いつも通り 2
空気が冷たいことを除けば陽気と言う言葉が一番合いそうな天気だ。雲はほとんどなく、風もそよ風程度だ。それも相まって寒いのは少々残念だ。
ゴミ捨て場を離れ、駅に向かう。
住宅街を小走りでぬける。1つ目の交差点を左に曲がり、川沿いを進むように右折する。コンビニを通り過ぎ、川沿いをひたすら真っすぐに進む。
途中から、完全な田んぼ道に変わる。今の時期だと少々臭い。泥臭い匂いが鼻を刺激するのが気持ち悪くて仕方がない。少しペースを上げ早々に田んぼから離れる。
田んぼを抜けた先の橋で川を越え、また川沿いに進む。そのまま行くと大通りにぶつかる。
後は大通り沿いに行けば駅に着く。
商店街を抜けると、点々と建ち並ぶ小さいビルが見え始める。ここまでくれば駅もすぐだ。
駅に来るたびに田舎だなと実感させられる。駅周りがこの街では一番都会だ。朝の通勤時間でも十数人しかいない。はっきり言って閑散としている。
構内に入りコンビニに寄る。
今日の分のおやつを選ばなければならない。
結構な時間をおやつ選びにかけたが結局いつも通りのおやつになってしまった。
生クリームプリンとポッキー。この2つに並ぶおやつはない。断言できる。
電車が来るまではそこそに時間が余った。ホームにいるのも寒いので温室で待つことにした。
良い具合に暖房が効いている。
先客が一人いた。普段は見かけない顔だ。田舎のせいか駅で見かける人は毎度同じだ。
小綺麗なスーツを着ており、銀のスーツケースを携えている。出張でもあるのかもしれない。
『間もなく、2番線に電車が参ります。黄色い線の内側に下がって、お待ちください。』
機械音声と独特な音楽が電車の到着を告げる。温室を抜け、いつもの場所に向かう。
さっきの人は温室にいるままだ。次の新快速にでも乗るのだろう。
6両の車両が景気よくホームに入ってくる。
後ろから2両目前側のドアから入り、前から3列目、線路向かいの窓側の席に座る。
ここが私の特等席だ。1年の時からずっとここに座っている。
一つ前の駅が始発で、そこも田舎町だ。おかげでこの席はいつも空いている。
鞄を隣の席に置き、しばらくの間外を眺める。
飽きてきたら英単語帳をめくる。以前は寝る直前にしていたが、電車の中でした方が効率がいい。
垂れてきた髪を時々直しながらページを進める。一週間続ければある程度は覚えられる。
『次は小那原、小那原です。Next Station is Onawara.―――――――――――』
いつの間にかここまで来ていた。この駅では車両の連結が行われる。そのおかげでこの駅は停車時間が長い。
そろそろ来る頃だろう。
「奈美、おはよう〜。」
「おはよう、紫音。」
隣の鞄を自分の足元にどけ席を開ける。よいしょと鞄を上に置き、隣に紫音が座る。
「そのよいしょって言うのやめなよ。婆臭い。」
「えー、いいじゃん。婆臭くて。本当に重いんだよ、この鞄。持ってみる?」
「いや、いい。」
立ち上がってわざわざ下ろそうとする紫音を止め、とっとと座るよう促す。
先程よりは軽そうだが、結局よいしょと言いながら腰を重そうに下ろす。
「そう?奈美もいつかわかるよ。よいしょって言わないと動けなくなるから。」
「私は絶対に言わない。」
即座に否定しておく。そんな婆臭いのはごめんだ。
「無理無理。抗うだけ無駄だよ。欲望のままに堕落するんだよ〜。」
「私は、ならない!」
「アハハ。頑固だねー。」
頑固というよりもプライドだ。いつまでも美しく元気に。
女子高生の話題は絶えない。
「今週の分もう覚えれた?」
「シスタム英単語?」
「そうシスタン。」
「まだ半分ぐらい。」
「もう半分!私なんてまだ見てもないのに。」
「明日だよ?」
「えー、ヤバいじゃん、私。明日?」
「うん。明日。」
「いつも金曜日じゃん。なんだって今週は違うのさー。」
ヤバいと言いつつも別段焦りを感じさせず、のんびりとしている。それに紫音なら明日だろうと大丈夫だろう。
「先生来れないから早めるって、先週言ってたよ。」
「まじか。多分私寝てたわ。」
「寝るなって。」
「いやいや。あの誘惑に抗える奈美がすごいんだよ。みんなぐっすりよ。」
確かに寝ている人は多い。見える範囲でも四分の一以上は寝ている。後ろを含めれば相当なものだろう。
なぜ授業中に寝るのか全く理解できない。わざわざ放課後に塾に行くぐらいならば、授業内で全て終わらせた方が断然楽で効率もいい。
「私寝れないし。一回起きたらなかなか寝れない。すぐ寝れる紫音が羨ましい。」
「いいことないよー。すぐ寝てすぐ怒られるし。」
「自業自得」
「えー!そんなこと言わないで。」
「ま、ガンバ。」
「薄情な。」
「薄情で結構。」
何気ない冗談のやり取りが楽しい。ぼやく紫音をそのままにし、英単語を覚え直す。
『2番線 普通 東京行き まもなく発車します。閉まるドアにご注意ください。』
警笛が鳴り響き、列車が動き出す。少しずつ加速していく感覚が心地良い。
眠気を誘われ、そのまま寝落ちしたくなる。風景も田園から住宅街にいつの間にか移り変わっている。
紫音は完全に爆睡している。呑気なのか、天然なのか。どちらにしても飽きない。
寝ている紫音を弄ってみる。頬を突けば柔らかく、撫でれば気持ちよさそうな顔をする。鼻をつまめば呻き出す。
起こしても悪いのでそれぐらいにしておく。
外の住宅街も今やビル群のど真ん中を突っ切っている。一駅でここまで景色が変わるのは珍しい方だろう。
車内放送が入り、列車次第に減速していった。




