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汚染者  作者: 皇蝶々
4/11

いつも通り 3


 列車が減速し、ホームにゆっくりと進入する。

ドアが開き、ホームの騒がしさが列車内にも響く。日も大分上がり、陽気な日差しが駅を包み込む。


 「ん―――!よく寝た!」


 全身で伸びをし、紫音は日の光を全身で堪能する。陽気の中に吹き抜ける冷たい風が紫音の脳を覚醒させる。

 

 「爆睡してたもんね。」


 結局、小那原駅から学校の最寄り駅まで紫音はずっと寝ていた。いつものことながら、あそこまで寝ていられることには感心してしまう。


 「奈美も最後の方は寝てたじゃん。」

 「一駅分だけだし。」

 「一駅寝たなら十分よ!」

 「ウソつけ。」


 波のように人が出入りし、階段まで押し流される。半分ほどが学生で、騒がしさがホームを包む。自分の学校の生徒も多く、見慣れた制服が目立つ。

 なされるがままに階段を登り、改札を出る。いくつかの店が開店しており、いい香りが既に充満し始めている。


 「あのワッフル美味しそう。」


 匂いに釣られ紫音が人の波に逆らいつつもワッフル店に引きずられていく。

この人並みを逆走するのは結構に骨が折れる。もろともせずに進む紫音においてかれまいとなんとか人波を抜ける。

 紫音は既に食い入るようにケースを見ている。店員の方も微笑んではいるが、若干引いたような目をしている。こんな朝一にワッフルにへばりつくJKというのは結構珍しいのだろう。


 「新商品?」

 「そうじゃない?先週はあんなのなかったし。それにしても、何て芳しいのだ!どっちにすべきか。どっちがいいと思う?」


 紫音の目先にあるのは、キャメルストロベリーチョコワッフルとキャメルデコポンワッフル。カタカナばかりで正直読みにくい。どちらも季節限定品で、他のものに比べると圧倒的に高い。


 「選ぶとしたら、キャラメルストロベリーチョコワッフル。」


 こっちの方が贅沢な気がする。それに、柑橘系よりは苺のほうがいい。あの酸味がなんとなく得意ではない。


 「ふむふむ。なら私はデコポンの方にしようかな。一口あげるし、一口頂戴ね。」

 「かしこまりー。」


 それぞれ、ワッフルを買い、店を離れる。途中熱々のワッフルにかじりつく。熱々なところが逆に苺とよく合っている。キャラメルとチョコの甘さも合って癖になりそうな味をしている。チョコが溶けているのがなお良い。


 「これ、美味しい!デコポンの酸味とキャラメルの濃厚な甘さがハーモニーを奏でているよ!」

 「どんな表現。一言で?」

 「美味い!」

 「そだね。一口ちょうだい。」


 差し出されたデコポンワッフルにかぶりつく。


 「あー!そんな大きく持ってかないでー。」


 確かに美味しい。酸味は結構しているがそれも気にならない。逆にその酸味がいい。紫音の食レポは完璧だったと言える。でも、個人的には苺の方が好みだ。


 「ん。同じぐらいかじって良いから。」

 

 紫音の顔が一気に明るくなった。かぶりつかれる直前に少しだけワッフルを手前に引く。おかげで、かぶりつかれる量を小さくできた。

 何か文句のようなものが響いているが、それはきっと気のせいだ。


 このワッフル予想より結構大きく、食べるのには時間がかかった。

 今更だが、買うつもりもなかったし、買うのを止めるつもりだったのに、紫音にあっさりとながされてしまった。まあ、美味しかったし良しだろう。


 人波も一段落つき、人の量は少し落ち着いた。東口から構内を出て、ビル通りに出る。ビル通りから少しずれた場所に位置する商店街の方を通り、学校へ向かう。ビル街の方はなんとなくむさ苦しい。

 

 途中紫音がカフェにいきなり入ろうとするのをなんとか止めることには成功した。しかし、紫音の買い食いは止められなかった。朝から一体どれだけ食うのか。財布も胃も容量がおかしい。

 そのせいもあって、なんだかんだ学校につくのは予想よりだいぶ遅くなった。

 校舎前の通りまで着くと、学生が一気に増えた。普通は駅から校舎まで続くこの通りを行くのだが、私達はいつも少し遠回りして通っている。


 桜も大半が散っており、学校周りは緑が大分多くなってきた。

 正門を抜け、下駄箱で履き替え、教室に向かう。4階建て校舎で、運悪くも自分達の教室は最上階の奥から2つ目。下駄箱からは最も遠いと言える。

 重い足取りで階段をなんとか登りきり、延々と続く教室前廊下を進む。この時間になると廊下も少し賑わっている。


 横開け式の扉をスライドさせ、教室に入る。

 一瞬目線が集まるがすぐに元の賑わいに戻る。教室の一番奥の列の最前席までいく。まだ列は名簿順で、名字的にたいていは名簿は最初だ。そのせいで年始めはいつも一番前だ。一組で一番のときほど最悪なことはない。今年は10組のおかげで、何かの初めになることはない。


 鞄を机に放置し、紫音の席まで行く。中央の列の最後尾の席だ。羨ましい限りだ。席替えのくじ運が良くなければ絶対になれない席だ。

 空いている隣の席を勝手に借りて座る。


 「おっはよー!つなっち。」


 借りた席の前から朝から陽気な挨拶が響く。


 「おはよう。この席羨ましいよー。私じゃ絶対なれないもん。」

 「フッフッフー。羨むがいい羨むがいい!私の席は絶対に譲らん。」

 

 ワッハッハとどこぞの悪役だというように笑っている頬をつまみ、ひっぱり上げてやる。


 いひゃい、いひゃいです!と何か言っているが気にせず引っ張る。この柔らかい頬を引きちぎってやろうか。


 「そのへんにしとけよー奈美。凛のほっぺ真っ赤だよ。」

 

 紫音のストップに従い、一旦凛の頬を開放してやる。

 ホントだ。確かに真っ赤だ。りんごみたいでこれはこれでかわいい。小さい顔と体に相まって更に良き。


 「痛いよ!もう。絶対ほっぺ真っ赤だし!」

 「大丈夫大丈夫。かわいいよー。」

 

 ホント、とすぐに機嫌を治すあたりなんともチョロい。しかし、まだヒリヒリとはしているのか、少し頬をさすっている。そんなかわいい頬を揉んでやる。

 柔らかい。これはこれで至福の一時である。


 


 



 


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