表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の聖樹 外伝 夫君達の恋  作者: 天の樹
第一部 第一夫君の恋
3/19

第一夫君レオンハルトの恋 3

「マナって何ですか?」


 彼女の問いに対して大魔法士であるルイスが説明をする。


「マナとは生物が本来持っている生命力、それと魔力を総称するものです」


 この世界の人々は魔力の大小はあれ皆『マナ』を持っていること。そして呼吸をするかの如く全員魔法が使え、自らマナを生成し、思うままにマナや魔力を物質化できるとのこと。空中から物がいろいろ出てくるのもそれによるものだと。

 幼子に噛み砕いたような説明だ。理解できるだろうか? ルイスは言葉を続ける。

 そして『渡り人』にもそれがある。ただし、魔力がないので魔法は全く使えない。そして自らマナを作り出せないこと…… 生命力であるマナを使ってのみ『浄化』ができること。その結果自らのマナを消費し続けるだけなので『渡り人』の寿命は短いこと。


 そこで彼女の顔がくしゃりと歪んだ。

 ルイスもそのことに気付いたようだが言葉を止めない。

 

 『渡り人』のマナの不足を改善する策として魔力の強い王族と婚姻をして『マナを供給する』という方法がとられるようになったと記録されていることを彼女に説明する。


 宰相がルイスの言葉に続くように


「その代わりに王族との間に子供を設けていただいています」


 とダイレクトに伝える。その瞬間、彼女は徐に顔をあげ、真剣な面持ちで


「それ、私は無理、不可能です。既に閉経しているので子孫残せません」


 え? 彼女の発した言葉の意味を理解するのに少し時間がかかる。

 閉経? 高齢の女性が子供を産めなくなるというあのことか。目の前の若々しく美しい女性が発した言葉とは到底信じられない。彼女にどう声がけすればいいのか躊躇っていると


「なので、それを前提に『保護』してください。そうすれば全力で『浄化』に協力します」


 と、ぺこりと私達三人に頭を下げる。潔いくらいまっすぐな眼差しだ。

 沈黙の後、宰相がふっと軽く息を吐く。


「わかりました。その件は一度陛下に持ち帰って相談いたします」


 そう言うと軽く彼女に一礼をする。『渡り人』に関することは全ては王族がそしてそのトップである国王が決裁する。


「ではもう一度確認します」


 宰相のテノールのいい声が続く。


「『大聖女』様のお名前はタカセハルカ様。ご年齢は五十五歳。お生まれは日本。

成程…… 先の光様もですがこちらに渡られる多くの『渡り人』同じ国から来られています。

そして不思議な事に同じ日付けでこちらに来られているようですね。

その日にそちらの世界で何があったのでしょうか」


 『渡り人』の一報からおそらく王宮も記録庫もてんやわんやで準備に取り掛かったのだろう。過去の記録を精査したのか、宰相の鋭い問いに彼女は再び困惑する。そして宰相の疑問に再確認をする。


「三千年も前に来た人も百五十年前に来た人も…… 皆全て同じ日にここに来たということですか?」

「はい、記録上は」

「日本以外の国から来た人も?」

「はい。数例ほど」

「二〇二X年三月X日に、全ての『渡り人』がここに時代を超えて移動したということですか?」

「記録上ではそうなります」


 押し問答が続いている。


「ハルカ様はどのようにこちらに来られたのか、どうかその時の様子をお聞かせ下さい」


 彼女はこの世界に来る直前の様子を説明した。それをまとめ宰相が仕切り直すように確認を取る。


「つまり…… 黒い影が地面にあって、他の人が平気でその上を行き来していたのでそのまま通り過ぎようとした時、白い閃光と同時に誰かに押されてバランスを崩し、地面が陥没してそのままご自身も落ちてしまった。気がつけばこちらの世界で、レオンハルト大将軍の馬上に落ちてしまっていたということですか」


 宰相は興味深そうに顎に手をやりながら頷く。


「しかし…… その閃光とは何でしょうか?」


 そう問われても、彼女も見当がつかない。といった風情だ。


「わかりません」


 宰相はじっと彼女を見たまま、少し躊躇いながら、彼女の反応を探るかのように様子を伺いながら話を続ける。


「…… 実はその閃光の記憶は『渡り人』様共通のものです。『大聖人・光様』も渡られた直後同じような発言をされています。そして『核戦争』というものが起きたのではないかと……」

「あっ」

 

 彼女が驚愕の声を漏らす。


 『核戦争』

 その言葉は『大聖人・光様」が残した言葉だった。


 『光様』は今回渡られた『ハルカ』様と同じ星の同じ国からこられた『渡り人』の一人だった。

 彼の名前は公的記録によると『佐山 光(サヤマ ヒカル)』とされている。当時の年齢は二十五歳。

 彼はここに渡ってきたとされる『渡り人』に関する記録や遺物、伝承等を収集し『渡り人』の人権保護のための『渡り人保護法』を作ることになった。


 『核戦争』という言葉は彼ら『渡り人』の残した公的記録を精査している時に『光様』が導き出した言葉とされている。


 『光様』達の星は、常に世界のどこかで人間同士が大小の争いを繰り返していたそうだ。

 それは小さなパンを巡っての物もあれば肥沃な土地を奪い合う物、正義の名の下に利権を争うもの。国と国が争い殺し合い奪い合ってきたそうだ。


 そんな中、『光様』の住んでいた時、『光様』達が住んでいた場所から遥か遠い国で土地を巡る国と国との争いが起こった。世界は二分していったそうだ。

 北の大国は『核兵器』という非常に恐ろしい兵器を世界中の半分を超える量を保有していたらしい。

 それを使うとたった一発で一瞬で広大な土地がそこに住む人間が灰燼に帰したと言われている。大地は汚れ、そこに生き残った人間も『黒い雨』に打たれると苦しみの中で命を失ってしまうという恐ろしい兵器。

 『光様』の国はかつて大きな戦争をした時、その爆弾を二つ、異なる二つの地域に落とされた。

 その結果、人々は長い間病に苦しみ、差別に苦しんだらしい。

 『光様』の住む星では大小様々な国が自国を守るため、抑止力になるとその兵器を大量に作り保持していった。その結果『光様』達の住む星全体を何度も何度も壊してもいい数の兵器を保有していったそうだ。


 使われず、抑止力になっている限りならばそれはそれで機能していたのだろう。しかし、その兵器の殆どの量を持つ北の大国が暴挙に出た。

 拮抗する国からの様々な圧力についに一発の核兵器が使われたそうだ。

 そのニュースが世界中を駆け抜けていく中、いつものように日常を過ごしていた彼らは何らかの事情でこの星へと飛ばされることになった。

 それは『核兵器』の使用によるものではないかというのが『光様』が導いた答えだった。

 おそらく『全面核戦争』というものが起こったのではないかと。

 世界中にある『核兵器』が使われ、『光様』達の住む日本にもそれが落とされたのだろうと。


 『渡り人』の記録に残された『渡り人』の住んでいた地域はバラバラだったそうで、それらのエリアにも全て落とされた可能性があるだろうと。

 つまり世界は『核兵器』を保有していない国も容赦なくそれが降り注いだのだろうと。

 『光様』の公的記録の中にそう残されている。


 今まさに目の前にいる『ハルカ』様もその言葉に激しく反応を示し、苦渋に満ちた絶望した表情をしていた。

 動揺し完全に混乱をして黙ってしまっている彼女に、宰相が静かに告げた。


 常に冷静であるはずの宰相も自らの言葉によって動揺を示し絶望した彼女の表情に動揺を隠しきれないでいる。


「今日はこの辺にしましょう。すみませんがこちらの方で今日はお休み下さい。私は一度王宮の方に戻り、陛下に経緯を報告をしてきます」


 そう言うと再び黒いフードを被り、廊下の方に出て行った。自分とルイスの二人も宰相の後に続いて部屋を出る。今後のことについて簡単な打ち合わせをする。


 王宮で『渡り人』様をお迎えする準備は整い次第王族との『謁見』の場を設ける手筈になるという。

 『渡り人』様の夫君候補の選定と告知。今回は『光様』式をとる初めての選定になる。

 その場で夫君に立候補の意志があるかを宰相に問われ、立候補する旨を伝える。どうやらルイスも同じらしい。宰相にもその意志があるのかを逆に訊く。宰相は一瞬考え、彼女のいる部屋の方をチラリと見た後『立候補する』と答えた。陛下にはその旨報告するとそう言うと宰相は踵を返し転移陣の向こうへと消えた。



---------


『王家』と『渡り人・光様』との関係をわかりやすくするために略歴ですが系図を作りました。


挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ