第一夫君レオンハルトの恋 17
甘く燻る『彼女』の特有のフェロモンの香りに包まれた初めての『営み』は九割の本能と公的記録として残るという理性がほんの僅かに残るものだった。
本当に初めてだったんだな。
彼女の無防備な寝顔を見つつ、昨夜のことを振り返る。
彼女の自己申告と医療データーをそのまま信じていれば、それはそうだっただろう。けれど、心のどこかでこんなに魅力的な女性が誰とも何もなかったと信じきれていなかったのも事実だった。
典医から手渡された『ラバースライム』によってそれが嘘ではないことを確認しつつ、『秘薬』によって『彼女』の『初めて』を自分で知ることになった。
初めて『彼女』と完全に一つになった時、お互いの身体から強烈な光が放たれた。
と同時におそらく彼女の内側に自分のマナが認証されたのだろう、ものすごい勢いで自分のマナが放出され、『彼女』がそれを吸収していくのが『マナの流れ』で確認できた。
自分自身、女性との『営み』は初めてだったこともあり、できるだけ『彼女』を傷つけないように、そして公的記録に残らないように掛布の中で行うようにしていたのだが、それによって『彼女』の放つフェロモンが濃縮されてしまったのだろう、いくらそれ対策の『秘儀』が『成婚の儀』によって発動したとはいえ、『本能』に打ち勝つには『彼女』は魅力的すぎた。
無理をさせてしまった。
眠る『彼女』に軽く口付けると、一度ベッドから出て、湯船に湯を張り、そこに『マナの源泉』を典医の指示通り十滴垂らす。
透明だった湯が乳虹色に変化するのを確認する。再び寝室へ戻り、意識のない『彼女』を横抱きにした後、『清浄』魔法で乱れた寝室を整える。
そしてそのまま、彼女を抱いたまま『マナの源泉』の入った湯船に浸かった。
『マナの源泉』というのは『大聖人・光様』のために時の国王が建てた別宮『月の光』の中に設けられた『マナの温泉』の元になるものだ。
その源にはこの星の『核』とつなげる特殊な魔道具が使われていると父王から聞いたことがあった。
その存在自体は秘匿されている。これも国王案件らしい。
『大聖人・光様』が最後に起こした『マナの暴走』を国王が封印した後、この源泉は枯れてしまったという。
今回はたまたま『彼女』の大浄化によって再びこの魔道具が起動して枯れていた源泉が再び流れるようになった。
湯船に入った瞬間、ビリビリと軽い電流のようなものが走った。不快ではないが、心地よいものではない。
おそらく『マナ』を生成できる、この星の人間である私達にとっては、それは不要なものなのだろう。
『彼女』に残された昨夜の痕はあっという間に消えてしまった。
湯に浸かりながら、『彼女』が目覚めるのを待つことにした。
湯が冷めそうになったら魔法によってちょうどいい湯加減に戻す。それを幾度か繰り返した後、彼女の黒く長い睫毛がピクピクと動き出した。
意識が戻ったのか、うっすらと瞼を開く『彼女』に安心させるように声をかける。
「これには『月の光』の源泉が入っているから、まだ浸かっていた方がいい。」
それに呼応したかのように『彼女』の瞼が再び閉じられた。
しばらくの間そうした後、『彼女』を再び抱いたまま、湯船から出る。
互いの身体に『火と風』の魔法をかけ、乾かし、真新しい部屋着を『彼女』に着せた。
ベッドの上で安心したような寝顔で眠る『彼女』を見つつ、寝室内に置かれたデスクで、ここ数日滞っていた領内の仕事を終わらせていく。
仕事が終わり、そろそろ『彼女』も目が覚めるだろう。
すぐに、『彼女』が食事ができるように食事の支度をすることにした。
その為に寝室から出ていた時『彼女』が目覚めたのだろう。ベッドから身を起こし、ベッドから出て窓際に移動していた。
窓を開けたいらしい。だが窓は開かない。
否、開かないようになっているのだ。
「開かないように結界が張られているんだ、ごめんね。『マナ欠乏症』を発症したハルカをそのまま外の世界には出せないからね。今、ルイスが色々準備しているから。準備ができれば出られるようになるから、少しだけ辛抱して欲しい」
食事を用意して寝室に入ってきた私の言葉に、残念そうな『彼女』。
『彼女』の為に作ってきたばかりの『食事』を勧めた。




