第一夫君レオンハルトの恋 13
なんて甘美なマナ。
齢六十も近いというのにこの星の女性とですらあれほど深くマナのやり取りもできないくらい自分たちの大量の魔力やマナにうんざりもし、恨めしくもあり、諦め切っていただけに…… 本当に奇跡だと思った。
物心ついてから王族だからと常に瘴気によって発生した魔物や魔獣征伐の最前線に立たされてきた。いつになったら終わりがくるのか、いつになったら『渡り人』がやってくるのか、否、そんなもの来ないんじゃないのかとそんな怒りにも近い感情の中で剣を奮い、全力で浄化を続けていた。
そんな時、空から光の柱が立って『彼女』が落ちてきた。
瘴気に覆い尽くされそうになっていたこの世界を光で満たす者。
自らの命と引き換えにこの世界を救う存在。
この星の礎になった『青の星』から落ちてきた『渡り人』、それが『彼女』だった。
容姿は二十歳そこそこに見えるのに、中身年齢は自分達と変わらないという『彼女』は、真摯に自分の置かれた状況を受け止め、自分達の手を取った。
不思議な女性。
この星の成婚の儀は古来に則ったものだ。
婚姻証明書は時の国王によって作られ互いの署名によって合意と見做し、制約魔法が同時にかけられる。
それによって互いの左手の手の甲を重ねると一対の聖樹の紋が刻印される。女性は幹や枝。男性は葉の部分が刻印される。これによって成婚の儀を経た者以外とのマナの交換ができなくなるのだ。
男性の葉の紋様は人によって全て異なる。この為、登録された以外の文様からは女性はマナを供給されることはできないのだ。
男性も同様に幹や枝を妻になる女性によって鍵をかけられることになる。それによって不貞行為そのものができなくなるのだ。
遠い昔、まだ『渡り人』がここに落ちてくる前は『青の嵐』が定期的に吹いた。そしてその嵐によって『青の星』と『白の星』の聖樹を刻印された少年少女たちは自分達のペアを早急に見つけなければ自分達の生命が尽きてしまう状況になったそうだ。『星の聖樹』の管理のために現在の王都が生まれ、その管理者として王族が生まれた。
『青の嵐』と止まってしまってもその名残で『成婚の儀』によって聖樹の誓いをするのが慣わしになっている。
そして口付けによって『マナ』の登録がされる。互いの魔力やマナの交換によって確実になる。
『彼女』の指に嵌めた指輪は本来はこの星の習慣ではなく、『渡り人』の星の習慣に倣って作られた儀式だ。
それを用いるのは『渡り人』との成婚の儀の時だけだ。
『渡り人』特に女性に送る時は相手の安全を守るための魔法をかけるし、
夫君側は『マナ欠乏症による影響を受けにくくする』特殊な魔法陣が組み込まれている。今回の場合も同様だ。
もしこれがなければ、もしかしたら『彼女』のマナに取り込まれていたかもしれない。
それほどの強い誘惑。いっそ狂気に近い激しい感情に身を任せてしまえたらと思うほど、『彼女』のマナの甘さが脳内を何度も何度も反芻していく。
落ち着かなければ、これじゃ今夜『彼女』を傷つけてしまう。
邪念を振り払うように頭を振る。
そんな自分を興味深そうに見ているクリストフに少しイラつきながら、
お前もすぐ同じようになるぞ、いつまで理性が持つかな。
思わず内心毒付いてしまった。




