保健室
ほんのりと暖かい白色光に部屋全体が照らされる。女の子が姉にちょっかいを出し、しっぺ返しに合った。
叩かれた頭が痛むのか、しゃがみ込み必死に頭をさすっているが、その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。痛みが引いたら、再びちょっかいを出し、また同じくだりが繰り返される。
同じことをしているだけなのに、先程より楽しく、笑いがより広がる。それを見ている母親も口ではダメでしょと言いつつ、微笑みを浮かべ姉妹のやり取りを眺めている。
ありきたりな家庭の一コマを夢見、現実の非情さがより強く少女を締め付ける。
二度とそれが手に入らなくてもそれをただひたすらに求めてしまう。たとえ全てが無駄だったとしても…。
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蛍光灯の鋭い光が瞼を超えて網膜を焼こうとする。不快感から逃れようと不覚醒な脳の命令でなんとか寝返りを打つ。
しかし、微睡んでいたいと下を向いたことがまた別の不快感を誘発する。
鼻先からうっすら消毒液の匂いが鼻孔を刺激し、意識が急速に覚醒へと向かう。まともに働いていなかった頭は瞬時に状況を把握しようと動き出す。もう、こうなってしまえば寝続けることはできない。
永遠に眠っていたいと懇願する体と精神を振り切り、脳だけは否応なしに、自分の体を叩き起す。
その刺激に体も反応を示し、上半身が布団から跳ね起きる。
「おー、奈美。おはよー。」
大分大きな欠伸をしながら、のんびりした声が室内に響く。
背中がじっとりと染み込んだ汗に不快感を感じる。
「――手紙は!?」
「奈美。落ち着け。ゆっくり深呼吸して。」
言われて初めて自分がまともに呼吸していなかったことに気づく。掠れた笛のようになっていた呼吸をなんとか落ち着かせる。強張っていた緊張がほぐれ、肩の力が抜ける。握りしめていた布団をはなす。
「落ち着いた?」
「うん。」
「嘘ね。」
先程のようなのんびりした様子はなく、真剣な黒よりの紫紺の瞳が結の体を強張らせる。
「奈美、体を落ち着いて見せても、目は誤魔化せてないよ。そんな怖い目されたら、嫌でも気になる。」
そんなはずはない。
肩の力も抜け、私の体は完全にリラックスしている。アピールするようにもう一度深呼吸する。
「手紙は?」
紫音の口から盛大なため息が漏れる。
「手の中。奈美、ずっと握りしめてたんだよ。先生が取り出そうとしてもピクリとも開かないし。」
握りしめていた手を開くと、手汗と血でシワシワになった紙切れが見える。
中身が見えなくとも、写真を思い出すだけで内からどす黒い感情が沸き立つのがわかる。
「奈美……。ハァーー。」
ベッドから降り、乱れていた制服を整える。手中の手紙を握りつぶし、保健室を出る。
向かう先は一年の教室。三階だ。
感情のままに体は突き動かされる。
紫音の漏らした一言にも今の結は気づかない。




