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虹の聖樹 外伝 夫君達の恋  作者: 天の樹
第一部 第一夫君の恋
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第一夫君レオンハルトの恋 5



 ハルカという『渡り人』の発する気が狂いそうな甘いフェロモンに苦行を強いられ修行僧のような夜を過ごす。そんな『彼女』は自分とルイスに挟まれた状態で、子供のように何の疑問を持たずに無邪気に眠っていた。やがて目が覚めたのか『彼女』がモゾモゾと体が動き出す。

 『彼女』は何かに気づいたかのように硬直する。

 それはおそらく知り合って間もない男二人に抱き込まれるように寝ていたという状況に気がつき、事態を把握しかねているように混乱しているせいのように見えた。


 彼女が身体を起こそうとすると私が肩を後ろのルイスが腰をそれぞれぐっと引き寄せる。

 彼女を離したくない。彼女を挟んでルイスと目と目で牽制し合う。

 私が離れる様子が全くないと感じたのかルイスが仕方がないといった風な顔をする。

 そのくせ私に見せつけるかのように彼女の背後から彼女の耳元で


「すごく甘い香りがする」


 と低めの声で囁いたのが聞こえた。

 ルイスのその声に彼女が顔を赤く染め、身震いをした。

 それを見たのか、ルイスがその反応を楽しむかのように彼女の耳元で「可愛いな」とクスッと笑う。


「食事の用意をするから、まだ休んでてね」


 ルイスはそう言うと、後ろからぎゅっと彼女を抱きしめると身体が離れていく。

 それを見て、心の中で舌打ちする。何だ、あれは。あいつ何であんなにとろけそうなくらい甘いんだ。

 いつもとはまるで違う、初めてみるルイスの豹変ぶりに呆れてしまっていた。

 ルイスが離れた後、彼女が身じろぎ私から身体を離そうとする。

 いやだ、離したくない。思わず彼女をぎゅっと抱き締める。

 彼女が身を固くして、自分を見上げるのがわかる。

 自分を見上げる彼女の瞳と視線が絡む。


「そんなに見つめられたら穴があくな」


 彼女の耳元すぐ近くで囁く。


「もう少し、眠った方がいい」


 そう言うと彼女の腰にまわしていた手で頭を撫でる。

 もう少しこのままで、自分の腕の中でいて欲しい。

 彼女がひどく動揺したのか、再び甘い彼女の香りが強く香り出す。

 このままでは駄目だ。彼女の感情を安定させないと『マナ欠乏症』が悪化してしまうかもしれない。

 仕方がない、落ち着くまで彼女を眠らせよう。そう判断して『鎮静と安眠』の魔法を展開する。

 小さな子供をあやすようにポンポンと背中をゆっくり軽く叩く。するとすぐにす〜す〜っと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。


 双子の弟である大魔法士であるルイスは『マナの可視化』ができる。

 これは自分だけではなく第三者にも『マナ』の状況を見せることができる能力だ。

 それは非常に稀な能力で、数百年に一人だけ持って産まれる事があるとされていたものだ。

 そしてそれは『渡り人』様の為に産まれてくる『大魔法士』だと昔から言われていた。

 『渡り人』と『大魔法士』は対になるもの。それは同性異性問われることはない。

 遠い昔は『大聖女・サクラ様』と初代国王『大魔法士ルーファス』。

 行方不明になった二人の『大聖女』と彼女達の第一夫君達。

 近々では『大聖人・光様』と『国王バルト』がその関係だった。

 『国王バルト』は『大魔法士ルーファス』と同様に統治者であり尚且つ『大魔法士』だった。


 双子の弟であるルイスにその能力を見出した前王である父、フランツは私達の世代に『渡り人』がくることを確信した。その為、息子達に渡り人の『夫君教育』を、特に魔力やマナを多く持つ『夫君候補』を四名選び第二段階の『夫君教育』を施した。


 前王弟で末弟であった現南大公国の領主である『アレクサンダー・ユータリア』と自分と王妃から生まれた自分の息子である双子の息子である、私とルイス。第二妃から生まれたクリストフの四名だ。


 途中クリストフが貴族令嬢と結婚し『夫君教育』から離脱をしたが、その妻君が年若く亡くなった後、父は彼に再び第二段階の『夫君教育』を再開した。


 『夫君教育』を終え、準備は万全に整ったとはいえ、肝心の『渡り人』がいつくるのかは全く見当がつかない状態のまま時間は過ぎていった。いつしか『渡り人』のことは再び伝承の一部のように捉えるようになっていった。


 

 そう…… 彼女が…… 『ハルカ』が私の馬上の上に落ちてくるまでは。


 自分はルイスとは違い、他者のマナを見ることは全くないはずだ。

 なのに、不思議なことに彼女の『マナ』を強く感じる事ができた。それは虹色の炎が揺らぐように見えるのだ。おそらく彼女の感情の揺らぎだろうか?


 馬上で何度も『浄化』を彼女が発動するたびに彼女の体からその炎が大量に放出された。

 あまりにも美しい、そして儚く尊い彼女の命の炎の揺らぎ……

 それ見て、それを肌で感じた時、おそらく自分はその瞬間から彼女の虜になってしまったのだろう。


 その炎に魅せられながら、同時に強く香る彼女の放つフェロモンの甘い香りと共に放出される彼女の『マナ』。それが彼女の命そのものだと知っているからこそ、彼女を失いたくはないという怖れが自分の中に生じてしまった。そのことを眠る彼女を間に挟んだ状態でルイスに話すと、ルイスは一瞬驚いたが、すぐに納得するように


「レオン、私達は同じ一つのマナから生まれた双子じゃないか。その力があるのは不思議なことではないと思うよ。だから、言っただろう? 彼女は私達のものだって」


 ルイスは言葉は続けた。


「それを見る事ができるからこそ、彼女を守る事ができるんだよ」


 『マナ欠乏症』を発症した彼女にとって不用意な感情の揺れは『マナ』を放出することにつながる。それは症状の進行を早め彼女の死に直結する。彼女の感情の大きな揺れは、彼女を失ってしまうことになりかねないのだ。だから、彼女の感情が大きく揺らぎマナを放出するその前に私とルイスのどちらかが彼女を眠らせることにした。


「私達しか彼女を守れないんだよ、兄上」


 ルイスはそう言い放つと彼女を背中から抱きしめた。そんな弟に負けない気持ちで彼女を前から抱き締める。

 甘い香りに酔いしれながら、この女性を誰にも渡したくないと想いながら。


 彼女の『マナ』がその感情に呼応するかの如くゆらめく虹色の炎は私の心を大きく揺さぶる。

 それを見る事ができる弟のルイスもまた私に生じた変化に驚いていた。


「彼女は私達に出会うために渡ってきてくれたんだよ、レオン」

 

 ルイスの確信めいた言葉を思い出しながら、その言葉に不思議と納得してしまいながら、腕の中で眠るこの命の温もりを守りたいと切に願う自分に自分自身驚愕していた。



 ああ、彼女が目を覚ます前に身なりを整えておこう。

 そんなことを自然と考えてしまう自分に妙なおかしさを感じてしまう。


 彼女は私の作ったあれを選んでくれるだろうか…… 彼女の寝顔を見ながらふと思いながら、それを願う。




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