった。
しかし、自宅には入りたくない。
もはや自宅ではないと認識してしまう程だ。
自宅が見えない所まで場所を移動した。
一旦、おかしな事が無かったか考えてみよう。
おかしい事が既に起きているという冷笑はさておき、予兆
を考えてみる。
帰宅始めには、違和感はなかった。
途中から自宅に近づくにつれ違和感は強まった。
では、違和感が始まった所はどこだろうか?
先ほども述べた通り、寄り道などしていない。
寄り道後に違和感があれば、苦労しない。
いや違和感があれば、苦労する。苦労はしたくない。
さて、本当に困ったぞ。心当たりがない。
明日は週末なんだ。平穏に休みたい。
途方にくれて、ふと辺りを見回すと、ぽつんとコンビニが建ってるのが見えた。
コンビニ………あっ。
思い出した。帰りはいつもコンビニで栄養ドリンクを買っていた。
いつもしていた事なのに、何故忘れていたのだろうか?
いつものコンビニで、栄養ドリンクを購入した。
気づいた時のコンビニでもよかったが、違和感が消えなかったら、二度手間だ。
栄養ドリンクを飲み干し、すぐに異変を感じとれた。
違和感がなくなった!
すぐさま、自宅へと、戻る。
ああ、我が家だ。安堵から家へ入ろうとしたが、ドアの前で立ち止まる。
………一応インターホンを鳴らそう。
自身の家なのに、インターホンを鳴らすなんて、滑稽だが、背に腹は変えられない。安心のため。
………。ふぅ、やはり何も無いよな。まぁ、あったらまずいけど。
ドアを引こうとする…前に、ドアが押し出された。
ナニカいる!?
反射的に、年甲斐もなく、飛んで後ずさった。
「タカシ」
え、なんで俺の名前知ってるの怖い怖い怖い
…………………え? 母さん?
「全く誰に見えたんだい。それに、自分の家にインターホン鳴らすなんて、どうしたんだい」
「いや、ナニカいるなって思って…」
「馬鹿なこと言ってないで、入ったらどうだい」
「あ、はい」
言われた通りに、自宅へと入った。ああ、それとあれ言わないと。
「母さん来るなら来るで、言ってくれよ」
「別にいいじゃないか。丁度近く寄ったついでで、来ただけだから」
「え、もう帰るの?」
「帰る。台所に色々作ったから食べなさい」
「あ、ありがとう。」
お礼を言ったと同時に、母さんは帰って行った。
台所には、日持ちしそうな惣菜がいくつもおいてあった。
次来たら、店でご馳走しないとな。
食べる分の惣菜をよそって、後は冷蔵庫に入れた。
風呂に入って、貰った惣菜で夕食にして、その後はすぐに就寝した。
翌日。
インターホンの呼び鈴で目を覚ます。
気だるげな目蓋を開き、視界には、9時30分の時刻が表示されている。
宅配を頼んだ覚えは無いぞ。
部屋着から着替えて、玄関のドアを開く。
いたのは、警察官だった。
「おはようございます」
「え、おはようございます。え、えっと、どういったご用で?」
いきなりのしかも、想定外の訪問者にたじろいでしまう。
「実は、お宅のお隣で昨夕、殺人事件が起きました」
「え…本当に」
「はい。それで事件の調査の中で、あなたの足跡らしきものがあることが判明しました」
「え、それはな…」
それは無いと言おうとして、止まる。
もしかして、昨日の帰り道で間違えて隣の家に入ろうとしていたのか?
「すみません。間違えて入ろうとしていたかもしれません」
深刻そうな顔していたのが、伝わったのか意外な返答が来る。
「あ、いえ、足跡の痕跡から敷地内の境界線で止まっていました。こちらとしても事件との関係性は低く考えています。一応の事情聴衆が終われば、開放されます」
「ああ、そうでしたか」
警察官に言われた通り、30分程の事情聴衆で帰ることが出来た。
犯人も警察方の張り込みのおかげもあって、数日で捕まった。
もしも、あの時違和感を無視して、自宅に入ろうとしたら、死人はもう一人増えていたことだろう。
俺を死に導いた者とそれを守ってくれた者がいたのかもしれない。